5章39話 砦攻略
グローがミノタウロスを倒すと、それに準ずるかのように、敵の歩兵部隊がどんどんやられていく。だが、向こうの奥の敵の騎兵部隊も突破してきた。
そして、その包囲網の穴から歩兵がどんどん外に逃げていく。本来はあちらとしては、アシーナ軍を包囲して攻撃したかっただろうが、今は兵数が減りすぎているため、撤退することが先決だと考えたのだろう。そして、飛び地の連合軍は敗走していく。
飛び地の連合軍は、ここより手前の街サロニカに帰っていく。サロニカは現在飛び地軍に支配されており、サロニカ付近にある複数の砦には飛び地軍が所在している。つまり、そこで兵を集めて、体勢を整えるつもりだろう。
アシーナ軍は軽く弓兵などで追い打ちをかけるが、深追いはしない。
とりあえず、彼らは今この瞬間は、この平原での戦いで勝利したことを喜んだ。アシーナ兵は皆で肩を抱き寄せ合い、まるで世界に届きそうなぐらい歓声を上げる。
「うぉー!勝った!!」
「もうだめかと思った!」
「俺たち、すげえ!」
アシーナ兵はしばらくの間、ざわざわと騒ぎ、その喧騒さは夜まで続いた。その夜は、彼らは焚火を起こし、酒と食べ物を楽しみ、また次の戦いに臨んだ。グローは別部隊のマリアの安否を確認するため、彼女を探すが、その心配はいらなかったようだ。
マリアは今回の功績から、多くのアシーナ兵から称賛されていた。
彼女は照れくささから、若干頬を赤らめていた。
「アハハ……、皆ありがとう」
マリアはアシーナ兵に囲まれていたので、グローは後で顔合わせすることにした。
グローはワイワイ騒いでいる兵士を傍観していると、突然後ろから衝撃が来る。
「おい、見てたぜ、あんた。あのミノタウロスを倒してたな。すげえな」
一人のアシーナ兵が彼の背中を叩いて、そう褒めてきた。
「あ、そうそう。俺なんかビビって動けなかったわ」
他の兵士も便乗するように、彼を褒める。
「いや、偶々です……」
グローは褒められたのが照れくさくて、そっぽを向きながらそう言う。
「いや、偶々なんてあるものか」
アシーナ兵はそんなグローの態度なんて気にせず、ずっと褒めちぎってくる。
「アハハ……、ありがとうございます」
彼は照れくさく、お礼を言った後、
「ちょっとヴォル……、仲間に用事あるので、失礼」
と言い残し、ヴォルティモに特に用事もないくせに、その場を離れる。
彼はその場を離れると、ヴォルティモが近づき、
「おい、いいのか。せっかくだから、仲よくすればいいのに」
とコソコソ小声で言ってくる。
「あー、褒められるの慣れてないんだ。それに、大人数はそこまで得意じゃないんだよね」
グローは頬をポリポリと搔きながら、そう照れくさそうに言う。
「まあ、人それぞれだしな。ゆっくりやっていけばいいさ」
ヴォルティモは注意するのではなく、優しく言葉をかける。
グローは向こうの焚火をぼうっと見つめる。
アシーナ兵の歓声と焚火の煙が空に溶けていく。これが延々と続いてほしいという天への願いのように。
アシーナ兵はほんの少しのひと時を楽しむと、翌日にサロニカの街へ向かう。
サロニカの街は東と西の方向に道が舗装されているが、その東と西の道を塞ぐように2つの砦があり、そこを飛び地軍が占拠している。つまり、そこを落とせば、このサロニカの街が解放されることを意味した。
アシーナ軍はその砦を落とすため、サロニカの東にある砦に向かう。
砦が見えてくると、アシーナ兵は砦を観察する。案の定、砦の城壁の回廊には、複数の飛び地兵が見られる。勿論魔物だ。もう先の戦争でバレて、隠す気が無いのだろう。
上に待ち構える魔物にも臆さず、先の勢いのまま、アシーナ兵は砦を落とそうとする。
アシーナ兵は城壁に梯子を掛け、城壁をよじ登っていく。だが、アシーナ兵が上に登るのを、勿論飛び地兵はそのまま見逃すわけがない。飛び地兵は回廊にある窓から、サンシェンレェンたちが矢を放ってくる。
サンシェンレェンは、一つの頭に三つの体がくっついており、手が6本ある。その手に二つの弓矢を持っており、その弓を引き、矢を放ってくる。同時に複数の矢を放てるので、かなり厄介だ。
そんなもんだから、アシーナ兵はそのサンシェンレェンの矢に撃たれ、梯子から次々と落下していく。落とされたアシーナ兵はぐしゃりと地面に落下し、肉塊と化してしまう。時には、飛び地兵は、よじ登ってきたアシーナ兵に、熱した油をかけてくる時もあった。油をかけられたアシーナ兵は全身に火傷を負いながら、地面に落下していく。
地面には、味方のアシーナ兵の死体がゴロゴロ転がっている。だが、それでも、彼らアシーナ兵は登るのを止めない。自分たちの国を守るために、自分たちの家族を守るために、味方の屍を越えて、彼らは進んでいく。
次第に、どんどん進んでいくアシーナ兵に、矢などが追い付かず、城壁の回廊に登りつめられてしまう。飛び地兵は慌てて、剣に持ち替えて対応するが、アシーナ兵に徐々に侵入されていく。
グローたちも、彼らに続いて梯子で城壁をよじ登る。グローが回廊に頭だけひょっこり出すと、突如ブンと空気を斬る音と風圧が頭上に来る。すると、その直後に、近くにいたアシーナ兵の首が刎ねられて、血飛沫が飛んできた。
一瞬何が起きたのか分からず、グローは困惑してしまう。彼はその衝撃が来た方向に目を向けると、そこにはシンティエンがいた。
シンティエンは、身長が普通の成人男性より少し高く、首が無い。その代わりに、目や口が胴体にある。そして、手には大きな斧を持っている。
きっと、その斧でアシーナ兵の首を刎ねたのだろう。斧は血で塗られていた。グローたちは梯子を登り終わると、シンティエンの攻撃に細心の注意を向けつつ、立ち向かっていく。
シンティエンはグローたちが視界に入ると、腰を落とし、斧を構える。
グローは、シンティエンの初動を捉えようとジッと観察をしていると、足と腕が微妙に動く。その瞬間、すごい速さでこちらに走ってきた。そして、走っている途中で、持っている斧の刃先が徐々に上向きになっていく。
「上だ!身を屈めろ!」
グローはその初動に気づき、ヴォルティモやマリアにそう大声で伝え、身を屈める。
その声に反応し、ヴォルティモやマリアも、彼に続いて身を屈める。
そして、グローの忠告通り、シンティエンは斧を横なぎに振ってきた。だが、グローたちは身を屈めていたため、空振りで終わってしまう。物凄い風圧が彼らの頭上に来る。彼らは、もし身を屈めなかったらのことを考えると、恐ろしくなる。
だが、今このシンティエンが空振りをした隙を狙って、彼らは瞬時に近づき、攻撃を仕掛ける。まずは、マリアが槍でシンティエンの片目を突く。シンティエンは片目を刺され、痛みで悲鳴を上げる。さらに、追い打ちをかけるように、グローは、悲鳴で大きく開いたシンティエンの口内に剣をぶっ刺す。目や口内を刺されたシンティエンは、体がフラフラとふらついたのちに、後ろに倒れる。
彼らも同様に、アシーナ兵も徐々に砦内の飛び地兵を倒していく。
こうして、アシーナ兵はサロニカの東の砦を攻略した。




