7章66話 再会
一色砂色の砂漠の中に、黒いローブを来た人がいた。
―俺はどうすればいいのだろうか。どこへ向かい、何をすればいいのだろうか。いきなり解放されたからといって、普通の生活を知らないため、何をすればいいのか分からない。
彼はアラッバス朝を放浪するように、旅をしていた。いや、彷徨っていたの方が近いかもしれない。
彼はそこまで信じているわけではないが、心の中で神に問いかける。
―神様。もし、いるなら、教えてくれ。俺はこれからどうすればいいんだ…。
一方、グローはアブラ―ルにお礼を言い、待ち合わせの場所に向かう。そこには既にマリアとイトゲルが集まっており、二人で他の人を待っていた。彼が二人に近づくと、彼女らも彼に気づいたようで、こっちと言わんばかりに手を振る。
「ごめん、待った?」
と彼が顔を窺うように聞くと、
「ううん、私たちも今来たところ。」
とマリアが答える。
グローは周りをキョロキョロと見て、
「ヴォルティモはまだ来ていないのか?」
と尋ねる。
「そうね。まだ来ていないわ。まあ、そのうち来るでしょ。」
マリアがそう高を括るが、2、3時間経てどもヴォルティモは待ち合わせの場所に来なかった。
痺れを切らした三人はヴォルティモを探しに行く。単に遅くて待てないというより、ヴォルティモが心配のようだ。三人はアレクサンドリアの街中を探し回っていると、街の広場でヴォルティモと数人のエルバ人が話していた。
「あ!いた!」
と三人が口をそろえて言うと、その声に反応してヴォルティモはグローたちの方を振り向く。
「おい、待ち合わせの場所に来なくて、心配したんだぞ。」
グローが心配ゆえに、ヴォルティモに強めに言う。
「あー、そっか、もうそんな時間か。ごめんごめん。」
とヴォルティモは平然と返事をする。あまり悪びれることなく、あっけらかんとしている。
グローたちはその様子を見て、さっきまでの心配が一気に消え去る。
「てか、何しているんだ。こんなとこで。」
とイトゲルが尋ねると、
「あー、実はこのエルバ人の吟遊詩人と話が弾んでな。昔、俺も吟遊詩人をやっていたからな。」
とヴォルティモが答える。
グローとマリアは、なるほどといったように納得した表情をするが、イトゲルは目を丸くする。
「お前、吟遊詩人やっていたのか…。」
「あ、そっか。イトゲルは知らなかったよな。昔はリュートで唄を歌っていたもんさ。」
「へえ、そうだったのか。」
「そうそう。だから、彼らと話が弾んでさ。」
ヴォルティモは顎をクイッと動かし、彼の後ろにいる吟遊詩人を示す。
「そうだ。せっかくだから、聞いてかないか?今ちょうどリュートを貸してくれるようだし。」
ヴォルティモがそう提案すると、
「まあ、せっかくだし聞いていくか。ここまで待たされたしな。」
とグローが皮肉めいて言う。
だが、ヴォルティモは全く気にせず、リュートの弦を調整する。そして、ある程度調整し終えると、指で弦を弾いていく。音は長くゆったりと流れ、住宅街の隙間を駆け抜けていく。その音に乗せ、ヴォルティモは詩を載せていく。
[~遠い遠い昔、ある地に
天にも昇る巨大樹あり
巨大樹は黒い果実を実らせ
いくつもの果実を地面に落とす
だが、その果実は次第に
腐って種が剥き出しとなる
種は動物に踏まれようとも
強風に煽られようとも懸命に生きる
だが、そのうち、種は病気になり
徐々に色や形が変わり、色んな種ができた
次第に、種は芽が出て、どんどん伸びていくが
成長するごとに隣の木が邪魔になる
そんなとき、それらの木々に動物が近づく
それらの木々はお互いに
別の木を食べるように勧める
隣の木の方がおいしい
そう勧めあうと、木々の争いは大喧嘩に発展し
疲弊した木々は皆まとめて
動物に食べられてしまった~]
ヴォルティモはその詩を歌い終わると、他の吟遊詩人から拍手をもらう。
一応、グローたちも拍手をする。勿論、ヴォルティモの奏でる曲は、聞いていて心地が良かった。だが、グローたちには詩の内容がよく分からなかった。だが、よく分からなかったとそんな水を差すことはできなかった。
だが、彼らの反応から気づいたように、ヴォルティモは、
「まあ、詩の内容はよく分からないよな。これは色んな場所で語り継がれている詩なんだ。」
と言う。
「そうなんだ。」
「まあ、次の曲はリズミカルで楽しいから。」
