5章37話 本性現る
グローとヴォルティモは飛び地軍の歩兵と戦う。
グローはファルーシア人歩兵を目の前にすると、昨晩のゾンビが頭によぎる。
―クソッ……。そんなこと気にしている場合じゃないな。
ファルーシア人歩兵が、グローに剣で斬りかかる。グローはその攻撃を盾で受け止め、カウンターで相手の胸を斬る。ファルーシア人歩兵の胸から血がボタボタと流れ、吐血した後、そのまま倒れる。
グローは他の敵歩兵を倒そうと、別のファルーシア人歩兵に向かって走ると、後ろから鋭い痛みが走る。
「ぐあっ!」
グローはすぐに後ろを振り返ると、後ろにはエルバ人歩兵がいた。
―いつの間に後ろにいたんだ。全然気づかなかった。寝不足なのもあるのかもしれない。
アシーナ兵は昨晩のゾンビ襲来のせいで、疲れ切っていた。なので、アシーナ側は、長期決戦になってしまうと、かなり分が悪い。つまり、短期決戦で決めなければならなかった。
グローは背中から血が少し流れ、ジンジンと痛みが響く。その痛みに耐えつつも、剣をエルバ人歩兵に向ける。
目の前のエルバ人歩兵は走って、グローの背面へと移動しようとする。グローはエルバ人を視界から逃がさないよう、向きを変えるが、また見失ってしまった。
―クソッ。どこ行った?
そうやって彼はエルバ人を探そうと、キョロキョロ辺りを見渡す。
だが、彼は目の前のエルバ人に気を取られ過ぎて、近づいているファルーシア人歩兵に気づいてなかった。
ファルーシア人歩兵はコソコソと彼に近づき、後ろから剣を斬りかかる。このままでは、彼は殺されてしまう。だが、一本の錫杖がそれを阻止する。
「おい、余所見をするな」
ヴォルティモが錫杖でファルーシア人歩兵の攻撃を防ぎ、グローにそう注意する。
「わ、悪い」
グローは忍び寄っていたファルーシア人歩兵に今更気づく。そして、ヴォルティモが攻撃を防いでくれている間に、ファルーシア人歩兵に斬りかかる。ファルーシア人歩兵は斬られて、そのままドシャッと地面に倒れる。
「ほら、背中見せてみろ」
ヴォルティモはグローの背面に回り、法術で傷を回復する。
「ありがとう」
「次は油断するなよ」
ヴォルティモはそう言うと、他のとこへ移動する。
グローは敵に背中を斬られてしまったが、そのおかげで昨晩から続いていた眠気が覚めた。
彼はその目が覚めた状態で、辺り全体を改めて見る。すると、ふと兵士に守られている怪しげな人影が目に入る。その人影は、ローブを着て、フードを目深に被っている。その人は両手を前に出すという奇妙なポーズをしている。
普通だったら、変な奴として無視するところだが、彼はなぜか無視できず、まじまじと見てしまう。彼はどうしても気になってしまい、その怪しげなやつに向かって近づく。
近づいてくるグローに、兵士は警戒して剣を向ける。その兵士の顔立ちは、ファルーシア人でもエルバ人でも無かった。多分アンジェル帝国軍の歩兵なのだろう。
そのアンジェル兵士はグローに斬りかかるが、グローは盾で受け止め、すぐさま剣で胸を突き刺す。
「グッ!ダンタリオン様、逃げてく……」
その兵士は小声でそう言いながら、地面に倒れていく。
「お前は誰だ。何をしている」
グローは低めの声でそいつに問い詰めるが、そいつは全然質問に答えない。だが、フードの中から、その怪しげな人の顔が少しだけ窺える。美麗な顔をしている青年男性だった。
「そんな低めの声で美しくないな。この僕が醜いお前に教えるわけないだろ」
グローはカチンと頭にきて、そいつに体当たりをし、フードを剥がそうとする。
「おっと、すぐに攻撃するなんて美しくないな」
そいつはそう言いながら指を鳴らすと、体が黒い霧となり、消えてしまった。
そいつが去ると、戦地で戦っている飛び地の軍隊の本性が露わになる。人間のように見えていたが、異形な魔物だった。一つ目や一本足などの欠けている魔物と多手や多頭などの逆に過多の魔物がいた。身長が普通の成人男性を優に超えている魔物もいた。中には、獣人と人間が混じり合った魔物もいた。まるでフーシーのように、頭などの一部が人間で、それ以外が獣の姿をしている。さらには、昨晩で見たファルーシア人に似たゾンビも混じっていた。
その奇妙な姿を見て、飛び地の軍にいたファルーシア人やエルバ人が恐怖の叫び声を出す。今まで一緒に戦っていた仲間が魔物だったのだ。その形容しがたい恐怖から、飛び地軍内のファルーシア人騎兵は脱走し、エルバ人歩兵は混乱し、その場に呆然と立ち尽くしてしまう。だが、アンジェル帝国軍やプルッツェン騎士団領軍は、まるで元から知っていたかのように、味方の魔物を見ても動揺していない。
魔物やアンジェル帝国軍とプルッツェン騎士団領軍の人間の兵士は、変わらずアシーナ帝国軍に攻撃をしてくる。敵だけでなく、奇妙な魔物に対峙したアシーナ帝国軍は軽く恐怖に染まる。だが、幸いなことに、敵の兵数が減ったため、兵数の差は縮まった。
―なるほど、奴らの半数以上が魔物だったのか。だから、飛び地の軍がこんなに小さい規模なのにも関わらず、強かったのか。それと、アンジェル帝国軍が動揺しない辺り、本当に魔物と結びついているんだな。もしかして、飛び地が魔物なのも……。
彼は悪い想像に走ってしまうが、あくまで憶測でしかない。
敵味方も困惑する中、マリア率いる騎兵部隊がファルーシア騎兵部隊を突破したようだ。
ここから、彼らの反撃開始だ。




