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奴隷物語 ~奴隷グローの冒険物語~  作者: アラン
神聖エストライヒ帝国編
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3章20話 魔物か獣人か

 真ん中の狼は、二足歩行で立っており、格好はここら辺では見ないような服装だ。フワフワした帽子を被り、服装は長ズボンに長めの上着を帯で締めている。周りの兵士たちは剣や槍を魔物に向けるが、グローは少しの違和感を感じる。


 「なあ、変なこと聞くかもだけど…。真ん中に立っている狼は、本当に、その…、魔物なのか?」


 グローはヴォルティモに、口ごもりながら質問をする。


 ヴォルティモは一瞬、質問の意図が理解できず、眉を顰め、首をかしげる。グローは何を言っているんだろうと思っているに違いない。だが、さすがの優しいヴォルティモだ。あの二足歩行の狼の魔物を見たことが無いのだと勝手に解釈してくれたのだろう。彼は何かを察したように頷き、グローの質問に答えてくれた。


 「ああ、魔物だよ。ライカンスロープやヴラコドラク(人狼)って呼ばれているよ」


 「そうなのか」


 グローは別に人狼を見たことが無いから、魔物か判別できないわけではなかった。確かに、彼は人狼を見たことが無かった。だが、そのことは彼にとって関係なく、それよりも人狼と彼が以前見た獣人との見分けがつかないことが問題だった。


 だが、ヴォルティモや兵士が真剣に魔物に対峙している姿を見て、グローは躊躇いがありつつも剣を構える。


 こちらには兵士が3人いるため心強いが、向こうは人狼にオーク3匹とゴブリンもいるため、こちらが若干不利だろう。その状況をわかっているのか、兵士は険しい表情をしている。


 お互いに睨みをきかせ、痺れを切らしたころに、オークがこちらに斬りかかってきた。魔物と兵士が戦い始め、グローたちはその補助をする。グローはゴブリンを剣で薙ぎ払い、オークにも背中や足を斬りつけ、兵士のサポートをする。ヴォルティモも錫杖で相手の攻撃を止めたり、相手の急所を突き、体勢を崩させる。さすがにこちらも無傷とはいかず、兵士が一人剣で突き刺され、もう一人は人狼に殴られ、死んでしまった。最後の兵士は脇腹に傷を少しだけ負っている。


 だが、オークとゴブリンは全部討伐し終わった。

 グローとヴォルティモは、以前はオークを倒すのにあんなに苦労していたが、今では互角に戦い合えている。

 よし、残るはあの人狼だけだと、グローたちは意気込む。


 彼ら3人はそれぞれの武器を構え、人狼に対峙する。お互いに間合いを保ち、睨み合っていると、突然人狼は目にも見えぬ速さで兵士の懐に入り、両脚を開き、若干奥にある右腕を思いっきり前に突き出し、兵士の胸を突く。兵士は受け身をとれていなかったので、そのまま吹っ飛ばされた。胸によほど深く入ったのか、胸を苦しそうに押さえ、息も荒く、悶えている。


 その兵士の苦しんでいる姿を見て、グローたちはあまりの衝撃に体が固まってしまう。

 彼らの中で、さっきまであった「残りのたった一匹の人狼」という認識が、「まだ残っている本命の人狼」へと塗り替えられる。

 グローたちの頭を恐怖という名の怪物が、貪りつくそうとしてくる。グローは必死で恐怖に支配されないように、深呼吸をして冷静になろうとする。

 グローは人狼に距離を詰められないように、睨みをきかせつつ、ヴォルティモに小声で人狼の情報を聞いた。


 「人狼は、あんな強いのか?」


 「人狼は体術に秀でていて、脚力が凄く、攻撃も素早いとよく聞く」


 「なるほどな……」


 グローは先ほどの兵士がやられた光景を思い出す。ヴォルティモの言うように、今回の敵は動きが速い。攻撃が来るのを見て、避けるのでは間に合わない。グローは、人狼の全身を見て、攻撃の初動を捉えることにした。

