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8章79話 夢物語

 ゴーヴィンダ王子とマラバルマン王子は同盟を組み、契約書に記す。

 その後、彼らは同盟を祝うため、彼らは宮殿で晩餐会を行った。

 「では、アクランダ朝とパーンドゥ朝の同盟を祝して、乾杯。」

 二人の王子は、杯に入れられた米と麹のお酒チャンを乾杯し、ぐびっと喉に流し込む。

 この南方ではあまり飲酒の文化は無いが、王族たちに限って、祝いの時にのみ飲むらしい。

 彼らがほんの少し酔いが回ったところで、マラバルマン王子はゴーヴィンダ王子に話しかける。

 「いやー、実は私としても、貴国と同盟を結ぶことは大変嬉しかった。というのも、いずれ南方全体で連合を築きたいと思っている。」

 彼は砕けた言い方で、ゴーヴィンダ王子の顔を窺うように見ながら、語り掛ける。

 「…連合?」

 だが、ゴーヴィンダ王子は、マラバルマン王子の出た一単語に引っ掛かり、戸惑いの表情を見せる。

 「確かに、同盟に協力的なのはありがたい。だが、連合となると、国民は混乱するだろう。今まで同盟すらも結ばなかった国同士が、いきなり連合をしてしまうのだから。それに、貴国に申し訳ないが、我が国民の中にはトラミラ民族への偏見を持つ者もいる。それを考えると、連合はあまりに急進的すぎて、一旦保留にしていただきたい。」

 ゴーヴィンダ王子は南方全体での大同盟を結成したいが、どうやら連合までの強い結びつきには抵抗感を覚えるようだ。確かに、民族も宗教も文化も複雑な南方では、統一するのは難しいのかもしれない。

 ゴーヴィンダ王子は軽く頭を下げると、マラバルマン王子も頭を下げる。

 「承知した。こちらこそ、急な申し出で申し訳ない。」

 お互いに顔を上げ、ゴーヴィンダ王子はマラバルマン王子に質問をする。

 「ちなみに、そう考えるに至った意図を教えていただけないだろうか。」

 ゴーヴィンダ王子がそう尋ねると、マラバルマン王子は問いかけに答える。

 「そうですね。やはりゴーヴィンダ王子同様、現状と南方の未来を考えてだろうか。この南方の地は、多くの大国に挟まれている。その上、この南方各国で争っている現状では、これ以上の発展は望めない。だから、私としては、この南方の地をいずれ統一させたいと考えている。」

 マラバルマン王子が夢を語った後、少しの沈黙ができる。ゴーヴィンダ王子は大きく反応せず、飲み物に口をつける。

 「…酔い過ぎだ。今のは聞かなかったことにしよう。一歩間違えれば、他国から反感を買いかねない。たとえ我らの国が連合したとして、その他の南方の地が同盟を結んで攻められれば、我々は終わりだ。南方の地でも栄えている方の我らでも、敗北を喫するだろう。その夢物語は胸にしまっておくのだな。」

 ゴーヴィンダ王子は少し刺々(とげとげ)しい言葉で、突き放すように諭す。

 だが、マラバルマン王子はそれに(おく)さず、諦めずに話を続ける。

 「ならば、今以上に軍事力を格段に増せば問題ないのかな?」

 マラバルマン王子はゴーヴィンダ王子を試すように、微笑みながら問いかける。

 ゴーヴィンダ王子はやれやれと額に手を当て、頭を振る。

 「そういう問題ではないのだが…。まあ、その保証があれば、まだ貴方の言うことは信頼性が増すかもしれない。」

 マラバルマン王子はその言葉を待っていたかのように、ゴーヴィンダ王子のその言葉を聞き、ニヤリと笑みを浮かべる。

 「…その可能性があるかもしれないんだ。」

 「何?」

 ゴーヴィンダ王子がマラバルマン王子の話に食いつく。

 マラバルマン王子はその可能性についての話をする。

 マラバルマン王子曰く、ここから東の半島に、港市国家連合のマジャ帝国があるという。そこは蜥蜴の獣人(リザードマン)の国で、海運業や漁業を中心に栄えている。そして、その国は、この南方の文化にかなり影響を受けており、宗教もこの南方の色が強い。元々の土着信仰と仏教やブラフマン教を混ぜ合わせた宗教を信仰している。それもその筈、過去にマジャ帝国が建国される際に、このパーンドゥ朝が協力したからだとの話だ。

 パーンドゥ朝は歴史が南方の各王朝に比べてかなり長く、歴史書にそう書かれていたという。さらに、両国間で交易も長く続いているという。それらの事実を知っていたマラバルマン王子は、マジャ帝国がパーンドゥ朝に協力してくれるのではないかと思っているようだ。

 「なるほど。そういった関係性があるのか。まあ、そんなにとんとん拍子に上手くいくかは、分からないが。」

 ゴーヴィンダ王子が現実的なことを言うが、

 「まあ、でも、可能性が少しでもある以上、私はその夢に賭けてみたい。それに、人狼の討伐にも協力してくれるかもしれない。」

とマラバルマン王子はあくまで夢を追いかける姿勢を崩さない。

 「だが、夢物語の構築で、貴方にご足労をかけるわけにはいかない。マジャ帝国との交渉は私が行こう。あなたは、本来の目的のマハーラージャ大同盟に向けて、他国へ交渉をお願いしたい。」

