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奴隷物語 ~奴隷グローの冒険物語~  作者: アラン
神聖エストライヒ帝国編
17/137

3章16話 教会にて

 グローたちはミラントの街に入ると、この街の繁栄ぶりに感動を覚える。ウェネプティアと比べると、確かにミラント同盟の盟主と言わざるを得ない。ウェネプティアでもかなり栄えている方なのに、ミラントはその倍栄えている。エストライヒの首都ウィンドボナにも負けないくらいだ。


 「いやー、すごいな。これがミラントか」


 「そうだな。この街は人も建物も多いな」


 グローが街を見渡し、感心していると、ヴォルティモは同意してきた。

 グローはワクワクが止まらず、ヴォルティモの肩を揺らしながら、お願いをする。


 「なあ、せっかくだから、この街を回ろうぜ」


 「仕方ないな」


 ヴォルティモは渋々グローのお願いを承諾するが、満更でもなさそうだ。


 ミラントには鍛冶職人や毛織物職人のギルドが多くあるが、特に商人のギルドが多い。街を歩いていると、多くの荷物を載せた馬車を走らせている人も多く見かける。多分ここは、ミラント同盟都市の中で最も北に位置するため、上のガッリア公国やエストライヒ領との交易をよく行うからだろう。


 「これはいくらだ」

 「これは○○の特産品だ」

などの交渉の声があちこちで飛び交う。


 このミラントは商業以外にも宗教や芸術にも特化している。画家や彫刻家が集まる工房なども見受けられる。

 街を歩いていると、広場に画家らしき人が座りながら、手に持っているキャンバスと鉛筆で何かをデッサンしている。そのキャンバスに描かれている絵を遠目で覗くと、向こう側にある大聖堂を描いていた。


 このミラントでは、天にも届きそうな高さと大きさを誇るミラント大聖堂がある。

 グローが高く大きい大聖堂の天辺を下からなぞるように、上を見上げると、

 「このミラント同盟都市群もルークス教の信仰が根付いているから、司教が駐在する大きい聖堂があるんだよ」

と横からヴォルティモが教会や大聖堂を指さして、説明をしてくる。


 この地域は、よほど信仰が深いのだろう。グローは教会や大聖堂の豪華絢爛さに少し興味がでてきた。



 彼は奴隷だった当時、アンジェル教の聖職者が訪れてきた。


 アンジェル帝国は西方に位置しながら、ルークス教とは別の宗教を信仰している。その宗教がアンジェル教だ。アンジェル教の教えとしては、神の使者として、天使がこの地に舞い降りた。その末裔がアンジェル人であり、アンジェル人こそがこの混沌とした世を救うという教えだ。なので、アンジェル人が他国に侵略することは、この世の浄化であり、運命であると信じられている。


 グローは当時、アンジェル教のいう教えを大して信じていなかった。だが、奴隷である彼は自分の現実を受け入れたくなくて、聖職者の言う「運命」に従うしかなかった。故郷が襲われたのも運命なのだと、自分が奴隷となったのも運命なのだと。そう信じる方が、心が安らいだ。



 だが、グローは奴隷から解放されたことで、やはりアンジェル教の教えはおかしいと気づくことができた。そして、彼はアンジェル教のことがあり、宗教から遠ざかっていたが、この間のオークを倒した村での祈りやヴォルティモの信仰する姿を見て、決して悪いものとは言い切れないのかなと思ってきている。


 「この大聖堂って、俺らでも入って説教を受けられるのかな」


 グローは少しの好奇心から、教会で説教を受けれるかヴォルティモに聞いてみた。


 「受けられると思うぞ。受けるつもりなのか」


 ヴォルティモは不思議そうに聞いてきた。


 「ああ、まあ、ちょっとな。ヴォルティモは行っても大丈夫か」


 「あー……。まあ、いいよ」


 ヴォルティモは少し歯切れ悪そうに答えた。仏教徒だから当然なのかもしれない。しかし、グローは一人だと心細いため、申し訳ないが、付き添ってもらうことにした。

 ヴォルティモの服装は仏教徒だと分かるので、一応念のため持っていたローブを着た。


 彼らは大聖堂に入る。内装は、豪華な彫刻と装飾が施されている。信徒が教会に来た人たちを迎えた。グローとヴォルティモは聖書を持っていないため、聖書を借りれないか聞いてみた。


 「すみません、自分は聖書を持っていないのですが、どこで借りられますか」


 「ああ、それでしたらあの机に置いてありますので、あそこのをお借りください」


 信徒は向こうにある机を指さして言った。


 「分かりました。ありがとうございます」


 彼らは机に置いてある聖書を借り、長椅子に座った。

 しばらくすると、神父のような人が出てきて、軽く挨拶をし、聖書を用いて説教をし始めた。

 彼らは聖書の該当ページを開き、神父の説教に耳を傾けた。


 どうやらこの聖書には、このルークス教の預言者の教えである福音書をまとめたもののようだ。そして、その預言者は秀逸な例えを用いて、人々に教えを説いていたという。その例えの中で有名なものを一つ神父は教えてくれた。


