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奴隷物語 ~奴隷グローの冒険物語~  作者: アラン
アシーナ帝国vs飛び地
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5章38話 その先に

 マリア率いる騎兵部隊が、海岸側のファルーシア騎兵部隊を撃破した後、真ん中の歩兵部隊に突撃していく。


 ファルーシア騎兵やエルバ人歩兵は逃走し、もう壊滅状態になっていた。残りは、魔物が多いアンジェル帝国軍だけだった。


 なので、グローたちの今の課題は、その魔物を掃討することだった。

 だが、アシーナ兵は、相手が魔物だったのに混乱し、オロオロと狼狽えている。飛び地のファルーシア人やエルバ人だけではない。こちらのアシーナ人たちも恐怖に染められている。


 そこに指揮官が、

 「戸惑うな!相手の飛び地軍が人間ではなかった。ただそれだけだ。討伐することに変わりない」

と兵士に大声で伝え、自ら先陣を切る。


 その指揮官の声で、アシーナ兵は目標が明確になり、彼らの中で戦う決意が出来上がる。アシーナ兵はそれぞれアンジェル帝国軍の魔物に立ち向かっていく。


 グローたちも同様に魔物に立ち向かっていく。グローは歩兵部隊の中のロウリィレェン(柔利人)と対峙する。


 ロウリィレェンは手足が一本ずつしかない。そのため、手に剣を持っているが、あまり強そうに見えないが、決して油断はできない。


 グローが剣をロウリィレェンに向けて剣を横に振ると、ロウリィレェンは驚くほどに柔らかく自身の体をありえない方向にぐにゃりと曲げて、攻撃を避ける。そして、グローの胴体を掴んできた。

 グローはその胴体に絡んできているロウリィレェンに向けて、剣を縦に突き刺そうとすると、今度はラミア(Λαμία)が彼の腕を噛んできた。


 ラミアは上半身が見目麗しい女性の姿をしているが、下半身が大きい蛇で、牙や舌も蛇の形になっている。


 その蛇の鋭い牙でグローの腕を噛んできたため、彼の腕に激痛が走る。さらにラミアは蛇の体で彼の体を巻き付き、締め上げようとする。彼の体からミシミシと音が鳴る。


 彼はこのままではまずかった。ラミアによって圧死されそうだった。

 グローは圧死を防ぐため、噛まれていた腕とは逆の手に剣を持ち換え、その剣でラミアの下半身に突き刺す。ラミアは痛みで甲高い叫び声を上げる。


 その隙に、彼は剣でラミアの首に斬りかかる。ラミアの首は斬れ、体と頭が別々になってしまう。首からは血が溢れ、ドシンと音と同時に体が崩れ落ちる。


 ロウリィレェンは仲間の死を目の当たりにし、頭から血の気が引く。そして、彼は剣をロウリィレェンにも突き刺し、ロウリィレェンも崩れ落ちる。


 魔物はとても連携をして攻撃をしてくる。一体ではそこまで強さはなくとも、すごい連携で攻撃してくるため、中々手強(てごわ)い。彼らには人間よりも遥かに連帯感を感じる。


 彼は次の魔物討伐に備え、他の魔物の許に向かう。だが、彼はその走っている中、地面に転がる多くの魔物の死体が目に入る。そこで、彼は魔物を殺すことに何も感じなくなっていることに気づいた。彼は魔物を何体も殺したが、自分が最初の人間を殺すことより罪悪感を感じていないことに、人間の恐ろしさを感じる。自分と違うから、罪悪感をあまり感じない。その自分勝手さがとてつもなく悔しく感じた。彼は自分のした罪から逃れたいという思いから、心の中で魔物の死体にごめんと言葉を添える。


 そして、その気持ちを大事に抱えたまま、二人のために戦うことを改めて決意する。


 彼は敵の歩兵部隊に再度切り込みにかかる。マリアの方も順調そうだった。マリア率いる騎兵部隊は、アンジェル帝国軍歩兵部隊を側面から攻撃している。相手の歩兵部隊は、正面のアシーナ歩兵部隊と側面の騎兵部隊から攻撃を受け、どんどん淘汰されていく。


 だが、アシーナ側も安心できない。アシーナの海岸から遠い右の騎兵部隊が、敵にかなり追いやられている。その上、こちらの歩兵部隊も数は大分劣るので、もし騎兵部隊が突破され、こちらの歩兵部隊が攻撃されると敗北してしまう。アシーナ側は急いで敵の歩兵部隊を減らしていく。


 グローも例に漏れず、敵の歩兵部隊の数を減らしていく。アンジェル帝国軍の人間の歩兵や魔物を倒していく。


 すると、段々地面が揺れ、ドシンドシンと大きな足音が鳴る。その震源には、大きな巨体と角がある魔物がいた。ミノタウロス(Μινώταυρος)だった。ミノタウロスは頭と足が牛そのものだが、それ以外の体は人間の男性の体という奇妙な姿だ。ミノタウロスの体はとても筋骨隆々で、手には大きな斧を持っている。身長も7フィートくらいの高さがある。


 ミノタウロスは、手に持っている斧で、目の前のアシーナ歩兵2人に向かって、素早く振り下ろす。アシーナ兵は為すすべなく、斧でまとめてぺしゃんこにされた。


 「ふん、脆いな」


 ミノタウロスはそう呟き、辺りをキョロキョロと見回し、次のターゲットを探す。そんなもんだから、周りのアシーナ兵は怖気づいてしまって、ミノタウロスに中々近づこうとしない。そのため、ミノタウロスの周りだけが、ぽっかりと隙間が空いている。