ヴォルティモはそう言うと、次の曲を弾き始める。確かに、次の曲はゆったりしつつ、リズミカルでとても乗りやすい。彼らは自然と体が動いてしまう。そのメロディは街中を駆け巡り、近くにいたエルバ人も踊りだす。リズムに乗って、足踏みをしたり、体を曲に合わせて動かし始める。
その盛り上がりを見て、ヴォルティモの後ろにいた吟遊詩人も楽器を鳴らし始める。彼らはさすが現役といったところか、ヴォルティモの音を邪魔しないように、音を協調させていく。
その場にいた人は曲を弾き、歌い、踊り、音を楽しんだ。
その時間だけは、皆あらゆるしがらみを忘れて、音に合わせて自由に踊った。何もかも忘れて…。
そして、ヴォルティモが曲を弾き終わると、周りは躍るのを止め、拍手をする。その拍手に返事するように、彼はぺこりとお辞儀をする。
「このリュート、ありがとう。久々に楽しめたよ。」
彼はそう言い、現地の吟遊詩人にリュートを返す。
「ああ、良かったぜ。また聞かせてくれよな。」
「ああ、機会があればな。」
そして、ヴォルティモは現地の吟遊詩人に別れを告げ、彼らは街を出た。
アレクサンドリアを出ると、一層乾燥が強くなり、太陽の日差しが彼らの肌に鋭く突き刺さる。
「熱いな。見ろよ、陽炎が出てる。」
グローがそう言うと、
「喋らない方がいいぞ。余計に水分を失う。」
とイトゲルが注意する。
太陽の出す日差しが熱すぎて、陽炎がユラユラと揺れている。だが、様子がおかしい。陽炎ができたと思ったら、その陽炎は次第に大きく揺れ、何かしらの形を形成していく。
「何かおかしいぞ。」
イトゲルがその陽炎の異変に気づき、他の三人も陽炎に目を向ける。
そして、何かを形づくった陽炎は段々色が着いていき、人型の姿に変わっていく。
「イフリートだ。皆気を付けろ。」
イトゲルの声で、彼らは武器を構える。
イフリートはメラメラと炎を体に纏っている。その纏っている炎に体が焼かれているかのように、肌は黒めの褐色で、髪の毛は赤く燃えている。
イフリートをジッと注視していると、イフリートに纏っている炎がよりメラメラと燃えだす。イフリートは自分自身を燃やすかのように、炎に包まれた後、姿を消す。
そして、彼らの視界に映る陽炎が、ユラユラと大きく揺れ始めると、突如マリアの胸に拳が飛んでくる。そして、痛みを感じる間もなく、その飛んできた拳に吹っ飛ばされる。彼女は軽く吹っ飛ばされ、痛みをヒリヒリと感じる。彼女は鎧を着ているが、胸が熱く感じるため、目を向けると、鎧の一部分が溶けて変形していた。
「なんて熱さよ…。」
イフリートは再び姿を消す。グローは目では捉えることができないため、耳を澄まして、イフリートの居場所を捉えることにした。イフリートの物音に耳を傾けると、息遣いの音や微かな足音、パチパチと炎が燃え盛る音が聞こえる。その音の鳴る方へ目を向けると、先ほどまで気づかなかったが、若干砂漠に足跡が残っている。
「そこだ!」
彼は皆にイフリートの居場所らしきとこを指さしながら、そう伝える。
皆は彼の声に反応し、その居場所らしきとこに目線を向ける。イトゲルは弓の弦を張り、そこに矢を放つ。矢はイフリートへと真っ直ぐ向かっていき、途中で急に動きが止まる。その矢の先端から血がドクドクと流れてくる。そして、イフリートの姿が露わになり、肩に矢がグサッと刺さっている。だが、その矢は次第に燃えて、消し炭となる。その様子から見るに、イフリートの体自体がそもそも熱いのだろう。
イフリートは再び姿を消し、彼はまた物音に耳を傾ける。そして、物音が聞こえると、その音の鳴る方へ彼ら全員で攻撃を仕掛ける。
イトゲルの放った矢やマリアの槍は、イフリートの体に突き刺さる。ヴォルティモは錫杖でイフリートを突き、たまに彼らを法術で回復してくれる。グローは距離を縮め、イフリートに剣で斬りかかる。
イフリートは姿を度々消すが、暗殺教団と違って、耳を澄ませば、物音が聞こえるため、居場所を捉えることができる。彼らはイフリートの居場所を見つけては、攻撃を繰り返す。このままいけば倒せそうだが、そうは問屋が卸さない。
イフリートは手のひらを前に出し、その手から炎を放射する。その放射された炎は広範囲まで広がり、イフリート本体に中々近づけない。彼らが広範囲に放射される炎にたじろいでいると、突然、イフリートの目の前に残像のように一瞬人影が現れ、イフリートに攻撃を加える。その人影は、ターバンとローブを身につけ、両手に短剣を持っている。そして、その人影はこちらに顔だけ振り向くと、その顔は見覚えのある顔だった。
彼らはカーズィムと再会した。




