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奴隷物語 ~奴隷グローの冒険物語~  作者: アラン
アトマン皇帝との交渉編
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4章26話 companion

 グローとヴォルティモはピー・ラン・グルオンとの戦いが終わると、ピー・ラン・グルオンを埋葬する。マリアは不思議そうな顔をするが、彼らに合わせて、とりあえず手を合わせてくれた。


 グローは、ふとピー・ラン・グルオンの言っていた言葉が気になり始める。勿論、人間への強い恨みも気になるが、マリアを見た瞬間、「ようやく見つけた」と言っていた。その言葉の真意が気になり、グローはマリアに尋ねてみた。


 「なあ、マリア」


 「何?」


 「あー……。マリアは以前、ピー・ラン・グルオンと遭遇したことがあるのか?」


 マリアはすごい勢いで、手と頭を連動させるように、横にブンブンと振る。


 「いやいや、あんな気味悪いの見たことないわ」


 「そうか。じゃ、“ようやく見つけた”ってどういう意味だったんだろう」


 「さあ、分からないわ」


 マリアに聞いても何も分からなかったので、グローはとりあえず考えるのを保留にした。


 「そろそろ行こうか」

 グローがそう言うと、マリアは返事をする。

 「ええ」


 そうして、彼らはまたミレトスへと足を進めた。


 その道中、「はぁ……」とヴォルティモが深い溜息をつく。最近、ヴォルティモは暗い雰囲気を漂わせている。度々溜息をつき、冷えた夜に寝るときには、

 「……寒いな」

とボソッと呟いてくる。多分馬車の屋根を失ったのが余程ショックだったのだろう。


 グローとマリアは、ヴォルティモが温厚な見かけによらず意外と根に持つタイプなのだと思った。だが、よくよく考えると、この馬車はロマニ民族のアイデンティティであり、伝統あるものだからそれほど重要だったのだろうと、すぐに彼らは納得した。


 「次のミレトスの街で屋根を修理してもらおう」


 「そうね」


 彼らは、さすがにヴォルティモが不憫に思えたので、次の街で屋根を修理することにした。ヴォルティモはそのことを聞くと、急に表情を明るくする。ヴォルティモは元気を取り戻したように、馬を軽快に走らせる。


 そうして、彼らは次のミレトスの街へと向かっていると、草原の道の途中で、川を見つける。

 マリアが川を見つけるとすぐさま、馬車を止めるよう急かす。


 「せっかく川あるから、水浴びしたい」


 「えー、早く次の街まで急ぎたいな……」


 ヴォルティモは馬車の件もあり、早く進度を進めたいようだ。マリアの提案に苦い表情をしている。


 だが、マリアはヴォルティモのそんな態度も気にせず、自分の提案を半ば強引に押し切ろうとする。


 「そんな急いでもしょうがないでしょ。そのどんよりした雰囲気も洗い流しなよ」


 マリアの故郷のエストライヒはどうやら風呂の文化があり、基本清潔にすることに拘りがあるらしい。ここら辺でいえば、珍しいことだった。基本風呂文化の広まりは薄く、貴族などでも香水を付けるだけなので、風呂に入ることが当たり前のエストライヒは新鮮に感じられる。だから、マリアはグローとヴォルティモより清潔に拘りがあるのかもしれない。


 「余計なお世話だ。それに、次の街に着けば、このどんよりした雰囲気は消える」


 「えー、いいじゃん。ここで休憩しようよ」


 マリアはもはや子どものように、理屈など関係なく駄々をこねる。

 グローはそんな二人のやり取りを見て、クスリと笑ってしまう。


 「まあまあ、ヴォルティモ。ここで休憩するのもいいんじゃないか?ミレトスの街は逃げたりしねえよ。それに、不潔のままだと体にも悪いし」


 グローはマリアの肩を持つように、ヴォルティモに説得する。すると、ヴォルティモは少し考えた後、折れるように、「わかった」と納得した。マリアは久しぶりに水浴びできることに、本当に喜んでいた。



 彼らは3人で交代しながら、川で水浴びをすることにした。


 「せっかくだから、服も洗濯するか」


 グローは水浴びするついでに、服も洗濯することにした。洗濯できるように、大きな入れ物を用意する。


 そして、彼は、馬車にあるイオアニナで買っておいた食材を見てみる。人参と玉ねぎとセロリがあったので、野菜スープを作ることにした。

 彼は、火打石などで焚火をし、深いフライパンを熱する。そして、オリーブ油を敷き、適当な大きさに切った野菜を入れて、炒める。野菜がいい具合に炒め終わると、水を入れる。


 彼は、野菜スープを作っていると、ロレンツォに作ってもらった野菜スープを思い出す。懐かしさと同時に切なさが心に浮かぶ。彼は、そのごちゃ混ぜになった感情と一緒にフライパンに蓋をし、野菜が茹で上がるのを待つ。グツグツと茹で上がり、蓋を開け、塩で味付けをする。これで野菜スープが完成した。


 すると、その姿を見たマリアが不思議そうな顔をする。


 「え、なんで、洗濯するのに、料理するの?」


 「洗剤の石灰が無いから、この焚火でできた灰を使って灰汁を作ろうと思って」


 マリアはそれを聞いて、納得する。


 「なるほどね」


 「そうそう、石灰だけじゃなく、灰汁にもアルカリ性(al-qily())が含まれているから、洗剤として使えるんだよ」


 彼は得意げにそう説明する。

 

