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6章46話 息抜き

 グローたちは一度馬車を停め、地図を広げて、次の行き先を決めている。


 「どこに向かうか?」


 「そうねー。私としてはアシーナ帝国と同盟を組めたし、ヴォルティモの方を優先してもいいわ」


 「確かにそうだな」


 マリアの提案にグローは頷く。


 そうして、彼らは一度ヴォルティモの故郷を訪れることにした。


 「ヴォルティモの故郷に行くとなると、東の隣国のアラッバス朝を経由して南に行く感じだな」


 グローがそう言うと、マリアは食い気味に、

 「いやいや、無理でしょ」

と言う。


 だが、彼も分かっているようで、「だよな……」と返事をし、肩を落とす。


 それもそのはず、アシーナ帝国は例の件で、アラッバス朝と争いが起き、国境沿いは危険だ。なので、アラッバス朝を経由するルートは使えない。


 ヴォルティモは地図で上のルートをなぞるようにして、


 「まあ、諦めて別のルートで行くしかないな。アシーナ帝国の上の方に行き、ルーシ辺境伯領、上隣のムンク(ᠮᠣᠩᠭᠣᠯ)二重帝国を経由してアラッバス朝に入るしかない。かなり遠回りだが仕方ない」


 「「そうだね」」


 グローとマリアはヴォルティモの提案に賛同し、とりあえず、ルーシ辺境伯領に向かうことにした。


 ヴォルティモの馬車はというと、ミレトスで取り戻し、無事馬車での旅に戻った。ヴォルティモはしばらく会えなかったため、

 「いやー、ごめんな。しばらくほったらかしにして」

と言いながら、愛馬をしつこいほどに撫でまわしていた。愛馬も主人に会えて、前脚を前搔きしている。


 彼らは再び馬車に乗り、ミレトスの街を出て、ここから東のサロニカの街を目指す。

 サロニカまで向かっていると、途中の閑散とした村々を見かける。村の住居にはネズミが住み着き、蜘蛛の巣も張られている。畑は荒地と化し、植物は枯れ果てている。人はおらず、鳥の鳴き声だけが村に響いている。戦地となって荒れてしまったのだろう。または、避難して、人がいなくなってしまったのかもしれない。まさに、村が死んでしまっている。


 「酷い有様だな……」


 グローがボソッと呟くと、「そうね……」とマリアが賛同するが、その直後に「でも」と言葉を続ける。


 「でも、幸い村人は逃げたようだから、また村が復興するか、新しく村が作られるわ。人が生きていれば、いつでもやり直せるわ」


 マリアのその言葉にグローとヴォルティモは、確かにそうだなと納得する。いや、自身をそう納得させた。彼らは早く村が復活することを願った。


 

 彼らはその閑散とした村々を通り過ぎながら、サロニカの街が見えてきた。サロニカ周辺の地域は山が多いため、サロニカまで1週間ぐらいかかった。


 サロニカの街は、先の戦争で壊されてしまった城壁の修理や街の復興に力を注いでいた。ある人は石を運び、ある人はレンガを固め、ある人は木材を組み立てている。街の住人は、自分のできる範囲で街を復興しようと頑張っているが、さすがに戦争の怖さを知り、表情に(かげ)りを隠しきれていない。戦争の悲惨さを物語っている。


 だが、飛び地による侵略は、非人道的ではなさそうだ。死体が多く転がっていたり、村の住居が破壊されていたりするわけでは無い。基本、戦争には略奪や強姦、誘拐などは付き物だ。しかし、サロニカの街や途中の村を見ても、あまりそういうのは見受けられない。皮肉なことに、人間より人道的かもしれない。


 グローたちは食糧を調達するため、市場で並んでいる商品を見ていると、戦争のせいか物価が高くなっている。彼らはパンなど少しだけ買って、サロニカを出た。そして、ここから北のセルディカの街を目指した。


 数日後にセルディカに着く。

 セルディカもサロニカ同様、修復に力を注いでいた。セルディカは天然温泉が多く、温泉街として有名なので、観光が主要産業である。そして、セルディカはその観光産業を用いて、復興に力を入れていた。


