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6章55話 酒吞童子と茨木童子

 マリアの言葉で、グローはふと街の貼り紙で複数の死刑執行人が行方不明となっていることを見かけたのを思い出す。


 グローはその話を聞いて怖くなり、自分の平静を保つように、真相を信じないようにする。


 「だ、だが、その人間の死刑執行人が果たして、こんな赤くおどろおどろしいオニになるのか」


 さすがに、マリアもこの問いかけに答えられず、口ごもる。


 「それはそうだけど……」


 だが、ヴォルティモが余計なことを付け足す。


 「……一説には聞いたことがある。人間の恨みや怨念の形がオニとして現れると」


 グローは怖くて目や耳を背けたいが、そうも言ってられない。彼はそのことについてヴォルティモに聞き返してみる。


 「じゃ、じゃあ、このオニたちは、各地の死刑執行人などの怨念を持った人たちがなったというのか」


 だが、ヴォルティモも真相を知っているわけではないので、彼の問いかけに少しの間沈黙した後答える。


 「……わからない。ただの憶測にすぎない」


 正直かなり無理な設定なうえ、証拠もないため、憶測の域を出ない。だが、なぜか絶対違うとは言えなかった。むしろ、彼らはその話を聞き、背筋がゾッとしてしまった。


 グローは違う話に切り替えるように、敵について話す。


 「それにしても、このオニたちを殺せばこの戦いは終わるのか?」


 「多分?分からないけどね」


 マリアはそう答えるが、ヴォルティモから違う返答が来る。


 「いや、オニに指示していたやつがいるんじゃないか。やつらは視界が明るくなると、理性を失う。だから、布のお面を被っていたが、それでは俺らが見えなくて攻撃できないだろう。だから、“目”の役割をしていた司令官がいるはずだ。それに、オニに対して響くような声での指示があったしな」


 「確かに」


 彼はヴォルティモの言葉でそのことに気づく。このオニの集団に指示している奴がいるはずだ。


 「じゃ、その司令官を探した方がいいな」


 「そうだな」


 ムンク兵士はあそこの発狂しているオニを掃討するのに、馬を走らせて戦っている。だが、彼らはその司令官を探すことにした。数人の手を余らせているムンク騎兵を連れて、辺りを走って見渡す。そのムンク騎兵の中には、イトゲルの父親も混じっていた。


 すると、オニの集団から離れた木々が所々に生い茂っている場所に着く。そこには木々が生い茂っているが、辺りが見渡せるほど開けており、そこに二体の奇妙な格好をしたやつらを見つける。


 その二体のやつらは肌が赤いため、すぐに人間ではないことに気づく。頭には角があり、そして、二体とも先ほどのオニと同じ布のお面を付けている。あの二体が、多分今回の司令官かもしれない。


 彼ら3人と数人のムンク騎兵は、そのオニらしき魔物の二体に近づく。

 そこには、大きい図体の男のオニと刀を持っている女のオニがいた。


 二体のオニは見たことのない服装で、下がスカートのようなゆとりがある服を着ており、落ちないように腰に紐で締めてある。


 奇妙なのは服装だけではない。大きい男オニは座っているが、立っている彼らよりも高く、彼らが見上げるような形になっている。物凄い迫力がある。だが、男オニはそんな彼らの思いなど露知らず、胡坐(あぐら)をかいて、瓢箪(ひょうたん)に口を付け、呑気に酒を飲んでいる。


