6章47話 人道的とは
彼らはセルディカで寛いだ後、宿で休み、翌朝に街を出た。
しばらく草原の田舎道が続く。所々に果樹園があり、果物は青いが若干実っている。花もクロッカスやミモザが咲いて、草原を彩っている。コマドリはさえずり、春を実感させられる。ここらへんは戦争に巻き込まれなかったのだろう。その平和さを象徴するような田舎ののどかさにほっこりしながら、先を進んだ。
セルディカを出て、3、4日経つと、彼らはトゥルゴヴィシュテという街に着く。
トゥルゴヴィシュテには、ブラン城や要塞、正教派の教会などがある。市場も程よく大きいため、グローはここで何か売れるものや食糧を買うことにした。市場を見ていると、ラズベリーのジャムやイチゴ、オレンジなどの果物が売っている。ここは果物が特産品なのだろう。特に、ジャムが盛んだ。ここはルーシ辺境伯領が近いからだろう。ルーシ辺境伯領やその周辺はジャムなどの保存食が盛んだからだ。
とりあえず、グローはオレンジとラズベリーのジャムを買うことにした。それとジャム付けるように、パンも買った。
彼らは買い物を終え、少し街を見回っていると、マリアがいらない噂を教えてくる。
「そういえば、知っている?ここでヴァンパイアが出没するっていう噂があるの。ここは昔から、夜な夜なヴァンパイアが現れ、血が吸われて干からびた死体が発見されるらしいの」
マリアは二人をビビらせるように、にやりと口角を上げて、伝えてくる。
「所詮噂だろ。もし、出たとしても魔物なんだから、倒せばいい話だ」
「そっか……」
マリアは二人が意外と怖がっていないのを見て、がっかりする。
―そう。ヴァンパイアが現れても倒せばいい話なのだ。倒せればの話だが。
マリアの話を聞いてから、この街のブラン城や要塞、路地裏などがグローにとっておどろおどろしく見えてきた。城や要塞、路地裏などのくすみや苔が怖さを助長させる。
グローは、このトゥルゴヴィシュテの街から早く出ることを、二人に勧める。二人は承諾し、この街から早めに出た。グローは、その日の夜は寝つきが悪かった。
そして、郊外の田舎道を歩いていると、こちらも果樹園が多くある。
彼らは果物の樹々を眺めながら、田舎道を歩いていると、途中で大熊に遭遇した。大熊は果樹園の果物に手を出している。
大熊は普段山や森に生息しているが、餌を求めて人里に下りることがある。そのため、大熊による作物荒らしの被害や人が襲われる被害が報告されている。今回も餌を求めて、果物に手を出しているのだろう。
この後、被害に遭う人も出るかもしれないから、彼らは討伐しておくことにした。
彼らは馬車から降り、大熊に徐々に近づいていく。
大熊はこちらと目が合うと、口を大きく開け、背丈を大きく見せるように前足を浮かせて威嚇してきた。二足歩行で立つと、およそ9フィートはあるだろう。
彼らがその大熊の大きさに少し怯むと、大熊は全速力で突進してきた。大柄な図体にも関わらず、走るスピードは速く、ドスンドスンと大きな足音が凄いスピードでこちらに近づいてくる。
大熊はグローとの距離が手前まで来ると、手の大きな爪で引っ掻いてきた。彼は盾で防御するが、攻撃が重く、ふらつく。マリアとヴォルティモは遠距離で攻撃できるため、グローは彼ら二人に攻撃を任せることにした。グローが盾で受け、マリアが槍で攻撃し、ヴォルティモも錫杖で攻撃していく。
だが、大熊は意外と賢く、自身に攻撃をしてきた対象から狙っていく。グローたちが大熊を殺そうとしていることに勘づいているのか、本気で襲いにかかってくる。
グローが防御し、マリアとヴォルティモが何度も攻撃することを繰り返すと、いくら強靭な体でも、複数の傷からダラダラと血が流れていく。大熊ももうそろそろ限界なのかふらついてきている。
マリアが最後の止めを刺そうとすると、大熊は大きい咆哮を上げる。彼らの鼓膜にその咆哮が響き、彼らは手で耳を塞ぐ。そのけたたましい咆哮で何か起こるかと思ったが、何も起きなかった。多分死期を悟ってのことだろう。
少し可哀想だが、仕方ない。マリアが槍で突いて止めを刺す。そして、大熊はドスンと崩れ落ちる。
その大熊が死に、彼らは弔いをしようとすると、複数の子熊が亡くなった大熊に寄り付く。少し悲しめの鳴き声を唸り、大熊を揺さぶる。多分その大熊の子どもなのだろう。
彼らは、その死んだ母親を子どもが起こそうとする光景を見ていると、とてもいたたまれない気持ちになる。
多分この母熊は子どものために、餌を求めていたのだろう。よく見れば、母熊は肋骨が浮き出るほどに痩せこけていた。
さらに、ここら辺は最近森林を伐採して開墾しているため、森林が減少しているとのことだ。だから、余計に母熊は餌を求めて、ここに下りてきたのだろう。この子熊は母熊を失っては生きていくのは中々に困難だ。人間に狩られる可能性もある。
彼らは自分たちの行動が果たして正しかったのか、そんな気持ちに襲われる。
―俺らはあの魔物たちと何が違うのだろうか。俺らは魔物と変わらないのかもしれない。いや、魔物の戦争の跡地が人道的なあたり、俺らは魔物よりも魔物らしいかもしれない。
グローたちは「人道的」その言葉が分からなくなった。




