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6章54話 フラッシュバック

  グローたちはオニの強さに恐怖を感じていると、奇妙なことに気づく。


 その暴れ狂うオニは敵味方関係なく、味方のオニにも攻撃をする。まるで、バーサーカーのようだ。

 だが、狂うように暴れているオニは、すぐに味方のオニに殺され、とりあえず混乱した状況が落ち着く。


 ―もしかしたら、あのお面を外すと、オニは理性を失い、敵味方関係なく暴れるのかもしれない。あれを上手く使えば……。


 グローはムンク兵士全体に向かって、大声で、

 「そのオニのお面を外して、逃げてください!オニ同士を戦わせるんです!」

とアシーナ語で伝える。


 ムンク兵士はグローを知らなかったため、一瞬戸惑う。あいつは誰だと疑っているのだろう。無理もない。彼らがこの村に来て、2日くらいしか経っていない。


 だが、この状況では四の五の言っていられない。ムンク兵士は最初戸惑いながらも、物は試しのように、オニのお面を外して、一目散に逃げていく。ムンク兵士含めたグローたちは、遠くからオニを観察する。


 「ああああああああああああああああああああああああああ」

 「ああああああああああああああああああああああああああ」


 オニは予想通り発狂しだして、味方のオニ同士で攻撃し始める。


 ―よし、成功だ。


 そう思ったのも束の間だった。

 しばらくの間は、オニ同士で争っていたが、空が暗くなるにつれて、次第にオニは理性を取り戻していく。


 ―クソっ!お面が理性を失う引き金とは限らないのか。


 彼らは視界を狭めないために、急いで起こした松明を持ちながら、オニと再度対峙する。


 オニは彼らに向かって走ってきて、近づくや否や攻撃してきた。彼らは必死に各々の持っている武器で受け止める。


 彼らは、この不安定な視界の中で戦わなければならない。さらに、松明を片手に持っているため、力も存分に出せない。かなり不利な状況だ。だが、相手のオニも先ほどの味方同士での潰し合いで戦力は減っている。そこがせめてもの救いだった。


 グローは、オニの爪を受け止めている剣を、グッと力を込めて押しのける。だが、オニも負けじと押してくる。彼は松明を持っている手でも剣を支える。


 すると、松明の灯りがオニの顔を照らす。彼は突然の怖い顔に一瞬ギョッとしてしまい、手の力を緩めてしまう。


 彼はこの状況をまずいと思うが、オニの押してくる力も弱くなっていた。オニは灯りから顔を避け、明らかに灯りを嫌がっている。彼はそれを見て、松明をオニに近づける。


 すると、オニは両手で顔を隠し、灯りに照らされないようにしている。その隙に、彼は剣をオニの頭に突き刺し、オニはそのまま倒れる。そして、黒い塵となった。


 ―お面を外したり、光に照らされることを異常に嫌がるということは…。視界が明るくなるのが、理性を失う引き金なのか!


 グローはオニの理性を失う本当の条件を発見し、皆に伝えるようにする。


 「そのオニは視界が明るくなることが弱点です。松明をオニに近づけ、戦ってください!あと、数人の弓兵は、火矢でオニを攻撃してください!」


 ムンク兵士は再度頷き、松明を近づけてオニを攻撃する。また、数人の弓兵は後退し、それでも尚追ってくるオニには、馬に跨りながら後ろを向いて(パルティアンショット)矢を放つ。そして、火矢を準備しに、拠点へと戻る。


 その間、彼らは一時退避した兵士の分まで、持ち堪えなきゃならない。ここが正念場だ。


 彼らはオニの強力な攻撃に耐えて、耐えて、必死に耐えていく。だが、ムンク兵士はオニにやられ、徐々に徐々に減っていく。それも暗闇のため、バタッと倒れたような音だけが聞こえ、こちらの恐怖心を着実に煽ってくる。


 まだか、まだかとじれったく思いながら、弓兵を待つ。だが、時間が経つにつれて、またバタッと倒れる音が増えていく。恐怖でおかしくなりそうだ。


 これはオニと暗闇への恐怖に彼らの精神がどれだけ耐えられるかの勝負だ。つまり、自分自身との闘いである。グローは、自分は大丈夫だと必死に自分に言い聞かせる。


 すると、ムンク人の住居に近い方から大声が聞こえる。そして、その声に反応し、ムンク兵士がぞろぞろと一時退避をする。それを見て、グローは弓兵が来たのだと悟り、一時退避する。マリアやヴォルティモも彼の反応を見て、同じようにする。


 そして、次の瞬間、空に赤色のたくさんの点が輝く。その点は、徐々にオニの許に近づき、雨のように降り注ぐ。オニは多くの雨のように降り注いだ火矢を受け、大混乱となる。普通の矢であればなんてことないオニが、火矢では再度甲高い声で発狂する。


 そのオニの近くは、火矢ですっかり明るくなり、オニの全貌が丸わかりだ。


 グローは作戦成功だとすっかり喜んでしまったが、オニの発した言葉で気持ちがガラリと変わる。


 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。許してください、許してください、許してください、許してください」


 オニはそうブツブツと呟く。

 他には、延々と「怖い」を繰り返し呟くものもいた。


 その姿はそう、まるでラーヴァナやかつてのグローのようだった。


 その火矢の炎は激しく燃え、彼の心の何かを焚きつけた。

 グローは灯りに怯えているオニを見ていると、少し胸が苦しくなる。そこには強くて邪悪な魔物のオニではなく、何かに縛られて苦しんでいる生き物のオニしかいなかった。


 グローは苦しんでいるオニを遠目に見ていると、オニが何かをブツブツと呟いている。何を言っているのか耳を傾ける。


 「……もう俺に殺させないでくれ」


 そう言うオニが多く、頭を抱え、とても苦しそうだ。その中で、一体のオニがこんな言葉を発していた。


 「許してくれ。こんな幼い10人の子どもを殺させないでくれ」


 その言葉を聞いて、マリアは何かに気づいたような顔をする。


 「そういえば、神聖エストライヒ帝国の一男爵の領地内で、死刑宣告された村人の子ども10人が処刑された出来事があったわ。発端は村人の子どもが間違えて、領主に奉納予定のワインを零してしまったことだったの。それに腹を立てた領主は、その10人の子どもを処刑させたわ」


 マリアはごくりと一度生唾を飲みこみ、そのまま話を続ける。


 「そして、その死刑執行人は行方不明になったわ」


 マリアの話が目の前のオニと重なり、背筋がゾッと寒くなった。

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