 マリアは、セルディカが温泉街と知り、温泉に入りたそうにしている。


 「せっかくこの街に来たんだし、温泉入ろうよ」


 「うーん、まあ、せっかくだしそうするか。しばらく戦いで疲れているしな。ヴォルティモは大丈夫か?」


 グローは、少し進度を止めることをヴォルティモが気にしてないか尋ねると、

 「俺は別にいいよ」

と彼はあっさり承諾してくれた。


 皆が承諾してくれたのを聞き、マリアは、

 「やった!」

と喜び、はしゃいでいる。しばらく水浴びができなかったため、無理もないだろう。


 彼らはこの街の温泉に入り、ゆっくり療養することにした。


 ただ、少しだけ市場で買い物をしてから、温泉に入ることにした。ここは、温泉街なのもあって、補完財としてオリーブ油石鹸が多く売られている。このオリーブ油石鹸は、オリーブ油の脂肪と石灰のアルカリ性を混ぜてできたものだ。彼らはせっかく温泉入るので、少しだけ買っていくことにした。石鹸は感染症の予防にもなるので、一石二鳥だ。30銅貨で一個の石鹸を買って、それを三人で分けた。


 そして、彼らは男女で分かれている天然温泉に入った。温泉からは、臭いような臭くないような不思議な匂いが漂う。


 グローはそもそも温泉に入ったことが無かったため、とても新鮮に感じる。グローは、岩で区切られている温泉の湯の中に、そろりと足を入れる。お湯の熱さが、彼の足に電撃が走るように伝わる。


 「熱っ!」


 普段川で水浴びをしている彼からすれば、とてもじゃないけど肌が受け付けない。彼は手でお湯をすくって、体に徐々に馴染むようにかけていく。体が徐々に温まってくると、お湯の熱さを足で確かめ、体全体を入れていく。


 ―あー…。気持ちいいなぁ。これは確かに、マリアがお湯の風呂が好きなのも分かる気がする。


 彼の肩や背中などの凝りがほぐれ、体全体がぐだーっと脱力していく。まるでこのお湯に溶けてしまいそうだった。体は火照り、頭がぼうっとする。


 ヴォルティモも全然お湯に入らないので、グローと同じようにぐだーっとお湯の中で脱力している。


 グローは隣にいるヴォルティモに話しかける。


 「いやー、今回は大変だったな」


 「そうだな。今回ばかりはもうだめかと思った。まだ腕に鈍い痛みが残っているし」


 ヴォルティモは骨折した腕をさすりながら、そう言う。


 「生きていることが奇跡だわ」


 「そうだな。色んな危機があったな。思えば、お前との旅もあのオークとの戦いから始まったしな」


 「確かにな」


 グローとヴォルティモは今回のことを通して、過去の旅を思い返す。


 すると、ヴォルティモは、

 「そう思うと、お前と旅をしてから危機や怪我が増えたな。疫病神だな」

と笑いながら、冗談交じりに言ってきた。


 グローはその冗談に言い返そうとするが、ヴォルティモが続けて、

 「……でも、それ以上に楽しさも増えた」

と言うもんだから、彼は黙るしかなかった。


 彼らはしばらくお湯で温まると、お湯から出る。これ以上はのぼせそうだった。

 グローはお湯から上がった後、買った石鹸を試してみる。石鹸を泡立て、体や髪を洗い、お湯で泡を流す。すると、汗でべたべたしていた体や髪がスッキリする。


 グローはふとヴォルティモの方を見ると、髪に時間をかけて洗っていた。ヴォルティモは髪が長いので、時間がかかるようだ。


 「ごめん、のぼせそうだから先に出るわ」


 グローはヴォルティモにそう言い、体を拭いて、先に建物から出た。しばらくすると、ヴォルティモも出てきた。二人で十数分待っていると、マリアがようやく出てきた。


 「ごめん、遅くなった」


 マリアは久しぶりの風呂に嬉しくて、長く入ったようだ。体からは湯気が出て、体が火照っている。髪は濡れているからか、少し髪をかき上げ、額を出している。その艶めく仕草に、グローはまた余計に体が火照ってきた。

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