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8章77話 本性はどちらか

 グローたちは森を出てしばらく歩くと、向こうに綺麗な海と港町が見えてきた。この港町はマジャ帝国やパーンディヤ朝との交易をしているからか、様々な品物が揃えられている。

 彼らは港町に売られている品物を少し見ていると、いきなり港町にぞろぞろと輩がやってきた。その輩は顔や体に傷があり、まさにゴロツキと呼ばれるような奴らだった。

 そのゴロツキの集団を見て、街の住民たちは、

 「と、盗賊だー!」

と大声で街全体に知らせる。

 街の人は盗賊にビビり、一目散に避難しようとする。

 「あたしらはプーラン盗賊団だ!大人しくしてれば、殺すのは見逃してやる。」

 盗賊団の先頭にいた人物がそう言うと、街にいた黒めの肌の人々だけ歓声を上げる。盗賊団の先頭にいた人物は、赤い布で頭や体全体を覆っていた。ただ、動きやすさから下穿きを身に付けているが、顔立ちや格好からして分かった。この盗賊団の首領は女性だ。

 「あの女はプーランといい、大きな盗賊団を束ねている首領だ。」

 王子付きの兵士が、盗賊団の女性を指さし、グローたちにこそっと伝える。

 「なぜ盗賊なのに、あんなに喜ばれているんですか?」

 ヴォルティモが気になり、そう尋ねると、兵士はチッと舌打ちをする。ヴォルティモは舌打ちにビクッと驚き、まずいことを聞いたかとヒヤヒヤする。だが、返答を聞くと、どうやらヴォルティモというより、盗賊団への舌打ちだったようだ。

 「このプーランが束ねるプーラン盗賊団は、身分の高い者から金品や価値のある物を強奪し、一部を身分の低い者に分けている。それゆえ、身分の低い者たちからは、義賊として人気を博している。さらに、この盗賊団は人攫いをしないことでも有名だから、それも人気の理由の一つだそうだ。忌々しい…。薄汚い盗賊には変わりない。」

と兵士は憎しみがこもったような言い方で返答する。

 「な、なるほど。」

 盗賊が首領プーランの下で動き出そうとすると、この港町を管理している領主が私兵を連れて現れる。

 「この薄汚い賊め。好き勝手させんぞ。」

 領主が盗賊を見るや否や、蔑んだ目で彼らを睨む。そして、領主がふとグローたちの方を見ると、口を大きく開ける。

 「ゴーヴィンダ王子!なぜここに!?」

 領主がゴーヴィンダ王子を見て、目を丸くする。

 「ちょっと野暮用だ。今はそんなことより、盗賊を討伐することに集中しろ。」

 王子は領主にそう命令すると、

 「ハッ!」

と領主が威勢よく答える。

 「お前ら、王子をお守りしつつ、奴らを討伐しろ!」

 「ハッ!」

 領主が私兵に命令し、私兵は盗賊に向かっていく。

 「首領、あいつらが例の馬車の奴です。」

 プーランの傍にいた盗賊が、ゴーヴィンダ王子の馬車を指さして、こそっと彼女に伝える。

 「へえ、あいつらか。王族なら金もたんまりあることだろうよ。」

 彼女はニヤリと笑いながら、そう言う。

 「おい、お前ら、あそこにあたしらの憎き王族がいる!あいつをまず襲え!」

 彼女が命令すると、盗賊たちはゴーヴィンダ王子の方へと向かっていく。 

 「王子、ここは危険です。後ろに下がってください。」

 領主が王子を庇うように前に立ち、盗賊に対峙する。

 王子付きの兵士や領主の私兵が、次々に盗賊と剣を交える中、グローがプーランの許へ走っていく。彼はプーランに向けて、横なぎに剣で攻撃を仕掛けるが、彼女は見切っていたのか、剣で受け止める。

 「甘いな。」

 彼女はそう言い、自身の懐に手を伸ばす。彼女の懐からキラリと何かが光を反射する。

 そのことにグローは何かを察し、すぐさま体全体を半歩横にずれる。そして、彼の予想通り、短剣が彼の方に向かって飛んできた。だが、彼は先に気づくことができたため、短剣を避けることができた。

 だが、彼女の本当の狙いはそこではなかった。彼が短剣に気を逸らしている間、彼女は彼に接近していた。そして、長剣を横なぎに振ってきた。

 彼は長剣に気づき、咄嗟に後ろに下がるが、気づくのが遅く、胸に切り傷を作ってしまう。

 彼女はさらに追い打ちをかけるように、グローの腹を足で蹴る。

 「グッ!」

 彼は彼女の蹴りで軽く吹っ飛ばされてしまう。やはり戦い慣れているだけある。

 彼女は隙を与えないように、吹っ飛ばされたグローに走って接近してくる。

 だが、彼もやられているばかりではない。

 彼女が彼のすぐ目の前まで近づくと、

 「妖精の飛行」

と呟き、回転をかけて剣を振る。すると、彼の斬撃が、プーランの持っている剣をへし折り、真っ二つにしてしまう。

 彼女の剣は折られ、もはや剣として機能しない。だが、彼女の戦意は未だ折られていなかった。その折られた剣でグローを刺そうとしてくる。

 グローは彼女の攻撃をスラリと避け、彼女の背中に回る。そして、彼女を背中から押し倒し、腕を後ろで固め、身動きできないようにさせる。

 「や、やめろ!触るな!」

 彼女は、グローが体に触れることをひどく拒絶する。

 だが、彼はその腕を手放すわけにはいかない。

 「こっちは捕らえました!」

 グローが兵士たちに向かってそう言うと、一人の兵士が縄を持って彼らに近づく。

 兵士がプーランを縄で縛ろうとすると、彼女は、

 「触るな!」

とひどく拒絶する。

 「この盗賊風情が。偉そうにしやがって。」

 兵士はプーランの反抗的な態度にイラッと来る。兵士は無理やりプーランの腕を掴み、縄で括る。

 「お前らに何が分かる。王宮でぬくぬく育った世間知らずがよ。」

 プーランは縄で縛られようとも、反抗的な態度を止めない。



 分かるわけがない、こんな奴らに。

 あたしはごく普通の村で生まれ育った。そこで、平民以上の身分の男で生まれれば、多分こんな人生にはならなかっただろう。でも、あたしは低い身分(シュードラ)の女として生まれてしまった。