 「グローも随分物知りよね」


 「そうかな?まあ、ある人の知識を受け売りしているだけだよ」


 グローはマリアの言葉に照れてしまう。


 「とりあえず、冷めないうちにスープを食べよう」


 彼は照れ隠しのように、すぐに話題を切り替える。


 「そうね」


 彼らは野菜スープを平らげ、焚火の後にできた灰と川から汲んだ水を容器に入れ、簡易的な洗剤ができた。


 「大きめのローブがそれぞれあるから、水浴びをした後、ローブで(くる)まり、着ていた服をこの洗剤の入った入れ物に入れていこう。それで、洗濯して、干して、服が乾いたらまた再出発しよう」


 「わかった」


 グローは二人の了承を得て、今日はここで野宿することにした。


 彼らは交代で水浴びをし、服を洗濯して、焚火の近くに干した。彼らは服が乾くまで、焚火の炎をぼうっと眺める。少しだけ小腹が()いたので、一つのパンを3人で分ける。グローは、さすがに何も喋らないのもどうかと思い、二人に話しかける。


 「二人は将来何がしたい?」


 彼の質問にまずはヴォルティモが口を開いた。


 「俺は故郷帰って、えー……。そうだな。俺は何がしたいんだろうか」


 ヴォルティモは困った表情をし、誤魔化すように笑う。

 グローは、質問に疑問で返されてしまった。だが、彼はヴォルティモの気持ちも十分理解できた。確かに、故郷がどうなのか分からない以上、何すればいいか分からないのだろう。


 「マリアはどうなんだ?」


 ヴォルティモは返答に困り、マリアに話を振る。


 「私は勿論エストライヒを再興するわ」


 マリアは揺れ動くことのない固い決意を、凛とした表情で、そしてはっきりした声で表す。


 「その先はどうするんだ」


 グローがその質問をすると、マリアは少し困惑する。


 「え、うーん。どうするって言われても」


 その質問で困るマリアに、追い打ちをかけるように彼は言葉を付け足す。


 「国を再興しても、同じ様じゃ、また危険な目に遭うぜ。もっと自分が何したいとか考えた方がいいんじゃないか。これをしなきゃいけないと義務感に縛られていると、息苦しくなるし、目的が果たされたとき、無気力になるぞ」


 彼がそう諭すと、マリアは真剣に耳を傾け、うんうんと頷いている。


 「確かに一理あるわね」


 マリアはそう言い、改めて考えていた。

 それからは、彼らは夢だけでなく趣味などの話もした、分けたパンを食べながら。


 「二人は何か趣味とかなかったのか」


 グローが二人に他愛もない質問をする。


 「私は、花を愛でたり、お菓子を食べることが好きだったわ。あと、ピアノも嗜んでいたわ。ただ、教える先生がうるさくて嫌だったわ」


 マリアはうんざりした顔で、ピアノの授業に文句を言う。グローは、皇女は皇女で大変なのだろうと思っていると、次のヴォルティモの口から驚きの言葉が出てきた。


 「俺も実は昔、音楽をやってて、リュートを弾く吟遊詩人もやっていたんだ」


 「「え!」」


 衝撃の事実にグローとマリアは二人して驚く。


 「意外だな。ヴォルティモが吟遊詩人だったなんて。宗教しか興味ないのかと思ってた」


 グローは思っていることをそのまま言ったつもりだが、少し皮肉めいた言い方になってしまった。


 「そうそう。分かる分かる」


 マリアがすごい速さで、グローに同調してきた。


 「お前らは俺を何だと思ってんだよ…。まあ、確かに宗教は好きだけども。元々ロマニ民族は音楽に特化していて、吟遊詩人も少なくないんだ」


 ヴォルティモは呆れ顔で二人を見て、言ってきた。

 そして、マリアが何かを思い出したように、手を打つ。


 「あ、確かに、吟遊詩人のロマニ人を見たことはあるわ」


 「へえ、そうなんだ」


 グローは、ロマニ民族について知らなかったので、初耳で衝撃だった。


 ヴォルティモはマリアの言葉に同意し、付け加えるように話し出した。


 「そうそう。だから、俺も家族から貰ったリュートを持ってて、弾いていたんだけど、中々売れなくてな。お金が無さ過ぎて、売ってしまった」


 グローとマリアはそれを聞き、アハハと声をあげて笑う。


 「ヴォルティモのリュート聞いてみたかったな」


 マリアがヴォルティモをからかうように言う。


 「失礼な。絶対下手って思っているだろ。あれだからな。金が無さ過ぎて売っただけだからな。別に、下手ではないからな」


 ヴォルティモは言い訳をするように、早口でまくし立てる。その必死さが余計、二人にとって面白かった。


 彼らは服が乾くと、服を着直して、そこで野宿をした。そして、夜が明けると、またミレトスの街を目指した。


 すると、途中の道でヴォジャノーイ2匹に遭遇した。ヴォジャノーイは、長老のような長い髭を生やしており、その髭に相応な老人の姿をしている。だが、ただの老人には見えない。体や頭は緑色で、目玉が飛び出すかのように、前面に出ている。ほんの少しカエルに似ている。


 彼らは剣や槍など各々の武器を構え、ヴォジャノーイに対峙する。すると、ヴォジャノーイは「グワグワ」と喉の奥で鳴く。よりカエルに近い。そして、ヴォジャノーイは口に溜めた水を噴水のように強く吐き、彼らに向ける。だが、ピー・ラン・グルオンと戦った彼らには攻撃が遅く見える。その強く吐いた水を避け、各々の武器で攻撃する。すると、ヴォジャノーイはあっけなくやられる。そして、そのまま倒れこみ、傷口から血と内臓が少し出る。


 しばらく経っても、ヴォジャノーイは、黒い塵にならない。フーシーと同じだった。この違いは何だろうか。グローはこの疑問について再度考えるがやはり答えは出ない。

 彼らはヴォジャノーイを埋葬する。いつも慣習的に行っているが、この行為で命の重さについて改めて考えることができる。


 この弔いが後に影響を与えるのは、彼らは今はまだ知らない。


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