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奴隷物語 ~奴隷グローの冒険物語~  作者: アラン
アシーナ帝国vs飛び地
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5章45話 争いは続く

 ラーヴァナは、グローに向かって走り、左足で地面を蹴り、右回転しながら右手のチャンドラハースで斬りかかってきた。


 グローは盾で受け止めるが、回転力の乗ったチャンドラハースの威力に盾が割れてしまう。


 「クソ!なんていう威力だよ」


 ラーヴァナが次の攻撃をしようとするが、ヴォルティモによって遮られる。彼がグローの前に立ち塞がり、ラーヴァナの攻撃を盾で受け止める。


 「邪魔するなぁぁぁ!しつけぇんだよぉぉ!」


 ラーヴァナは鬱陶しいように、ヴォルティモに向かって叫ぶ。


 「しつこいのは性分でね」


 ヴォルティモはそう呟きながら、盾でグローを援護する。

 だが、その防御を上回るかのように、ラーヴァナはしつこく何度も何度も攻撃をしてくる。もはや執着しているかのように。


 「クッ!俺以上にしつこいな……。このままじゃ、ジリ貧だぞ」


 繰り返される攻撃に、ヴォルティモは段々と余裕が無くなってくる。


 グローも援護で剣で斬りかかるが、ラーヴァナの複数の手によって受け止められる。

 お互いに隙を作らず、攻撃を受けては、攻めてを繰り返す。どちらが先に体力に底尽きるか、それが勝負の分け目だった。お互いに緊迫した空気の中、突如文字通り横槍が入る。


 ラーヴァナの後ろから、槍が飛んできて、やつの三つ目の頭に突き刺さる。槍が突き刺さった頭は、ぐしゃりと潰れ、血がドクドクと流れる。


 ラーヴァナの甲高い悲鳴が響き渡る。

 グローとヴォルティモは、その槍の飛んできた方向を見ると、マリアが立っていた。立っていると言っても、フラフラな状態で、かろうじて立ち上がったという感じだった。その状態で、グローたちのピンチを悟って、槍を投げたのだろう。


 「マリア!」


 グローがマリアを呼ぶと、マリアはやってやったぜと言わんばかりに、手の親指を立てて口角を微妙に上げる。だが、そのポーズを取った次の瞬間、バタッと再び倒れてしまう。


 そして、その倒れた音に反応し、ラーヴァナはマリアの方にぐるっと振り向き、鋭い目で睨む。


 ―まずい!


 グローはそう思うと、マリアの方に全速力で走る。だが、それに負けじとラーヴァナも彼女の方へ走り出す。

 ヴォルティモもそれで察したようで、彼らの跡を追っかける。


 ラーヴァナが一番先に着いてしまうと、三つ目の首を殺された恨みを晴らすために、殺そうとするだろう。

 マリアはもう意識を失いかけている。もはや戦える状態ではなかった。


 グローは何よりも早く、彼女の許へ着かなければなかった。彼は全速力で走り、ゼーゼーと息切れを起こしてしまう。だが、それでも、肺を苦しめても、彼女の許へと走った。


 そして、グローが一番先に彼女の許に辿り着く。

 ラーヴァナはマリアを殺すのを邪魔され、分かりやすく大きな舌打ちをする。


 「いい加減にしろぉぉぉぉぉ!!」


 ラーヴァナはグローに怒りを向けながら、攻撃を仕掛ける。

 グローは覚悟して攻撃を受け止めようとするが、拍子抜けしてしまう。盾を構えると、ラーヴァナの攻撃が盾で弾かれてしまう。最初の攻撃に比べて、大分弱体化している。やはりラーヴァナは頭が殺されていけばいくほど、弱体化するようで、攻撃に力が入らなくなっている。


 グローやヴォルティモはどんどん攻撃を繰り出し、ラーヴァナの体に傷を作っていく。そして、隙ができると、頭を斬り落としていった。四つ目、五つ目、六つ目とラーヴァナの頭が殺されていく。


