表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奴隷物語 ~奴隷グローの冒険物語~  作者: アラン
アトマン皇帝との交渉編
24/137

4章23話 マリアとの出会い

 グローは神聖エストライヒ帝国の滅亡を聞き、絶望に陥った。

 だが、それは彼だけではなく、ヴォルティモも同様だった。いや、ヴォルティモの方が、落ち込みがひどい。抜け殻のように、口をポカンと開け、下を俯いている。あれだけ煙たがられていたのに、やはりヴォルティモにとって故郷のようだ。故郷を亡くす辛さはグローもよく知っているので、彼には気持ちがよくわかった。


 この二人の気持ちに反映するかのように、季節は晩秋でとても身体と心が冷える。

 二人でどんよりした気持ちで、イオアニナの街を馬車で走る。


 すると、フード付きの黒いローブを着たいかにも怪しい二人組が、路地裏周辺でコソコソしているのが見えた。

 今こんなきな臭い状況なので、彼らは少し素性を聞いてみることにした。


 彼らはその怪しい二人組に近づき、

 「何しているんだ」

と低めの声で問いかける。


 グローの声に反応し、二人組はこちらに振り向く。そのフードの中から顔を覗かせる。長い金髪で青緑色のツリ目の少女と後ろにそばかす顔の金髪で青目の女性だった。


 「あ!」


 ヴォルティモは少女の顔を見ると驚き、大声を一瞬上げるが、自分の口をすぐに噤んだ。ヴォルティモはグローとローブの女性たちにしか聞こえないように、こそッと小声で話す。


 「マリア=テレジア姫、どうしてここにいらっしゃるのですか?」


 グローはマリア=テレジア姫と聞き、飛び上がるように驚いてしまう。

 ―マリア=テレジア姫だって!確か、神聖エストライヒ皇帝の姫だよな。


 「…誰よ、あなた」


 姫は鋭いツリ目でこちらを睨んできた。無理もないだろう。全く面識のない人たちが急に話しかけてきたのだから。


 「これは失礼いたしました。自分は神聖エストライヒ帝国出身のヴォルティモと申します。この隣にいるのは、旅を共にしているグローです」


 ヴォルティモは姫に向かって跪き、自身とグローを紹介する。グローはヴォルティモを見習い、同じように跪く。


 「そうなのね。失礼いたしました。誰か分からなかったもので」


 マリア=テレジア姫は、ローブの裾を少したくし上げ、上品にお辞儀をした。


 「いえ、そんな止めてください」


 ヴォルティモは、姫のような高貴な身分が自分のような身分にお辞儀をするのを嫌がった。


 姫は頭を上げ、彼らも立ち上がり、目線を合わせる。


 「それしても、なぜここに」


 ヴォルティモが姫にそう尋ねると、姫は苦虫を噛み潰したような表情をし、自身のツリ目をより鋭くし、アンジェル帝国の方向を睨む。


 「……もう知っているでしょうけど、私の国は滅びてしまった。だから、アンジェル帝国に捕らわれないように、このアシーナ帝国に亡命したのよ」


 姫はイライラが高まっているのか、徐々に貧乏ゆすりのように足を揺らす。


 「確かに、今までの歴史の中で滅ばされた国が多くあったわ。実際に私の母国が滅ぼした国だって少なくない。でも、私は今回の戦争に納得していないわ」


 グローたちが返事をする間もなく、姫は続けてどんどん不満を吐露した。その言い方からも悔しさがとても伝わってきた。


 「だって、おかしいもの。魔物の討伐や警備で兵士が割かれているのに、ほぼ同時期にアンジェル帝国が攻め込んだり、反皇帝派の領邦が反旗を翻したり。それに……」


 「それに?」


 姫の言いかけた言葉が気になり、グローはそのまま聞き返す。

 姫は手をわなわなと震わせ、強く噛みしめた口を開きながら教えてくれた。


 「私は…。私は、見たのよ。魔物がアンジェル帝国の兵士と話しているのを」


 ―魔物が、人間と?話をしていただって…?

