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8章71話 思惑が交錯する

 人狼の集団は北西から東へと侵攻していき、次々に街を占領していった。

 その人狼に占領された街にて、二人の人物が話していた。一人はこの度、人狼を扇動している黒いローブの人だ。だが、その隣には今まで見かけたことのない人物が佇んでいた。黒いローブを着ている人の隣には、絶世の美女がいた。その女性の肌は透き通るくらい白く、目はぱっちりと大きく、鼻は若干高く、全てが整っていた。さらに、その女性は美しい(かんざし)と美しい刺繍の服を身に付けているもんだから、余計に美しさに拍車がかかっていた。

 「じゃ、私はここで戻ります。」

 美女が黒いローブの人にそう伝えると、

 「ああ、ここからは俺たちのみで行く。」

とローブの人は頷く。

 「成功を祈っているわ。」

 女性がローブの人にそう言い残し、

 「(Dance) (of) 舞踏(Death)

と唱える。すると、地面からボコボコと複数のスケルトンやゾンビが出てくる。さらに、バラバラになっていた骨は組み合わさり、一つの玉座を構成する。

 彼女はその骨でできている不気味な玉座に座る。

 そして、生み出されたスケルトンやゾンビは女性の許に集まり、彼女を持ち上げるように担ぐ。そのままスケルトンたちは、彼女を人狼の侵攻方向とは別の方向へ運んでいった。

 ローブの人は、彼女を遠くから見送る。そして、地平線に消えて見えなくなると、ローブの人は、

 「よし、そろそろ次の街へ向かおう。」

と人狼を扇動する。

 人狼はローブの人に従い、次の砦や街を目指した。



 人狼たちは暑い暑い砂漠の道を進む。汗を流せる人間とは違い、体の熱を逃がす方法が呼吸しかない人狼にとっては、この砂漠の道はとても辛いものであった。そのため、彼らには、オアシスなどの水を確保することが、第一優先だった。それによって、戦況が左右するほどに。

 「…暑い。」

 一部の人狼が舌を出し、ぜえぜえと荒い息をたてる。一応、水筒には水があるが、この先を考えると、無暗にがぶがぶと飲めるわけなかった。

 その隊列が乱れた様子を見て、体が一際大きい人狼が、

 「おい、気を引き締めろ。あと、もう少しだから、次の街まで我慢しろ。」

と注意する。

 「で、でもよ、兄貴。俺らにとって、この砂漠はきついぜ。」

 「そうだぜ。このままじゃ、干からびちまうよ。」

 一部の人狼が不平不満を言うと、大きい人狼が、

 「黙れ。これが南方までの最短ルートなんだ。」

と諭しても、一部の人狼は、

 「そりゃ、イフリートや人間は大丈夫かもしれないけどよ。」

と兄貴の諭しを無視して、不満を言い続ける。

 兄貴はその発言を聞き、

 「お前ら、殺されたいのか。」

と人狼たちを脅す。

 だが、不満を垂れ流す人狼たちは、

 「兄貴が殺すわけないじゃないっすか。」

 「そうだ。口は悪いけど、兄貴は優しい。」

と笑う。

 「いや、俺じゃない。あの方にだ。」

 兄貴的な人狼は、彼らにこそっと、そう言いながら、ローブの人を恐る恐る指さす。

 だが、恐れ知らずな人狼たちは、

 「いや、兄貴ぐらいの強さだったら、勝てるでしょ。」

と声を小さくすることもなく、堂々と発言する。

 兄貴は、その無謀な発言を聞き、そのことを言った人狼の頭をボカっと強めに殴る。

 「いってえ!」

 無謀な人狼が痛がると、兄貴は、

 「馬鹿野郎!あの方は、俺なんかより余程強い。」

と怒鳴って注意する。

 そのことを聞き、

 「え、そうなんすか?」

と無謀な人狼は驚く。

 兄貴は、無謀な彼らにこそっと話し始める。

 「ああ。ここだけの話だが。あの方は今でこそ体も小さく、か弱い人間のような姿をしているが、力を出せば、たちまち天にまで届きそうなくらい大きい狼へと変貌するのだ。さらに、今の人間の姿だって、元々狼の姿だったのが、幾人もの人間を食べて、変身できた結果なのだ。お前らも食われてしまうぞ。」

