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奴隷物語 ~奴隷グローの冒険物語~  作者: アラン
アシーナ帝国vs飛び地
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5章44話 ラーヴァナという怪物

 ラーヴァナには触れると穢れが移るからと触らず、ただただシッダースに嫌がらせをする。徐々に、嫌がらせがエスカレートしていく。シッダースは殴られ蹴られたりする。


 そして、ある日、ラーヴァナたちとシッダースはそれぞれ刃こぼれのある剣を握らされる。いじめっ子曰く、ラーヴァナとシッダースでどちらか死ぬまで決闘をしろとのことだ。


 彼らはお互いに戦いたくないため、だんまりしていると、それを見かねていじめっ子が少女を連れてきた。


 「ジヤ!」


 その少女を見るや否や、シッダースはその名前を言う。

 その反応を見て、いじめっ子がニヤリと笑みを浮かべる。


 「こいつはお前の妹だろ。こいつと勝負しなきゃ、この妹に剣で斬りつけていく。だから、あの汚らわしいやつを殺せ。大丈夫だ。あいつを殺しても、不可触民だから罪に問われないさ」


 シッダースは最初こそ嫌がっていたが、泣いて怖がっている妹を見ると、今まで見たことのない目でこちらを見てきた。とても真剣な表情だ。


 「ま、待って。シッダース君、俺は君を攻撃なんてとてもできないよ」


 ラーヴァナはシッダースに攻撃しないでと暗に伝えるが、シッダースは聞く耳を持たず、こちらに走ってきた。そして、剣を振り上げる。彼は怖くて、目を瞑ってそっぽを向いてしまう。


 次の瞬間、ラーヴァナのすぐ隣でぐしゃりと音がして、血潮が飛び散る。カラが剣で叩き潰された。


 「カラ!」


 ラーヴァナは顔を青ざめ、カラに呼びかけるが返事がない。


 ―クソ、戦うしかないのか。


 シッダースはカラを殺した後、次の攻撃を仕掛けるように準備する。シッダースは冷静に行動しているように見えるが、顔がとても悲しそうだ。

 その顔を見て、ラーヴァナはシッダースへの攻撃を臆してしまう。


 だが、その隙でシッダースの攻撃を許してしまう。次に、クムバカルナの頭が斬られる。


 「クムバカルナ!」


 彼は呼びかけるが、クムバカルナも返事がない。


 「やべぇよ……」


 次男のヴィビーシャナが焦りだし、勝手に剣を振り始める。シッダースの胴体に剣が届き、血が垂れる。とても痛そうな傷だが、シッダースは痛そうにもせず、こちらを恨めしくする様子もない。ただただ、その痛みを受け入れているようだ。


 シッダースはもう諦めかけようとしたとき、いじめっ子が余計なことを付け加える。


 「シッダース!負けても妹は傷がつくからな!」


 それを聞くと、シッダースの目に覇気が宿る。シッダース君は、次男の頭に剣を突き刺す。


 「ヴィビーシャナ!」


 ヴィビーシャナも返事がなくなる。


 ラーヴァナは唯一の心の拠り所の兄弟が殺されると、悲しさと同時にシッダースへの怒りが湧いた。


 彼は怒りで叫び出し、無我夢中でシッダースの腹に剣を突き刺そうとする。今考えれば、バレバレの攻撃だったので、避けることもできたように思える。


 だが、その剣がシッダースの腹に突き刺さる。突き刺した傷から血がどくどくと流れる。彼は怒りで突然自分のした行動を振り返り、とんでもないことをしてしまったと顔を青ざめる。


 ラーヴァナはシッダースを殺した後、生きた心地がせず、何も考えられなかった。いじめっ子が宣言通り、シッダース君の妹を斬りつけて殺していた。


 ラーヴァナは朧げな意識で、いじめっ子の許へ向かうと、剣で2人をいつの間にか斬り殺していた。いじめっ子はその光景に震えながら剣を構え、2人で彼を斬りつけてきた。


 ラーヴァナはそこで一度意識が途絶え、1回目の人生が終わる。だが、彼の憎しみや後悔、悲しみなどは消えず、その黒く渦巻く思いが塵となって、彼に(まと)わりつく。徐々に彼の体を(かたど)っていき、頭が四個に戻る。さらに、体が高く、大柄になる。


 彼の異様な様相を見て、いじめっ子は震えあがり失禁する。

 彼は無意識のまま、残りのいじめっ子の二人も斬り殺していた。意識が戻ると、夜になっていて綺麗な三日月が昇っていた。近くにはシッダース兄妹といじめっ子の死体が転がっており、彼は大人に囲われていた。


 「化け物だ!あそこにいる子どもたちが殺されたぞ!」


 大人は彼を、化け物を見ているかのように睨んでくる。そして、大勢で構えている武器で殺しに来た。彼は自己防衛のためだけに持っている剣を軽く振る。しかし、自分では軽く振ったつもりなのに、それとは裏腹に大人は脆く、斬られている。


 他の大人は震える体で、ラーヴァナに攻撃をしてくる。彼は殺したくないが、少しなぎ払うだけでどんどん人を殺していってしまった。もう彼の周りには人はいなかった。


 彼は自分の罪の深さに深く悲しむ。

 彼はふとシッダースとの戦いを振り返り、改めてシッダースを殺してしまったと理解する。


 だが、ラーヴァナがシッダースに剣を突き刺したとき、彼の顔を見たはずなのだが、どんな顔だったのか覚えていない。怒りを表していたかもしれない。悲しみを表していたかもしれない。今となっては確かめる術はない。だが、彼は思い出そうとも思わない。怖くて、思い出したくない。


 だから、彼はシッダースが恨みを込めた顔で記憶を作っておく。そして、その罪の責任を自分に置いておく。


 ―だって、あの戦いはそもそもシッダース君が俺と仲良くしていなければ起きなかったんだ。全部俺のせいだったんだ。この世の罪は俺の責任なんだ。全部俺の(カルマ)なんだ。だから、俺が苦しむのも俺の自業自得なんだ。


 彼は全ての業を背負うつもりで、シッダースたちの頭を自分の頭に横並べる。そして、シッダース君の握ったボロボロな剣を握った。



 こうして、ラーヴァナという怪物が生まれた。


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