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7章63話 圧倒的な脅威

 グローたちは南東のヤシの街を目指して、長い草原の道を進んでいた。だが、その途中で山なりな地形に入り、木々も生い茂ってくる。彼らはその森林の中を、木々を掻き分けて進んでいく。だが、ルーシ辺境伯領ほどではなく、少しだけ開けた森林だったので進みやすかった。


 彼らは木々が生い茂る山道を進んでいると、

 「……見つけた」

と後方から声が聞こえる。


 彼らはその声に反応して後ろを振り返ると、突然何者かがヴォルティモに近づき、ヴォルティモの腕を噛んできた。


 「ぐあっ!」


 その何者かはヴォルティモの腕にかぶりつき、血をジュルジュルと吸い取っている。段々とヴォルティモは腕から力が抜けていく。


 「ヴォルティモから離れろ!」


 グローがその何者かをヴォルティモから引き離そうと斬りかかるが、何者かはすぐにヴォルティモから離れ、グローの攻撃を避ける。そして、そいつは口元に付いた血を手で拭う。


 ヴォルティモは力が抜けていくようにその場にへたりこむ。


 「クソッ!ヴァンパイアか!」


 彼は目の前のヴァンパイアを睨みつける。


 目の前のヴァンパイアはローブを被っており、素性が分からないが、その目深なフードから赤い目を覗かせる。赤い目はヴァンパイアの特徴だ。


 ヴァンパイアとは、種族に問わず人の血を吸い、自身の糧とする魔物だ。血を吸えば吸うほど、パワーアップするため、中々に厄介な魔物だ。だが、逆に弱点も多い。様々な説があるが、一番大きいのは日光だ。やつらは日光を浴びれば、塵となってしまう。


 「ん?おかしいぞ……」


 グローがそう不思議そうに言うと、マリアが「何が?」と聞き返す。


 「ヴァンパイアは日光を浴びれば死ぬんだろ。……なぜ、あいつはこの日光下でも平気なんだ?」


 彼がそう言うと、皆ハッと気づかされる。そして、目の前の魔物がヴァンパイアから、一気に不思議な存在へと変わる。


 当事者の魔物はというと、アハハと高笑いをする。


 「アッハッハッハ!だから、ローブを着ているんじゃないか。それに、日光ぐらいで私は死なんよ」


 それを聞いて、ヴォルティモの顔が青ざめる。


 「皆気を付けろ!ただのヴァンパイアではない。ヴァンパイア・ロードに違いない」


 ヴォルティモが注意喚起すると、そのヴァンパイア・ロードは、

 「おー、物知りなやつがいたもんだ」

と言いながら、ヴォルティモに拍手を送る。


 奴はヴォルティモに移していた視線をふっと先ほど噛んだ彼の腕に移すと、あれほど(えぐ)れていた傷が塞がりかけていた。ヴォルティモは自身の腕を法術で癒し、傷口を塞いでいる最中だった。


 その様子を見て、ヴァンパイアは舌打ちをする。


 「……チッ。法術使いがいたのか。ならば、回復させる前に殺すまでだ」


 ヴァンパイアが自身の指の腹を鋭い爪で刺すと、指からドクドクと血が出る。


 そして、「操血」と奴が呟くと、指から出ていた血がまるで生き物のようにうねうねと動く。


 さらに、「硬血」と奴が続けて言うと、血はまるで金属のように凝固していく。そして、複数の氷の氷柱(つらら)のような形へと変わる。 


 「血の氷柱」と奴が呟くと、その「血の氷柱」はグローたちの許に真っ直ぐ向かっていく。

 グローたちはすぐに危機を察知し、盾で「血の氷柱」を防ぐ。「血の氷柱」は盾にすごい勢いでぶつかり粉々になる。


 だが、彼らは気づいていなかった。その盾に隠れて、奴が近づいていたことに。

 盾は正面の攻撃を防げるが、正面が見えなくなるという欠点がある。その死角に乗じて、ヴァンパイアはヴォルティモに近づいていた。


 そして、奴は「血の鉤爪」と呟くと、自身の手に血を纏わせて、長い鉤爪を作る。その長い鉤爪で側面からヴォルティモを引っ掻こうとする。


 もうダメかと思い、ヴォルティモは目を瞑るが、ヴォルティモの前にイトゲルが立ち塞がる。そして、「血の鉤爪」をまともに受けてしまう。

 イトゲルは胸に引っ搔き傷を作ってしまい、その傷口から血がドクドクと流れる。


 「イトゲル!!」


 ヴォルティモはイトゲルを抱きかかえ、法術で傷口を癒す。


 「クソ、邪魔だな……」


 ヴァンパイアは呟き、ヴォルティモとイトゲルの方に走っていく。そして、手に纏っている鉤爪を構える。


 だが、グローがヴォルティモの法術を邪魔させまいと、鉤爪を手に持っていた盾で受けようとする。鉤爪は余程硬いのか、それが盾に直撃すると盾の表面が歪む。


 ヴァンパイアは盾に圧力をかけるように、グッと鉤爪に力を加える。盾はミシミシと音を立てて、どんどん歪みが強くなっていく。


 —まずい!このままでは盾が壊されてしまう!


 グローは一か八かで側面から攻撃を仕掛ける。彼は「妖精の飛行」と呟き、体を半回転させてヴァンパイアの首を目掛けて斬りつける。


 剣は徐々にヴァンパイアの首に近づいていき、あともう少しで首を刎ねそうだと思った時、ガキィンと高い金属音がその森に響く。グローの剣はヴァンパイアの鉤爪によって防がれていた。


 グローはもちろん力を抜いていたわけではない。全力の攻撃だった。だが、それもヴァンパイアの鉤爪によっていとも容易く受けられてしまった。


 ―俺らは一体何を相手にしているんだ……。


 それは、その存在は彼らでは敵わぬ、圧倒的な脅威だった。

 グローはその圧倒的な脅威に震えあがるしかなかった。足が震えて仕方がない。今まで出会った魔物の比ではない強さだった。


 グローはふと先ほどの攻撃を凌いだ盾を見ると、その盾の正面はひどく凹んでいた。その盾の凹みは彼の戦意を折るのには十分だった。

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