と彼らを怖がらせる。

 それを聞いた人狼たちは、さすがにビビッてしまい、黙り込んでしまう。

 その様子を見て、兄貴的な人狼はホッと安堵し、隊列を再び整える。

 こうして、ローブの人に付き従いながら、人狼たちは辛い砂漠の道をも進んでいった。




 一方、グローたちの耳にも、ようやく人狼の襲撃という情報が入ってきた。

 グローたちはラシード宅を出ると、街がザワザワと喧騒としている。グローたちは、この騒ぎはなんだ、と思い、街の人たちの話に耳を傾ける。

 「西の街が人狼の手によって、どんどん陥落していっているとのことだ。」

 「本当かよ。この街だって、離れているとはいえ、安全とは言えねえな。」

 「しかも、人狼は数万もいて、隊列しているそうだ。しかも、イフリートや他の魔物もいるそうだ。」

 「魔物のくせにか?」

 「ああ。きっと、魔物を束ねている長がいるに違いない。ウェアウルフロードとかな。」

 「もしかして、敵対しているアシーナ帝国の手先じゃねえか?」

 「うーん、確かに卑劣な奴らなら、魔物も手懐けるかもしれない。悪魔と契約することだって。」

 「きっとそうだよ。」

 こんな話が、街の住人から聞こえてきた。他にも、違うとこでは、

 「東の華夏帝国も怪しいよな。あいつらだって、人狼と同じように、獣の姿をしているんだ。全く、気味が悪いぜ。」

という話も聞こえてきた。

 人狼が襲撃したという事実に、不安が不安を呼び、噂に尾ひれがついていく。次第に噂は膨れ上がり、破裂寸前だった。

 グローは噂を聞き、

 「これはまずいな。俺らも離れた方がいいな。」

と提案する。

 幸い、彼らは南方の地を目指していたので、そのまま南方に進めばよかった。だが、一つの懸念があった。カーズィムにとって、アラッバス朝は故郷であるため、心配なのではないかと。

 そう思い、グローは、

 「…カーズィムはこのまま南方まで行っても大丈夫か?」

と尋ねる。

 しかし、カーズィムは、思いのほか、あっさりと頷く。

 「え、いいのか?」

 グローがカーズィムの予想外の反応に驚き、聞き返してしまう。

 カーズィムは再度頷き、

 「アラッバス朝にそこまで未練はない。」

と言う。

 そこで、グローは気づいた。

 確かに、外を知らず、暗殺教団しか知らないカーズィムにとって、そこまで未練はないのかもしれない。それに、執着を捨てた彼にとって、尚更どうでもいいのだろう。彼は、自分の生にも執着していないのだからと。

 グローはカーズィムのことを思うと、何とも言えない気持ちになるが、その気持ちを表に出さないようにした。

 「…うん、わかった。じゃ、このまま南方へ進もう。」

 彼がそう言うと、カーズィムは頷く。

 そして、彼らはそのままアル=バスラの街を離れ、南方に向かう。彼らは南方を目指し、砂漠をしばらく進む。

 その道中にて、イトゲルが、ヴォルティモに南方の故郷について知っていることを聞いてみた。

 「そういえば、ヴォルティモの故郷はどんなとこなんだ?」

 彼がそう尋ねると、ヴォルティモは若干困ったような顔をする。

 「うーん、実は、自分でもどんなところなのか、わかっていないんだ。」

 「あー、まあ、行ったことないわけだしな。」

 ヴォルティモの先祖がこの南方の地を離れてから数世紀経っている上に、ここから遠く離れていた神聖エストライヒ帝国に住んでいたヴォルティモにしてみれば、分からないのは当然だ。