 そんな中、グローは走ってミノタウロスに近づく。彼の姿がミノタウロスの目に入り、奴はまた斧を振り下ろそうとする。だが、彼は勢いよく転がるようにして、斧を避ける。


 「ほう、お前は骨がありそうだな」


 彼とミノタウロスは各々の武器を構え、届きそうで届かなさそうな距離で対峙する。


 ―また骨が折れそうな敵だな。



 グローとミノタウロスはジリジリと距離を少しずつ詰めていく。すると、突然、ミノタウロスが片足を踏み込み、こちらに全速力で走ってきた。グローに間近まで近づくと、足を開いて固定し、斧を振りかぶる。


 そのままミノタウロスは斧を振り下ろそうとするが、グローは攻撃するのが分かっていたので、奴の股下を滑るように潜り、背後に回る。そして、彼は奴の背中に剣で斬りつける。


 ミノタウロスは斬りつけられて、切り傷から血が出るが、あまりダメージは深くなさそうだ。やつの強靭な肉体と身につけている鎖帷子が、やつの体を守っているのだろう。


 「こんなもんか。もっと楽しませてくれよ」


 ミノタウロスは後ろを振り向き、今度は横なぎに攻撃してくる。

 奴はこんな戦争中なのにも関わらず、グローと戦っているのが楽しいのか、口角が上がっている。


 グローは下に潜るようにして、攻撃を避ける。

 そして、その勢いのまま、ミノタウロスは再度上から斧を振り下ろそうとする。


 グローはすぐさま盾を上向きに構え、まるで斧を正面から受け止めるように見せる。案の定、ミノタウロスは斧を振り下ろすが、彼は斧を下に受け流すように徐々に横にスライドし、斧を避ける。ミノタウロスはかなり力を込めていたのか、斧の刃が地面に突き刺さる。彼はそれを利用して、地面に突き刺さった斧に乗って、軽く足で蹴って跳ぶ。そして、剣先を下の後ろ向きにして、遠心力を利用して、剣を回転しながら、ミノタウロスの首に突きつける。回転に乗った剣はすごい速さで、ミノタウロスの首を切断しようとする。


 だが、次の瞬間、鈍い音が鳴るのと同時に剣が受け止められる。ミノタウロスは筋肉と骨が強靭な左腕を犠牲に、彼の剣を受け止める。やつの左腕は肉が断ち、骨が折れている。とても痛々しいが、肝心の首を守っている。


 そして、ミノタウロスは、グローの顔が目と鼻の先ぐらいに近い間合いで、彼に向かって思いっきり頭突きをする。彼は奴の頭突きで軽く吹っ飛ぶ。


 「くそ……。思ったよりやるな。首持ってかれるところだったぜ」


 ミノタウロスは損傷した左腕を見ながら、そう呟く。さすがに、ダメージがデカいのか、額に冷や汗をかいている。


 彼はというと、頭がグワングワンと揺れ、目眩と吐き気がする。必死に立ち上がろうとするが、視界がボヤッとしていて不安定だ。彼は頭突きされた額の部分を触ると、手には血が出て腫れている。なんて石頭だろうか。彼はフラフラしながらも、必死に立ち上がる。


 大きい足音が、彼に段々近づいてくる。ミノタウロスは追撃しようと、彼に近づいてきていた。だが、彼は目の焦点が合わず、視界がボヤッとしていて、奴の動きが捉えられない。


 ―この圧倒的不利な状況で勝てるのか。


 不安と恐怖が彼の脳を支配する。


 ―いや、悪い方向に考えるのは止めよう。勝てる、勝てないの結果だけ見てはダメだ。勝つために何かを工夫し、勝てる確率が低くても挑むしかない。


 彼はもう目だけで捉えるのを諦めた。目を瞑り、耳を澄ます。


 「なんだ?急に目を閉じて。諦めたか」


 ミノタウロスは、彼の目を瞑る姿を見て、そう呟く。


 ―気にするな。俺はもう耳で、ミノタウロスの立ち位置と動きを捉えるしかない。


 人は無音と言われる状態でも音を必ず出す。今のミノタウロスで言えば、吐息、鎖帷子の擦れる音、足音、声、斧を振るときの空気を切る音などが聞こえる。


 彼は今まで目の情報だけに頼ってきた。だが、その頼りがないのでは、他の耳などの情報を使うしかなかった。


 彼は耳を澄ましていると、段々ミノタウロスの大きい足音が間近まで近づいてきた音がする。そして、斧を振り上げたときに出る空気の切れる音が聞こえた。


 ―上だ!


 彼は攻撃を横に避け、剣でミノタウロスの脇腹を斬りながら、ミノタウロスの横を通り越す。剣の手ごたえから大分攻撃が深く入ったようだ。


 さすがのミノタウロスも限界なのか鼻息が荒くなっている。


 「くそ……、ここまでか」


 ミノタウロスは膝から崩れ落ち、地面にうつ伏せで倒れる。


 グローは、ミノタウロスがもう戦えないのを見て、他の所へ移動しようと背を向ける。すると、後ろから、途切れ途切れの声が聞こえてきた。


 「……確かに、お前は強い。きっと俺を遥かに凌駕する戦士になるだろう。だが、その先に何がある。戦争は無くならない。貧困や不平等も無くならない。その先はただ絶望だけが待ち受ける修羅の道だ」


 ミノタウロスは文句を言うように、そう呟く。


 ―だが、その戦争を起こしているのはお前らだろう。


 彼は奴の言葉がただの屁理屈にしか聞こえず、あまり聞く耳を持たなかった。



 彼はこの時は、まだミノタウロスの言葉の本当の意味を理解できていなかった。

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