 グローたちはその姫の言葉を素直に信じられなかった。


 だが、グローは少し記憶を辿っていると、あることを思い出させられる。前に倒したオークや人狼が、アンジェル語を話していたことをハッと思い出す。


 そのハッと何かに気づいた彼の表情を見た姫が、彼の肩を掴み、すごい気迫で問い詰めてきた。


 「あなた、何か知っているのね?話しなさい!」


 グローはあまりの姫の気迫に気圧され、少し怯んでしまった。


 「え、えっと、実は俺たち二人は以前村を襲おうとしたオークと闘っていたのですが、やつらはアンジェル語を話していました」


 「やっぱりね」


 姫は何か納得がいったかのように呟く。


 「アンジェル帝国と魔物はどんな関係かは分からないけど、絶対何か関係がある」


 姫がそのことを言った瞬間、ここの空気が凍る。


 「参考になったわ。ありがとう」


 姫はそう言い残し、この場を去ろうとする。


 「え、どこへ行くんですか」


 グローは姫の腕を掴み、行き先を尋ねた。


 「決まっているわ。協力を仰いで、アンジェル帝国に攻め込むのよ」


 姫は今にでも攻め込む勢いだった。


 「何か策はあるんですか」


 姫は目をそっぽに向け、困ったような表情をする。これは、無策のようだ。

 グローは姫に一つ提案してみた。


 「失礼を承知で、姫。自分たちと一緒に旅をするのはどうでしょうか」


 「お、お前、何言ってんだよ」


 ヴォルティモは彼の提案に焦り、彼の肩を揺らす。

 グローは気にせず、そのまま姫から目線をずらさず、まっすぐ伝える。


 「実は、自分の故郷もアンジェル帝国に滅ぼされた過去があります。そして、自分は故郷を取り戻したい気持ちがあります。なので、助力ですが、協力させていただきます。ですが、自分たちは今金も権力も力も無い。なので、世界を旅し、協力を仰げる国を探しましょう。そして、自分たちも力をつけましょう」


 グローは、ヴォルティモにもその自分の過去を伝えてなかったため、そうだったのかと少し驚いて、グローの肩から手を放す。

 姫は手を顎につけ、少し考える素振りをしている。


 「…確かに、それも一理あるわね。一晩考えさせてちょうだい」


 「もちろんです」


 その後、グローとヴォルティモは姫と一時離れ、自分たちの宿に帰った。その日の晩は、誰もが中々寝付けなかった。


 その翌日、昨日と同じ路地裏周辺で姫と再会した。

 姫は覚悟を決めたように真面目な顔をした。


 「決めたわ」


 グローたちは、姫がどちらの選択にするかドキドキする。だが、どちらにしても姫が望むならそれがいいと思っている。


 「私も旅にお供させてください」


 姫はこんな自分たちにもお辞儀をして、震えた声で頼んできた。これは姫にとって、相当な苦渋の決断だっただろう。しかも、姫がこんな自分たちに丁寧な言葉を使っているのが余計姫の立場の辛さを感じさせた。


 しかし、姫はそんな重い空気を切り替えるように、頭を上げると急に笑顔になる。


 「あと、これでいいかしら。一応メイドのアナに頼んで、闘いやすそうな服装と防具を揃えてもらったのだけれど。髪も邪魔にならないようにしてみたの」


 そう言い、姫はローブを脱ぎ、くるっと回転した。金髪の長髪は髪留めでまとめられ、服装もドレスではなく、ズボンと動きやすくしてある。その服の上に、上半身の鉄の防具が付いている。だが、あくまで動きやすさに特化しているからか、その上半身以外は防具が付いていない。さすが王族だけあって、防具や服はとても上等な代物だ。だが、姫が手に取っている(パイク)はとても年季を感じる。しかし、その年季にも負けぬくらい刃こぼれはなく、強そうな槍だ。


 「この槍はどうしたんですか」


 グローは服よりも槍の方が気になり、槍のことについて聞いてみた。


 「これは元々皇族代々に受け継がれている槍なの。神聖エストライヒ帝国は元々槍術がとても得意で、その伝統のある槍なの。実はアナが城を出る前に持ってきてくれたの」


 「そうなんですね」


 ―なるほど。それなら、この年季と強そうな雰囲気があるのは納得だ。

 姫は何かを思い出したかのように手を打つ。


 「そういえば、しばらく私の身分を隠すから、姫とかの敬称禁止。あと、敬語も無しね」

 グローは、一理あると思い、敬語を使わないよう意識する。


 「了解しました」


 しかし、彼は無意識にまた敬語を使ってしまった。


 「あ、さっそく使っている」


 姫にも指摘をされてしまった。姫はふくれた顔で言ってくる。その姫のお茶目さに、彼らの神聖エストライヒ帝国皇女のイメージと目の前の少女にずれが生じる。


 「ねね、それよりどう?この服、あんまり可愛くないよね」


 余程服が気になるのか、度々聞いてくる。本人が可愛くないと言っているので、グローはとりあえず同調しておくことにした。


 「え、ああ」


 その彼のそっけない返答にマリアは不貞腐れた。

 メイドのアナがグローを肘で突き、諭すような口調で言ってきた。


 「こういうときは、可愛いというものです」


 「は、はあ」


 ―んなこと言われても。まあ、仕方ない。とりあえず、可愛いと言っておこう。


 「か、可愛いです。マ、マリア」


 心にも無いことを言ったので、しどろもどろのような言い方になってしまった。しかし、彼のそんな拙い言葉にもマリアは頬を赤らめ、喜んでいる。

 今のマリアは、姫というよりどちらかというと、少女だった。

 だが、おかげで、彼らのロレンツォたちの心配で暗くなっていた心が、少しだけ和んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