5章40話 化物
アシーナ軍は東の砦を落とし、次に西の砦を落としに行こうと向かう。
だが、西の砦に向かっている途中で、一部のアシーナ兵から、
「西の方から魔物がこちらに向かってきているぞ!」
という大声が軍全体に響く。
その声に反応し、兵士は西の方をバッと振り向く。すると、2万5千ぐらいの魔物の軍勢がこちらに向かってきていた。
アシーナ軍も急いで敵を迎え撃つように、整列する。そして、開戦の合図がされ、敵味方の兵士がぶつかり合う。
敵と味方の兵士がぶつかり、戦っている中、最前線から叫び声が聞こえる。それと同時に数人の人が吹っ飛ぶ姿が見え、味方の恐怖が煽られる。
最前線を見ると、とんでもない怪物がいた。その怪物は、腕が8本あり、トロールほどではないが、身長が13フィートぐらいの高さがある。複数の手にはいくつもの大剣が携えられており、中には名剣のチャンドラハースという剣を持っている。チャンドラハースは、まるで三日月のように少し曲がった剣で、太陽の光に照らされると、刀身が輝いている。だが、その輝かしい名剣とは不釣り合いな、錆びた安そうな剣も一本携えている。
その不気味な雰囲気を醸し出しているが、同時にグローにとっては、不思議と親近感を沸かせる雰囲気も持ち合わせている。その親近感を感じる理由が、隣を見るとすぐに分かった。顔の作りがヴォルティモに似ていた。彫が深く、肌と髪の色が黒茶だ。ヴォルティモより肌の色が若干黒めで、鼻がほんの少し丸めだが。
味方のアシーナ兵士は誰もその怪物に近づきたくないため、前に中々進もうとしない。そこで、グローとマリアとヴォルティモは意を決して、その怪物の前に立ち塞がる。見上げるほどの高さがあるため、いざ目の前に来ると、迫力がすごい。
怪物は彼らをすぐに攻撃するでもなく、ジロジロと見てきた。そして、その怪物は手招きをし、部下を呼ぶ。その怪物の呼びかけに応えるように、怪物の隣に、鎧を被ったケンタウロスが近づく。ケンタウロスは、馬の首から人間の男性の上半身がくっついている。ケンタウロスに怪物が命令を下す。
「ケンタウロス将軍、あちらのアシーナ兵を任せた。こいつらは例のやつらだ。俺が対処する」
やはり今までの魔物と同様で、話している言語はアンジェル語だ。グローには、何となくわかってはいた。魔物な上に、アンジェル帝国軍が協力しているので、アンジェル帝国がこの戦争に噛んでいると思っていいだろう。逆に、ファルーシア人やエルバ人は、この魔物たちに利用されたということだろう。先の平原の戦いで、魔物と分かるや否や逃げ出したのだから。
その怪物の下した命令に、ケンタウロスは一礼をし、命令に従う。
「ハッ!ラーヴァナ総督閣下」
そして、ケンタウロスは飛び地の兵士に、ラーヴァナと言われる怪物から離れて、アシーナ兵に攻撃を仕掛けるように命令をする。
どうやら、こいつが例の地方総督のようだ。
グローたちは各々の武器や盾を構え、ラーヴァナと対峙すると、突然ラーヴァナはマリアを指さす。
「そこの女は神聖エストライヒ皇女だろ。」
マリアは気づかれたことにビクッと体を震わす。どうやらマリアのことを知っているようだ。
「俺がマリア皇女を殺すよう、ピー・ラン・グルオンに命令したからな。まさか、殺されるとは思わなかったけどな」
それを聞いた瞬間、彼らはピー・ラン・グルオンの言っていた言葉を思い出す。「ようやく見つけた」とそう言っていた気がする。つまり、このラーヴァナがピー・ラン・グルオンに命令して、マリアを殺そうとしたということだろう。
ラーヴァナは沸々と怒りが湧くように、剣を掴んだ手をわなわなと震わせる。
「……俺らみたいな屑でも、仲間の死は悲しいもんだ。だからさ、あいつの仇は取ってやんないとな」
ラーヴァナはそう言うと同時に、物凄い速さで剣を横なぎに斬りかかってきた。
グローは即座に盾を構え、受け止めるが、衝撃をもろに受け、吹っ飛ばされてしまう。彼は意識が飛びそうになるが、マリアとヴォルティモの心配する声が聞こえ、意識を引き戻される。彼はすぐに立ち上がり、マリアとヴォルティモが無事かを見ると、マリアの上方にラーヴァナの剣が襲いにかかる。彼女は心配してか、彼の方を見ているため、剣に目が行っていない。
彼がマリアに大声で上を見るよう叫ぶ。
「マリア!上だ!」
マリアは彼の掛け声で反応し、上をすぐに見上げる。すると、彼女の頭上に剣が振りかかっている。彼女は咄嗟に盾を上に向けるが、ラーヴァナは横からも同時に攻撃を仕掛けていた。
マリアは、さすがにその横からの攻撃には反応が遅れ、もろに攻撃を受けて、吹っ飛ばされてしまう。
「安心しな。俺はすぐにお前らを殺すつもりはない。ピー・ラン・グルオンだけじゃねえ。他の仲間の分まで、お前らには苦しんでもらう必要がある」
彼らはその言葉にゾッと背筋が凍る。
ラーヴァナのその仲間への想いから来る恨みは、不気味な容貌をさらに禍々しく感じさせるのだった。