 マラバルマン王子はゴーヴィンダ王子にそう頼むと、

 「まあ、私は本来の目的で動けるし、それならいいだろう。了解した。」

と返答をする。

 彼らはそれぞれの目的に向かって準備していると、ヴォルティモがうずうずと何か落ち着かない様子だった。

 彼の様子を見て、

 「君たちはどうする?先ほど言ってたように、私の護衛を続けるか?」

とゴーヴィンダ王子がグローたちに尋ねる。

 その言葉を聞き、ヴォルティモはマラバルマン王子の前で跪き、

 「私も付いていってもよろしいでしょうか。」

と王子に向かって申し出た。彼もマラバルマン王子の夢物語に賭けてみたくなったのだろう。

 マラバルマン王子は一瞬だけ眉を顰めるが、そのヴォルティモの真剣な表情とマリアという信頼のあるタグで、ヴォルティモの希望を承諾する。

 「…まあ、いいだろう。」

 「ありがとうございます。」

 王子の許可が出ると、ヴォルティモはグローたちの方に振り向く。

 「ごめん、そういう訳だ。皆はゴーヴィンダ王子の護衛を頼んだ。俺は一人でマラバルマン王子に付いていこうと思う。」

 ヴォルティモはグローたちに向かってそう言う。

 「また会えるよな?」

 グローが心配そうに尋ねると、

 「勿論!」

とヴォルティモは笑顔でそう返す。

 こうして、ヴォルティモはマラバルマン王子たちと共にマジャ帝国へ向かい、彼を除いたグローたちはゴーヴィンダ王子と共に北へと向かう。しばらくの間、別々で行動することになった。



 ヴォルティモはマラバルマン王子や使者たちと共に、そのマジャ帝国へ船で向かう。

 季節風が吹き、船は順調に進んでいたが、ヴォルティモは少し体調が良くなさそうだった。ヴォルティモは久々の船旅で船酔いがじわじわと押し寄せていた。

 「うっ。」

 度々、胃から何かが逆流しそうになる。

 「おいおい、そんなんで大丈夫かよ。」

 マラバルマン王子付きの近衛兵が、ヴォルティモの背中を擦る。

 「…ありがとうございます。」

 「そういえば、君はなぜこっちに付いてきたんだ?」

 兵士がヴォルティモの気を紛らわせようと、気になっていたことを尋ねる。

 「あー、実は自分は、祖先がこの南方出身だったので、この南方の行く末が見たくて。それに、マラバルマン王子の夢みる先の世界が見てみたくて。」

 ヴォルティモがそう答えると、

 「そうだったのか。」

と目を丸くする。

 「まあ、夢物語と言われればそれまでだけど。やっぱり見てみたいよな、王子の夢みる先の世界を。」

 「ええ。」

 話をしていると、ほんの少しだけ気が紛れ、船酔いが若干弱くなる。

 そんなこんなで、海で一週間程度航海すると、多数の島と船が見えてきた。船の上には、商品らしき荷物と三角錐型の笠を被っているリザードマンの姿が見える。

 マジャ帝国は元々港を中心に栄えた複数の港市国家で構成された国だ。

 現在、マジャ帝国を支配するリザードマンは元々、獣人種族の華夏帝国に住んでいた。だが、リザードマンは華夏帝国の最南部から独立し、さらに南の土着の獣人による複数の港市国家を併合して、マジャ帝国を建国した。そして、華夏帝国のリザードマンと土着のバジャウ民族というワニや亀などの獣人との混血が進み、今のマジャ人ができたという。バジャウ民族は水中に長く深く潜ることができ、元々水生でなかったリザードマンも水生へと適応したという。

 だが、ここで一つの疑問が生まれる。華夏帝国の領土は広大で、人口、経済、食糧、兵力、どれを取っても他国を勝るくらいの大国だ。それほどかなりの大国にも関わらず、なぜマジャ帝国が独立を手にできたのか。その答えは、マジャ帝国がレッサー(Lesser)ドラゴン(Dragon)の家畜化に成功したことが大きいという。レッサードラゴンといえどドラゴンなので、飛行部隊を結成でき、華夏帝国と善戦したという。だが、それでもやはり華夏帝国は手強(てごわ)く、苦戦したときもあったという。その時、ある地域のとても苦いマジャの実(ベルノキ)を食べて、この苦痛を忘れないようにしたという。これを東方の言葉で臥薪嘗胆という。このマジャ帝国という名前から、その時の苦痛が伝わってくる。

 マジャ帝国内の一つの島内の港町に着く。ここはペリンバンという大きな港町だ。ペリンバンの港には、ダウ船やジャンク船が数隻もあり、交易品を運んだりしている。華夏帝国から陶磁器や茶葉や絹、パーンドゥ朝から香辛料や綿や鉱物、アラッバス朝からガラス製品など様々だ。他にも、漁で獲れた水産物やゴム、ココナッツ、香辛料などが売られている。さすが海運業で栄えているだけある。

 ここが味方になれば、パーンドゥ朝にとって物凄い利益だろう。こことの交渉によって南方の未来が決まる。


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