 「あああああああああああああああああああああああああああ…、ああ…、ああぁぁぁぁぁ」


 ラーヴァナの悲痛な叫びが長く長く続いた。



 ―苦しい。苦しくて胸が張り裂けそうになる。俺の頭が消えれば消えるほど、どんどん俺の心に罪の重さがのしかかる。



 ラーヴァナは白目を剥き、「…ダース、…ラ、…ルナ、…ャナ、…」とブツブツ呟いている。やつは斬り落とされた頭をなお大事そうに抱え、地面にうずくまる。まるで子どもや友人を守るかのように、その複数の頭をやつの大きな体で覆いつくす。


 「……もう俺から、俺から何も奪わないでくれ。何も奪わせないでくれ」


 ラーヴァナは、か細い微かな声でそう訴えてくる。やつからはすすり泣く音が聞こえ、グローたちの胸を締め付けてくる。


 ―見ているこちらも胸が痛い。もう早く終わらそう。


 グローたちは、そう思えてきた。

 ラーヴァナの仲間などに対する執着は凄まじかった。そのラーヴァナの悲しみは、彼らの心にも訴えかけてきた。グローはラーヴァナのことを何も知らないが、何故か目から涙が出てくる。


 「ごめん……」


 彼はただ一言謝り、ラーヴァナの本体の頭を斬り落とそうとする。だが、ラーヴァナが悲しそうで、殺すのを躊躇ってしまう。だが、急に耳元に囁くような小さい声が聞こえる。


 「……早く楽にしてあげて」


 ―誰だろうか。知らない声だ。しかも、もう聞こえなくなってしまった。しかし、優しい少年の声だった。


 彼はその声を信じ、ラーヴァナの残りの本体の頭を斬り落とす。ラーヴァナが息絶え、黒い塵となって消えていく。その塵は風に乗せられ、空高くへと飛んで行ってしまった。


 その風に乗せられたかのように、先ほどと同じ声がグローの耳元に届く。


 「ありがとう」


 その声は聞き覚えのないはずなのに、その優しい声を聞いていると、とても心がホッと安心した。



 グローたちはラーヴァナの遺体に合掌し、弔う。

 飛び地の司令官(アミール)であるラーヴァナが倒されると、飛び地軍は壊滅し、残りの魔物も掃討されていった。こうして、この戦争は幕を閉じ、飛び地によるアシーナ侵略は終わった。


 アシーナ兵士は苦しい戦いを乗り越え、勝利した喜びを噛みしめた。戦争が終わったので、家族に会えると喜び泣く兵士もいれば、報酬を楽しみに笑う兵士もいる。皆それぞれ勝利を喜んでいた。グローたちも勝利は嬉しいが、ラーヴァナのことを想うと、素直に喜べなかった。


 彼らは、ヴォルティモの法術などで手当てをする。そして、アシーナの街に戻り、皇帝に飛び地の平定の完了を伝える。


 すると、陛下はとても嬉しそうに笑顔を浮かべる。


 「おお、そうか!よくやってくれた。今日はゆっくり休んでくれ。今夕食とワインを用意させよう。あと、今回の契約の神聖エストライヒ帝国再興の協力も約束しよう。それと、報酬として、金貨4枚もその袋に入れたから持っていくといい」


 彼らは豪勢にもてなされ、まず豪華なコース料理を頂いた。サラダ、チーズ、ステーキ、ムサカ、魚介スープ、デザートを食べた。その後、客用のふかふかのベッドでぐっすりと眠り、夜が明けると、報酬の金貨4枚を受け取り、宮殿を出た。それと、陛下曰く、今回借りた盾もくれるとのことだ。グローは盾を割ってしまったので、新調してくれた。


 彼らは宮殿でのもてなしで上機嫌になり、道中を歩いていると、その後、アシーナ帝国が飛び地の土地を支配したという噂を聞いた。

 それは当たり前のようで、当たり前でない。確かに、飛び地が攻めてきたとはいえ、アラッバス朝とは関係のない魔物が行ったことなので、アラッバス朝内の飛び地を支配するのはどうかと思う。


 だが、彼らはその言いたい文句を飲み込むしかなかった。お礼とはいえ、金貨も盾も貰い、豪勢にもてなされ、契約も交わしている。言いたくても、言えない立場にあった。


 彼らは引っ掛かりがあるものの、ひたすら前へ前へ進むしかなかった。


 そこで、グローはふとミノタウロスの言葉を思い出す。飛び地の魔物との戦争が無くなっても、確かに戦争はなくならない。そこでミノタウロスの言葉の本当の意味を知った。

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