7章67話 同行
カーズィムは放浪していると、何か見覚えのある一行を見かける。赤毛の青年、浅黒い肌の青年、金髪碧眼の少女、騎馬民族の少年の4人が向こうにいるのが見えた。
以前あんなことがあったもんだから、カーズィムは気まずく感じ、グローたちとは違う方向へ進もうと踵を返そうとする。だが、彼は後ろへ振り返るときに、イフリートがチラッと目に入り、足が止まる。
彼はイフリートと対峙したことがあり、イフリートの危険性を重々承知していた。
彼はグローたちとは別の方へ行こうとするが、中々足がいう事を聞かない。まるで足だけが別の生き物のようで、彼の思いに反抗している。
彼は溜息をついて、再度グローたちの方を振り向くと、彼らがイフリートに苦戦しているのが見えた。
―クソ…。
その様子を見て彼は覚悟を決めたのか、再度溜息をつき、グローたちの方へ走って向かう。そして、向かう途中で、周りの色に溶け込む。彼は音を立てず、どんどんイフリートに近づいていく。幸いイフリートには勘づかれておらず、やつの目の前まで接近する。そして、持っている短剣でイフリートを斬りつける。
イフリートは胸を斬りつけられ、ようやく見えない敵の存在に気づいた。カーズィムの変色は一瞬解け、グローたちもカーズィムの存在に気づく。
「カーズィム!?」
グローは、突然カーズィムが出現したことに驚いて声が出る。
カーズィムはグローたちの方に顔だけ振り向き、コクリとただ頷く。
―相変わらず、無口だな…。
グローはカーズィムの相変わらずの無口さに、苦笑が出る。
だが、イフリートは彼らのやり取りを待ってはくれない。目の前のカーズィムを攻撃しようとし、手を伸ばすが、カーズィムはすぐさま気づき、素早くイフリートの許から離れる。
グローたちはカーズィムからイフリートへと目線を移動する。
カーズィムはイフリートの脇を斬りつけたのか、やつの脇からドクドクと血が流れ続ける。イフリートは脇の下を手で押さえるが、脇の下は止血しにくいため、血が手から溢れ出て、地面の砂が赤く染められる。
だが、次の瞬間、イフリートはその押さえた手から炎を出し、傷口を燃やす。さすがのイフリートでも、傷口が痛いのか、歯を強く食いしばっている。そして、押さえていた手を脇から離すと、傷口が燃え、血が止まっていた。
カーズィムの攻撃が深かったのか、イフリートは危機感を覚える。それと同時に、怒りも感じているようだ。こめかみに血管を浮かべ、炎と同じくらい顔を真っ赤にしている。
イフリートは彼らをギロリと睨む。そして、手のひらに赤い炎を生み出し、手をわなわなと震わせる。すると、炎はたちまち青く染まっていき、おどろおどろしい炎へと変貌を遂げる。
その不思議な青い炎をイフリートは彼らに放射してくる。
その炎は離れた場所からでも伝わるぐらい熱く、あまりの熱さに彼らは盾を構え、熱さから逃れようとする。だが、あまりの炎の熱さに鋼鉄の盾が熱を持ち、盾を持っている手に火傷を負ってしまう。手が赤く爛れてしまう。彼らは今にでも盾を手放したいが、手放したら余計に酷い目に遭ってしまう。彼らは熱さによる痛みに歯を食いしばりながら耐える。
しかし、このままでは、いずれ彼らも焼き尽くされてしまう。
そんな中、カーズィムが、何かが入っている大きめの布袋をイフリートの方に向かって投げつける。
イフリートはその近づいてくる布袋に警戒し、炎を放射して燃やそうとする。
だが、その布袋が燃えたと思った瞬間、イフリート付近で爆発が起きる。爆発で風圧がグローたちにも押し寄せ、軽く吹っ飛ばされてしまう。
風がある程度止み、イフリートの方を見ると、イフリートは倒れ、体が黒焦げになっている。肌は爛れ、剥がれ落ちている。その惨い死に様から目を背けたくなる。
