7章62話 教団の壊滅
グローたちは武器を構え、カーズィムを目で追う。
カーズィムは姿を消しているが、消えた場所から目で追っているため、服などの揺れでなんとなくわかる。
彼らがそう油断していると、カーズィムはとっくに視線に気づいているのか、腰に付けている小さな布袋に手を突っ込み、砂をグローたちにばら撒く。
彼らは視界が砂によって奪われ、カーズィムの居場所を見失う。
「クソッ!どこ行った⁉」
カーズィムは砂色の部屋に紛れ、周りの色に溶け込む。
グローたちは先ほどまでの見えていた安心感が一気に失われ、恐怖感だけが残される。
彼らはどこから攻撃が来るか分からず、キョロキョロと周りを見渡す。どこから攻撃が来るかも分からず、見えない敵に怯える。
そう慌てふためいていると、ヴォルティモがいきなり、
「ぐあっ!」
と呻き声を上げる。
そのヴォルティモの声に反応し、グローやマリア、イトゲルがヴォルティモの方を振り向く。
そこには、刃先に血が付いている二本の短剣が浮いていた。ヴォルティモはというと、肩に切り傷を作っており、血がタラタラと流れていた。
彼らはその光景を見て、ヴォルティモがカーズィムに斬りつけられたのだとすぐに理解した。
「ヴォルティモ、無事か⁉」
イトゲルがそう心配するが、
「大丈夫だ!ただ、周りを守ってくれ。」
とヴォルティモは平気そうに応え、自身の肩を法術で癒す。
「わかった。」
イトゲルはヴォルティモに頼まれ、ヴォルティモを守るように彼の前に立つ。
ヴォルティモは法術で傷口を癒すが、傷口からピリピリと痺れが来る。その変な痺れで気づく。
「皆、気を付けろ!多分、短剣に毒が塗られているぞ!」
グローたちはその言葉を聞き、肩に力が入る。
―さすがは、暗殺者というところか。
ハサン=サッバーフはその様子を見て、舌打ちをする。
「チッ。法術使いがいたのか。カーズィム、そいつを先に殺せ。」
ハサン=サッバーフがそう命令すると、カーズィムはコクリと頷く。そして、再び姿を消す。
グローたちは姿を再び捉えたと思ったら、また砂がばら撒かれる。目を一瞬閉じてしまい、すぐに開けるが、もうその場にはカーズィムはいなかった。
彼らにはカーズィムがどこにいるか分からないが、ヴォルティモが狙いなのはわかっているため、皆でヴォルティモの周りを囲む。
「さっきの言葉聞こえなかったのか!相手の短剣には毒が塗られているんだぞ!自分の身を守れ!」
とヴォルティモが皆を心配するが、
「そうなったら、お前が治してくれるんだろ。だったら、俺らでお前を守るだけだ。」
とグローが返す。
そのことを聞き、ヴォルティモは、はあと溜息をつき、
「…全くお前ら、俺を信用しすぎだ。」
と呟く。彼は文句みたく言うが、表情から満更でもなさそうだ。
彼らはそんなやり取りをするが、勿論、相手は待ってくれない。
「ぐっ!」
次はマリアの方から呻き声が聞こえる。マリアはカーズィムに二の腕を刺される。ヴォルティモの言う通り、短剣に毒が塗られているのか、マリアは少しずつ体が痺れ、フラフラしてくる。
勿論カーズィムの変色が手強いというのもあるが、カーズィムはとても素早く、こっちに攻撃が来たと思ったら、次は別のとこから攻撃が来る。
カーズィムの姿が目では捉えられないため、グローは耳を澄ますが、アサシンとしての教育がされているのか、息遣いが全然聞こえてこない。
だが、ヴォルティモは自身の治癒を完治したようで、マリアの治癒に専念する。
カーズィムが攻撃して、ヴォルティモが治癒する。その攻防にイライラしているのか、ハサン=サッバーフは舌打ちをし、足を小刻みに揺らす。
その彼の様子を見て、カーズィムは焦り、ヴォルティモをいち早く殺そうと仕掛ける。そのせいで、彼は走って、タッタッタと足音を立ててしまう。
グローはその足音に反応し、カーズィムの居場所をだいたい捉える。そして、カーズィムのいる方に向かい、ヴォルティモに近づかせないよう前を立ち塞ぐ。
彼はそのままカーズィムに向かって、
「妖精の飛行」
と、剣を横なぎにして斬りかかる。
だが、カーズィムの姿ははっきりと見えているわけでもなく、彼は小回りが利くので、グローの攻撃を間一髪避ける。
グローは手応えの無さから、カーズィムに攻撃が当たっていないのだと気づき、舌打ちをする。
「チッ!」
だが、完全に避けられたわけではないようだ。グローの剣先には微かに血が付いており、彼の目の前には血に染められた布が浮いていた。どうやら、深くダメージを与えられなかったが、剣がカーズィムの胸辺りに掠ったようだ。