 この南方では、厳しい身分制度だけでなく、女性差別もかなり根強い。

 南方では一般的に女性は父に尽くし、旦那に尽くし、旦那の死には一緒に死ななければならないというように、女性は男性がいて初めて成り立つのだと考えられている。

 身分も低く、女性であるあたしは最も立場が低かった。

 だから、あたしはしばしば平民以上の身分の人たちにいじめられていた。

 「おい、ブサイク女。お前、いつ村を出るんだよ。」

 数人の男子たちがあたしに野次を飛ばし、ゲラゲラと笑う。

 あたしは相手にするだけ無駄だと思い、無視を決め込んでいた。

 だが、その態度が気に喰わなかったのか、男たちはチッと舌打ちをする。

 そして、ある日、そのクソ野郎どもにあたしは強姦された。

 「やめて!」

 男たちは、あたしが泣き叫んでも止めてはくれなかった。

 「うるせえ。誰もお前みたいなのを助けるわけないだろ。」

 男たちはあたしの口を手で塞ぎ、無理やり乱暴する。


 ―数分後

 「ふう。良かったな。お前でも役に立てたじゃねえか。」

 あたしは痛さと絶望に打ちひしがれ、しばらく動けなかった。目から涙が流れ、地面にポツポツと零れる。

 あたしはそこで復讐を誓った。こいつら全員殺してやると。

 あたしはその後、武器を手に取り、多くの男どもを殺戮していった。そのことを評価され、ある盗賊団に認められた。そこから盗賊として、第二の人生を歩むことになった。



 プーランが縄で縛られ、徐々に他の盗賊団員も殺され、捕まっていく。

 盗賊団がどんどん崩壊していく様子を見て、王子は、

 「ふん、無様だな。」

とプーランを煽る。王子は思慮深く、他民族に偏見が無いとはいえ、さすがに盗賊たちには容赦が無いのだろう。彼女はその言葉に反応し、キッと王子を睨む。

 「黙れ!何も知らないくせに!」

 「もういい。やってしまえ。」

 王子がそう言うと、隣にいた兵士はコクリと頷き、プーランの背中を長剣で深く斬りつける。

 プーランは背中を斬られて、血飛沫が飛ぶ。背中には深い傷ができ、そこから血がドクドクと流れる。もうこの出血量では助からないだろう。

 「…ぜ…いん…ころ…や…。」

 彼女が最後の力を振り絞って、ブツブツと呟く。だが、数分経つと、目は白目を剥き、顔面が青白くなっていく。

 「死んだか。」

 兵士がそう言うと、突然、黒い塵が現れ、彼女の亡骸を取り巻く。黒い塵はモゾモゾと動き、何かを形成しているようだ。そして、その黒い塵は徐々に色づいていき、一体の魔物を出現させる。スンダル=ボロンだ。

 スンダル=ボロンは背中に深い傷があり、内臓がその隙間から垣間見える。

 「…ゼン…イン…コロ…シテヤル」

 スンダル=ボロンはブツブツと何かを呟き、兵士を襲いにかかる。

 「本性を現したな。どうやらプーランの正体は、スンダル=ボロンだったようだな。」

 王子や兵士はそう言うが、グローはそうは思えなかった。スンダル=ボロンがプーランに化けていたというより、プーランがスンダル=ボロンに変貌したように見えた。

 ―どういうことだ…。

 だが、今はそんなことを考えている暇は無かった。

 スンダル=ボロンは兵士の許へ猛スピードで走っていく。

 「く、来るな。」

 兵士が、速いスピードで接近してくるスンダル=ボロンに向けて、剣を横なぎに振る。だが、大振りになってしまい、スンダル=ボロンは潜るようにして避ける。そして、兵士の喉元を鋭い爪で引っ搔く。兵士は喉を深く(えぐ)られ、血がドクドクと流れる。そのまま兵士はバタッと膝から崩れ落ちる。

 奴は他の兵士に向かって走っていくが、その隙にマリアがスンダル=ボロンのがら空きの背中に向けて、槍を突き刺す。槍は中の内臓にダイレクトに当たり、奴は口から血反吐を吐く。奴の血色悪い顔色は、一層青白くなっていく。これで、もう奴には戦力も戦意も残っていないだろう。誰しもがそう思ったが、

 「…コ…ロ…シ…テ…ヤ。」

とスンダル=ボロンは未だ戦意が残っていた。

 だが、さすがに出血も酷く、奴の手足から力が抜けていく。

 「…コ…ロ…。」

 奴は最後まで殺意を露わにしたまま力尽き、とうとう体が黒い塵と化す。その対象が人間なのか、誰なのか分からないが、何者かに対しての殺意や執着はすさまじいものだった。

 「そんな首領が魔物だったなんて…。」

 捕らわれている盗賊たちは、自分たちの首領が魔物だったことに驚きを隠せず、恐怖している。

 ―本当にそうなのだろうか。魔物が人間に化けていた、そんな単純な話だろうか。

 グローたちは戸惑いがありつつも、プーランひいてはスンダル=ボロンの遺体を埋葬する。

 彼らは今回の弔いを、いつもより一層強く祈った。

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