 一方、女オニは、背丈は人間と同じくらいだが、持っている刀から禍々しいオーラを醸し出している。

 女オニは彼らを見つけると、男オニに向かって伝える。


 「来ましたよ、酒呑童子」


 そして、男オニが彼らをチラッと見て、口につけていた瓢箪を一旦地面に置く。


 「ああ」


 酒呑童子(シュテンドウジ)と呼ばれている男オニは、女オニに返事をし、ドスの利いた声で彼らに語り掛ける。


 「お前らか、ラーヴァナを殺したやつらは。見かけからして、姑息そうな奴らだな」


 酒呑童子はこちらを鋭い眼光で睨んでくる。目には怒りが込めてあり、手はわなわなと震え、噛みしめている口からは、鋭い歯が垣間見える。


 「あいつはな。あいつはな………」


 酒呑童子はまるで殺された仲間を想うように、下を俯き、ブツブツとラーヴァナについて呟いている。


 「俺ら八部衆の中では、弱い方だ。だが、あいつは、故郷の古臭い慣習や遺恨を消し去りたいという野望があった。だから、東方遠征は満場一致であいつに任せることにしたんだ。それなのに、お前は、夢半ばのあいつを殺して。満足したかよ。お前らは弱いやつから徹底的に奪うだけ奪って、何も与えやしない。お前らはいつもそうだ。お前らは、……」


 酒呑童子は再度顔を上げ、こちらを凄い眼光で睨んでくる。仲間を殺されたことへの強い恨みがひしひしと伝わってくる。


 グローたちはこれから殺されるんだという恐怖が押し寄せる。


 「ここは暗い。灯りを灯してやらなきゃな」


 すると、酒呑童子はそう言い、酒の入った瓢箪に口を付ける。


 「(Onibi)  (fire)


 酒呑童子は手から火の玉を出し、そこに口に含んだ酒を飛沫のように吹きかけ、炎が燃え上がる。炎はこちらに向かって長く延び、炎が衣服や木々に移る。


 ―熱っ!


 彼らは衣服に燃え移った火を消すために、地面に転がったりして火を消そうとする。


 火はすぐに消えたため、大した怪我も無かったが、問題はここからだった。彼らが燃え移った火にあたふたしている間に、女オニが彼らに近づいてきていた。


 そして、火を消して、立ち上がったグローに向かって女オニは刀で斬りつける。


 「(Sakura)  (bloom)  (hunting)


 刀はしなやかに動くが、とても鋭く、彼の背中に深い傷を作る。傷から出た血はまるで噴水のように、飛び散る。


 「終わりね」


 女オニがそう言い、彼にもう一発斬りつけようとすると、その追撃を止めてくれたのはマリアとヴォルティモだった。


 「こっちも忘れないでよね」


 マリアが女オニの攻撃を盾で受け、ヴォルティモは彼の背中を法術で癒す。傷口は癒え、血も止まる。ただ、傷が深かったのか、傷跡が残っている。


 女オニは何度もマリアに斬りつける。マリアが女オニの攻撃を盾で受けているが、女オニの力が強く、どんどん押されていく。


 しかし、次の瞬間、横から矢が放たれ、女オニの肩にグサッと刺さる。


 「茨木童子!」


 酒呑童子はその茨木童子(イバラキドウジ)という女オニを心配し、声をかける。

 二体のオニは、矢が放たれた方向を振り向くと、そこにはイトゲルが弓を構えていた。


 「イトゲル!なんで来たんだ!!」


 イトゲルの父親はイトゲルの身を案じ、そう叱る。イトゲルは言っても子どもなのだ。子どものイトゲルにとっては危険だ。


 だが、イトゲルはそんな彼の思いなど全く気にせず、

 「だって、お前らがオニの集団と違うところに向かったから、気になって付いてきたんだ。そしたら、こんな強そうなやつらがいるなんてな」

と少しニヤリと笑みを浮かべ、武者震いをしている。


 「イトゲル!お前はここに来るな!」


 「早く帰ってろ!」


 さすがに他のムンク騎兵が、イトゲルを叱るように怒鳴っている。だが、それでもイトゲルは聞く耳を持たない。これは叱っても無駄だと彼らは気づいた。


 「おいおい。こっちを無視してもらっちゃ困るね。茨木童子の体に傷をつけやがって」


 酒呑童子はこめかみに血管を浮かべ、持っていた瓢箪を手放す。

 酒呑童子もどうやら本気を出すようだ。


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