カーズィムは掠り傷を作ってしまい、一瞬だけ姿を現す。
イトゲルはその一瞬の顕現を見逃さず、カーズィムに向かって矢を放つ。その矢は真っ直ぐカーズィムに向かっていき、彼の背中に刺さる。
だが、カーズィムは痛みにも無反応で、矢の箆の部分をへし折り、冷静に対処する。そして、すぐさま体を変色させる。
だが、カーズィムが姿を消そうと、グローたちには彼の居場所がわかった。彼の服には血がべったりと付いており、さすがにその真っ赤な色は砂色の環境には溶け込まなかった。グローたちは、その赤い布を目で追いかける。
イトゲルはカーズィムに向かって、矢を次々と放っていく。だが、カーズィムは素早く、中々当たらない。
「クソ!すばしっこいな。」
カーズィムは矢を避けつつ、ヴォルティモに素早く近づいていく。
だが、彼を一本の槍が邪魔をする。マリアも回復したようで、カーズィムを近づけないように槍で牽制し、距離を取り続ける。
カーズィムは次の攻撃をするために、こちらの隙を窺っている。だが、その思いに反して、イトゲルの矢、マリアの槍、ヴォルティモの錫杖、グローの剣の攻撃がどんどん入っていく。
カーズィムの体はボロボロになり、ずっと無表情で動じなかったカーズィムも、さすがに息切れを起こし、とても苦しそうな表情をしている。カーズィムはダメージの蓄積が大きいのか、その場にへたり込む。
ハサン=サッバーフはカーズィムのやられていく姿を見て、足の揺れがどんどん大きくなり、イライラと怒りを募らせている。そして、重い腰を上げ、へたり込んでいるカーズィムに近づいていく。
「どけ。役立たず。」
「…申し訳ありません。」
ハサン=サッバーフはカーズィムを思いっきり足で蹴り、ぞんざいに扱う。しかも、一発だけでなく、何発も顔や胴体を蹴る。だが、カーズィムは抵抗することもなく、その蹴りを受け入れる。
その光景を見て、敵であるグローたちでも胸糞悪い気持ちになった。
ハサン=サッバーフは、短剣を手に取り、カーズィム同様に姿を消す。そして、ハサン=サッバーフはカーズィムと同じように砂をばら撒く。グローたちにとって、カーズィムとの戦いでもう見た動きだったので、咄嗟に手で目を覆い、砂が目に入るのを防いだ。そのおかげで、彼らは視界を奪われずに済んだ。
だが、ハサン=サッバーフはカーズィムよりもずっと素早い動きで、攻撃を仕掛けていく。手に持った短剣で何度も様々な方向から斬りかかってくる。それをグローたちは盾や武器で攻撃を受ける。カーズィムよりも素早く重い攻撃で。だが、動きがとても見覚えのある動きだ。多分、あのカーズィムの動きはハサン=サッバーフに教わったのだろう。
彼らはハサン=サッバーフの重い攻撃を受け、剣や盾が震えているのがわかる。各々の武器で攻撃を仕掛けるも、ハサン=サッバーフは手に持っている剣で受け流す。
イトゲルが矢を放つも、ハサン=サッバーフは矢を見切って避け、グローの攻撃を剣で押し切る。マリアの槍攻撃も体をスライドして避ける。だが、脇腹に槍の先端が当たり、浅い切り傷ができる。そこに追撃するように、ヴォルティモやグローが攻撃を仕掛けるが、ハサン=サッバーフは剣で薙ぎ払い、彼らを軽く吹っ飛ばす。だが、彼らは体勢を整え、すぐに武器を構える。
グローたちはしつこく攻撃を仕掛けるが、ハサン=サッバーフは剣を振り回し、彼らの攻撃を一切通すことを許さない。
だが、それを繰り返していくうちに、さすがのハサン=サッバーフも老体のため、体力が切れ、息切れを起こす。
グローたちはそのタイミングを逃さず、一気に叩き込む。イトゲルの放つ矢が体に突き刺さり、グローの剣の攻撃も通る。
「っ!」
ハサン=サッバーフの体から血が流れ、口からも吐血する。
そして、ハサン=サッバーフにとって悪い流れがさらに起きる。この家の扉がバンと開き、衛兵が入ってくる。
ハサン=サッバーフは衛兵に向かって、舌打ちをする。
「…もうやられたのか。」
ハサン=サッバーフは最後の力を振り絞るように、剣を強く握り、衛兵やグローたちに攻撃を仕掛けてきた。だが、その攻撃も虚しく、あっけなくハサン=サッバーフはやられていく。ハサン=サッバーフは体がボロボロになり、立つのもやっとでフラフラになっている。
そして、ほとんど力を失ったハサン=サッバーフの隙を見て、衛兵たちはハサン=サッバーフを捕らえる。そのとき暗殺教団の壊滅が決定した。