「…惨い。」
マリアもそのあまりの惨さに言葉がポツリと出てくる。
グローはカーズィムに、先ほどの布袋について恐る恐る尋ねてみた。
「あれは何が入っていたんだ…?」
カーズィムは彼の質問に淡々と幽かな声で答える。
「…火薬。」
「…火薬?」
グローがオウム返しのように、分からない単語を聞き返す。
「火薬は爆発を起こす。硝石と硫黄と炭を混ぜたもの。東方から伝えられた。」
とカーズィムが答える。
「火薬。そんなものがあるのか。」
そんな硝石と硫黄と炭で、こんな威力のものを作れる恐ろしさに鳥肌が立つ。グローたちが火薬に怯えて、顔が真っ青になっているのを見て、カーズィムは少しフォローをする。
「…そんなに流通してないから、大丈夫。」
―そういう問題ではないんだがな…。
彼らは鳥肌が収まっておらず、さらにぶるっと寒気がしたため、彼らは服の袖を引っ張り、肌の露出を減らす。
彼らはイフリートの死体を埋葬して弔う。グローはその惨い死に様を見て改めて恐ろしく思う。
―確かに、あの火薬のおかげで俺らは助かった。だが、その分、悲惨な死人が出た。誰かが救われる代わりに、誰かが悲惨な目に遭う。
その悲しき法則に彼らは手を合わせ、平和を祈るしかなかった。
彼らはイフリートを倒した後、ここから南東のフスタートの街へと向かうことにした。
だが、その前にグローはふとカーズィムの行く先が気になり、
「そういえば、カーズィムはこれからどこへ向かうんだ。」
と尋ねる。しかし、カーズィムは答えず、しばらく沈黙が続く。
「……。」
その数分の沈黙に耐えられず、グローは、やっぱりなんでもないと言いかける。
「…やっ」
だが、その彼の言葉に重なるように、
「…考えていない。」
とようやくカーズィムから答えをもらえる。だが、その答えも曖昧で、カーズィムはその返答以外何も話さない。
グローは気まずく感じ、愛想笑いを作り、
「…そ、そっか。じゃ、しばらくの間、俺らと行動するか?」
と適当に提案をしてしまう。
だが、その彼の提案に、余計カーズィムは黙り込んでしまう。やはり、あんなことがあったのだ。気まずいのだろう。
「あ、嫌ならいいんだ。アハハ…。」
グローは沈黙に耐えられず、笑って誤魔化そうとする。
だが、カーズィムは彼の提案を拒否することも無かった。もしかしたら、嫌というより迷っているのかもしれない。
グローはそれに気づき、カーズィムに言葉を掛ける。
「カーズィム。この間のことなら、俺は気にしていない。だから、お前が俺らを嫌に思っていないんだったら、同行してもいいんだぞ。」
グローはまっすぐカーズィムを見る。今度は笑って誤魔化さず、真剣な眼差しで。
カーズィムは彼がまっすぐ見つめるもんだから、目を逸らす。
―俺は何も期待していないし、何も信じたくない。すれば、裏切られたとき、心が折れてしまう。だから、何も期待をしないようにしていた。仲間もいらないし、希望もいらない。だが、今の俺には何をすればいいのか分からない。だから、とりあえず彼らに付いていくだけならいいのかもしれない。
カーズィムは微かに小さく首を縦に振る。
その返事を見て、グローたちはホッと安心し、本当の笑顔になる。
こうして、カーズィムも少しの間、グローたちと行動を共にすることにした。
そのころ、夕日は沈みかけ、世界に影が差し迫る。
「…行くぞ。」
黒いローブを着た者が、そう合図すると、後ろにいた者たちもぞろぞろと進み出す。
暗闇に乗じて、ある集団がある地点へと目指す。一つの野望を抱いて。
カーズィムのイメージイラストが自分的にようやくぴったりくるものがあったので、載せ直しました。本来はもう少し衣服全体が砂色となっています。