 彼らは砂漠を進んでいると、途中でラクダや荷馬車を引き連れた人たちを見かける。彼らは南方まで案内ついでに情報も貰うため、南方まで一緒に行くよう頼んだ。グローはその人たちに銅貨数枚を渡すと、その人たちは快く案内を引き受けてくれた。その人たちは肌が若干黒めの褐色で、顔立ちはファルーシア人に似ている。頭にはターバンを巻いている。パシュトゥーン人という民族だそうだ。

 幸い、その人たちはアラッバス語を話せるため、案内してもらいながら、南方の情報を聞く。

 ヴォルティモの故郷は現在、様々な地域的諸王朝で分裂状態にある。血統や宗教の違いで、多くの国に分裂している。宗教だけでも、ブラフマン教や仏教、イティバーク教、スィク教などで分かれている。

 ちなみに、ブラフマン教は3つの大きな特徴を持っているという。一つ目が、他の宗教は神様が一柱なのに対し、ブラフマン教は自然にも神様が宿るという考えで、多くの神様を信仰する多神教だ。さらに、複数の民族の神様を取り入れていったので、その神様は本当に多種多様だという。二つ目に、肌の色や血統による身分制度だ。この宗教下では、肌の色が白ければ白いほど地位が高く、さらに職業などは世襲が当たり前だ。なので、子どもは生まれた時点で既に職業などが決まっている。かなり理不尽に思えるかもしれないが、ある思想によってそれが成り立っている。その思想が、三つ目の特徴である(カルマ)輪廻(サンサーラ)の考え方だ。ブラフマン教では、死後生まれ変わることが信じられ、それを輪廻転生という。さらに、その生まれ変わった人生は、過去の行い()によって決まるという。つまり、現在の身分も過去の自分の行いによるものだから、仕方ない(自業自得)らしいのだ。

 ちなみに、仏教もこの業と輪廻の考え方を採用しており、この輪廻から解脱することを目的としている。仏教では、この輪廻は次の人生のために善行を積まなきゃと、ずっと繰り返す永遠の苦しみとしている。なので、悟りを開き(成仏)、この輪廻から外れる(解脱)を目指しているらしい。

 正直宗教の考え方が違い過ぎて、彼らには少し理解するのに難しい。宗教好きなヴォルティモを除いて。ヴォルティモを除いた彼らは、途中から話を聞いておらず、周りの風景を見ていた。

 すると、遠くにオアシス都市が見えてきた。彼らはパシュトゥーン人に案内されて、ヘラートという街に着いた。ここは、南方の諸王朝の中の一つのガール朝の街だそうだ。どうやら彼らはとっくにアラッバス朝を出て、南方に着いていたらしい。



挿絵(By みてみん)



 このガール朝はイティバーク教を信仰しており、ここら辺の街は気候もアラッバス朝と似ているため、街の風景はかなり酷似している。砂岩で作られた住居やイティバーク教の教会などがある。

 だが、ここから北東のガール朝内の地域に進むと、山が多く、草原も増えてくるという。しばらく砂漠ばかりだったので、草原を見たいという気持ちがグローの中で湧いてくる。

 ヴォルティモはというと、ヴォルティモの祖先が南方の地域を離れたときには、このイティバーク教はまだ広まっていなかったので、まだ自身の本当の故郷なのだと実感できずにいた。どちらかというと、別の国のように見えているようだ。

 確かに、民族もパシュトゥーン人が多く、ヴォルティモに近い民族はまだ見られない。ヴォルティモも早く自分に近い文化や民族を見たそうだ。だが、その早く同じ起源の民族と会いたいという気持ちと会うのが怖いという気持ちが、葛藤しているようだった。顔が焦りと不安で複雑そうな表情をしている。彼らはヴォルティモに合わせて、速足で次の街を目指した。



すみません、南方の地図を編集しました。

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