 彼は人狼の腕だけでなく、全体を見て、攻撃を受ける準備をする。


 お互いにジリジリと睨み合っていると、人狼の踵が少し浮いたと思った瞬間、人狼は物凄い速さでグローとの間合いを縮めてきた。


 次の瞬間、人狼は両脚を開き、それを見たグローは先ほどの兵士が受けた攻撃を思い出し、人狼の肘から逸れるように、すぐに体を横にスライドする。だが、人狼の攻撃の早さに付いていけず、脇腹に人狼の拳をかすってしまう。その瞬間、グローの脇腹に激痛が走る。拳なのにも関わらず、剣で斬られたような鋭く痛みがグローを襲う。

 だが、ここで痛みに捕らわれてしまえば、人狼の追撃を許してしまうことになる。グローは歯を食いしばり、相手に追撃をさせないように、剣を人狼の頭目掛けて斬りつける。


 だが、人狼は瞬時に理解し、すぐに体勢をこちらに向け、両腕を交差させ、剣を受け止める。そして、その交差させた腕をそのまま力強く押し付け、グローを軽く吹っ飛ばす。


 グローは隙を作らないよう、吹っ飛ばされてもすぐに体勢を整える。

 彼は人狼に攻撃を与えられず、間合いも取られてしまったため、いら立ちが募り、舌打ちをする。やはり生半可では倒せない相手だった。


 だが、人狼は両腕に傷を負ったので、少しだけグローたちに有利に傾いてきた。やはり攻撃をするには、必ず初動があるようだ。グローはその初動を見て、受け身を取ることを第一に考えることにした。


 「今のを避けられるとは」


 ボソッと人狼が独り言を呟く。やはり以前のオーク同様にアンジェル語で話していた。


 「だが、次はどうかな」


 人狼は体勢を整え、再度グローに向かって走り、距離を詰める。そして、人狼は軽やかに後ろにある左足で地面を蹴る。そして、空中で体を一回転させ、右足をその回転力に乗せ、回し蹴りをしようとする。

彼は咄嗟の予想できない攻撃に受け身を取れていなかったため、頭ががら空きになっていた。


 もう為すすべなく、蹴られるしかない状況だったが、

 「グッ!」

と人狼が突然短いうめき声をあげる。


 「おいおい、こっちも忘れてもらっちゃ困るね」


 ヴォルティモは錫杖で人狼の鼻を突いていた。

 狼は鼻先が弱いため、人狼も同様に効いているらしく、鼻先を手で痛そうに押さえている。押さえている手の隙間から、鼻血がタラリと垂れてくる。


 「グロー、今だ!追撃しろ!」


 ヴォルティモはグローの方に振り向き、攻撃しろと合図する。彼はその合図に応え、人狼に向かって走る。人狼との距離が、剣先が届きそうぐらいになると、剣を横向きに斬りかかる。だが、人狼はしぶとく、片腕を縦にして、ガードをする。だが、人狼のガードした片腕からメキメキと骨の砕かれた音がした。


 「っ!」


 よほど痛かったのか声が出ず、ただ悶えている。

 殺すことはできなかったが、致命傷を負わせることができた。


 人狼は腕を押さえながら、グローたちから距離を取る。もう自分が危機的状況になったのを分かっているからか、冷や汗が出ている。そして、人狼は彼らに背を向けて、向こうにある森に向かって逃げていく。


 「今日は大刀を持ってないから、分が悪い。今日はここら辺で引いといてやる」


 人狼は負け犬の遠吠えのように、そのセリフを置いていき、奥の森の茂みに入っていった。

 これ以上追っても、グローたちも無駄な体力を消耗するし、新たな仲間を引き連れてくるかもしれない。彼らは無駄な深追いはやめた。


 グローとヴォルティモは、気が抜けたように、その場にへたり込む。


 「今回はダメかと思った……」


 ヴォルティモは気が緩んだせいか、顔も緩み、微笑を浮かべながらそう言う。


 「本当だな。もうあいつには会いたくないな」


 グローたちは、またあの人狼に会わないことを願った。



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