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6章60話 来世でまた会えるなら

 酒吞童子は、体に矢が刺さろうと、鬼火で燃やした拳で攻撃を繰り返していく。


 ムンク兵士はぐしゃりと潰され、時には鬼火の炎が燃え移り、墨となってしまった者もいた。だが、先ほど増援が追加されたのもあって、こちらの方が押している。


 弓兵は矢を放ち、酒呑童子の体に無数の矢が突き刺さる。剣や槍などを持った騎兵は、馬を走らせながら各々の武器で酒呑童子を斬りつける。


 一方の酒呑童子の体から血が流れ、酒呑童子の足元は血の水たまりができている。そして、酒吞童子が抱えている茨木童子の顔が、どんどん青白くなっていく。


 それでも、酒呑童子は弱っていく茨木童子を大事に抱えて、守っている。だが、そんな酒吞童子に対して、無情にも複数の矢が刺さり、剣や槍で斬られていく。


 このままいけば酒呑童子はやられるだろう。そうムンク兵士は油断していると、酒吞童子は木が多い方を背中にし、「ごめん」と言いながら、自分の後ろに茨木童子をそっと優しく置く。


 そして、燃えていない方の手で瓢箪を掴み、投げ飛ばす。瓢箪に入っていた酒は、辺り一帯に散らばる。酒呑童子はそこに鬼火をいくつも投げて、辺り一帯が燃え上がる。その炎に一部の馬や兵士が焼かれる。


 「ぎゃあああああああ!!」


 「助けてくれええええええ!」


 ムンク兵士から多くの悲鳴が響き渡る。


 ―クッ!これじゃ、近づくこともできない……。


 この酒呑童子を倒すのにも、あの「鬼火」と「剛腕」で中々近づくことができない。せめて機動力があれば。グローがそう思っていると、イトゲルが馬を走らせて近づいてくる。そして、イトゲルは彼に乗れと言わんばかりに、手を差し伸べる。


 グローはイトゲルの手を掴み、馬に乗る。そして、イトゲルが馬を走らせ、彼は風に乗り、剣を構える。イトゲルはよほど馬術に優れているのか、それともイトゲルの馬が肝を据えているのか、火の海の中の数少ない安全な足場を踏み進んでいく。


 酒呑童子は馬で向かってくる彼らに剛腕で攻撃してくるが、イトゲルは馬の手綱を引き、左右に避ける。剛腕で地面が削られ、石の破片が彼らに飛んでくる。酒呑童子はさらに追撃で、酒の飛沫を飛ばし、鬼火の炎を飛ばす。だが、それもイトゲルの巧みな馬術によって、避けられてしまう。飛び交う火を避け、火の海の中を進んでいく。


 そして、イトゲルは馬を走らせながら、持っていた弓を引いて矢を放つ。矢は真っ直ぐ酒呑童子の顔に向かい、やつの目にグサリと刺さる。とてつもない命中率だ。


 「ぐあああああああああああああああああ!」


 酒呑童子は片目を潰された痛みに悶え、身を屈め、手で刺された目を覆う。

 その隙に、グローが馬から跳び、体を回転させながら剣を酒吞童子の喉に突きつける。


 「妖精の飛行」


 グローは酒呑童子の喉を斬りつけ、やつの喉から大量の血飛沫が飛ぶ。


 酒呑童子の体はふらつくが、後ろの茨木童子にもたれかかんないように、最後の力を振り絞り、前にうつ伏せで倒れる。


 グローたちは、酒呑童子の茨木童子への執念深さに驚きを隠せなかった。酒呑童子は倒れたまま這って、茨木童子の許に寄り添う。そして、茨木童子の手を大きな手でそっと優しく握る。



 酒蔵は桜の小さい手をそっと握る。そして、その手がもう冷たいことを感じ、彼は自分の不甲斐なさにまた涙が流れる。


 ―俺のせいで桜はこんなことに……。


 彼はその思いの最中、視界がぼやけて、意識が遠のいていく。


 ―桜、お前は知らない。俺が非人で兄妹だということを。俺はお前に言わず、騙し続けてきた。

 お前は俺のせいでこうなったんだ。お前は俺に付いてこなければ、今頃幸せだったろうに。

 もし、俺らが地獄に行くなら、俺だけでいい。



 桜は最後の力を振り絞り、微かに目を開け、酒蔵と目を合わせる。


 ―酒蔵、あなたは知らない。私が、あなたが非人で兄妹だと知っていることを。


 私はある日、あなたに気づかれないように付いていったことがあるわ。そこで、あなたが非人であることを知ったわ。その上、あなたと母の話を聞いていると、私の名字の水尾や父上の話が出てくるんだもの。そこで、同時に兄妹であることも知ったわ。


 その日は、ショックでひたすら涙に暮れたわ。あなたと会わない方がいいと思ったぐらいよ。でも、やっぱりあなたは「あなた」だと気づいたわ。どんな身分だろうと、どんな関係だろうと、いつもの優しいあなたは偽物ではない。私はそれに気づくと、涙が止まり、あなたへの好意を実感したわ。


 どうせ優しいあなたのことだから、自分だけ地獄に堕ちればいいと思っているんでしょうけど、私はそんなこと望んでないわ。


 私は、あなたが非人で兄妹だと知っていたうえで、会っていたから、私も同罪よ。あなたと一緒なら、私は修羅の道でも平気よ。


 桜の最期の生命力が目に行き、一粒の涙になって零れ落ちる。



 ―もし、願いが叶うのならば、来世はお前 と違う形で再び会いたい。

 ―もし、願いが叶うのならば、来世はあなたと違う形で再び会いたい。



 酒呑童子と茨木童子はお互いに手を握り締めながら、肉体が黒い塵となって、骨だけが残る。


 グローは二体のオニの過去を知らないが、その二人の想い合う姿を見て、なぜだか涙が流れてきた。もし、生まれ変わることがあるならば、せめて次は幸せになって欲しい。彼はそう願うばかりだった。


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