 [あるひねくれた異教徒の学者が預言者に対して、質問をした。


 「あなたの教えによると、人が救われるには何をすべきなんですか?」


 すると、預言者はこう言った、「神と隣人を愛しなさい」と。

 だが、ひねくれた学者が再び尋ねる。


 「では隣人とは誰か?」


 その学者は預言者の返答次第で反論するつもりだった。家族や友達などの身近な人を挙げれば、結局は仲間内でしか助け合いをしないのだと。


 だが、預言者はその質問に対し、たとえ話をする。


 ある民族の男性が目的地に向かう道中で強盗に襲われて身ぐるみはがれ、半死半生となって道端に倒れていた。そこに三人の人が通りかかる。


 最初に祭司が通りかかるが、その人を見ると道の向こう側を通り過ぎて行った。次に祭司に仕えている人が通りかかるが、彼も道の向こう側を通り過ぎて行った。しかし三番目に通りかかったある人は、そばに来ると、この半死半生の人を助けた。傷口の治療をして、ロバに乗せて宿屋まで運び介抱した。そして翌日になると宿屋の主人に怪我人の世話を頼んでその費用を払った。そのある人とは、男性の民族に嫌われていた民族だった。


 このたとえ話の後、学者に対して預言者は、このたとえ話で誰が怪我人の隣人となったかを学者に問い、学者が「助けた人です」と答えると、「行って、あなたも同じようにしなさい」と彼は言った]


 グローはこのたとえ話を聞き、目から鱗が落ちるような感じがした。正直、グローたちはルークス教を信仰していないため、少しの興味本位で参加したが、彼らにとってためになった。


 このたとえ話から、誰かを助けたり、愛を与えるのに、制限は無いのだと気づかされた。しばしば多くの人は、民族や宗教が違うからなどと自分で境界線を作り、仲よくしたり、助ける人を制限する。でも、本来の隣人愛はそんなの関係が無いのだと気づかされた。勿論、この話や説教で、俺には理解できない価値観などもあったが、その宗教や価値観の垣根を越えて、気づかされたものも多かった。

 これは宗教だけではないかもしれないが、悪い面もあれば、いい面もあるのだなとグローは思った。


 神父の説教が終わり、椅子に座っている信徒が献金をしていく。

 グローたちはせっかくいい話を聞いて感動していたのに、献金で一気に現実に戻される。

 ―さすがに何も渡さないのはなあ。

 そう思い、彼らははした金だが、少し献金をした。信徒が少し眉をひそめたが、気のせいだと思うことにした。


 そして、彼らはそそくさと教会を出ようとしたとき、壁に飾られている絵画がグローの目に入る。食卓で数人の人が食事をしている絵なのだが、その絵のあまりのリアルさに、絵の中に引き込まれそうになる。絵画の下に、『最後の晩餐』とタイトルが書かれており、画家の名前がレオナルドと書かれている。


 「グロー、行くぞ」


 ヴォルティモが、絵を見ているグローにこそっと伝えてくる。


 「ああ、そうだな。悪い、行こう」


 彼らは教会を出た。


 「さっき絵画を見ていたのか」


 ヴォルティモが先ほどのことを尋ねてきた。


 「ん、ああ、そうそう。なんかとっても綺麗で気になったんだよ」


 「へえ、どんな絵なんだ」


 「なんか、食卓で数人の人が食事をしていた絵だったな。確か、画家がレオナルドっていう人だった気がする」


 グローは見た記憶をまんま教えた。絵画は全然詳しくないので、とても拙い説明しかできなかった。


 「レオナルド……。なんか聞いたことのある名前だな」


 ヴォルティモは手を顎につけ、少し考えている様子だった。


 「……思い出した。確かレオナルドで画家っていえば、何でもできるフローレンツェの万能人だった気がする。あのミラント大聖堂の設計も手伝った気がする」


 「へえ!それはすごいな。ぜひ、機会あれば会いたいものだな」


 彼らは教会を出て、ミラントの市場を少し散策した。グローは市場でワインを売っているのを見て、ふとグラーツで買ったワインと蜂蜜を思い出した。買ったワインと蜂蜜をここで売ることにした。聞くところによると、この地域は特にワインなどを消費するらしいから高く売れるだろう。


 グローは食料品の売店に訪れ、店主に売れるか尋ねた。


 「すみません、このグラーツ産のワインと蜂蜜を売りたいんですけど」


 すると、店主は表情を明るくし、彼が持ってきた売り物を目にした。


 「おお、グラーツのか。ぜひうちで買い取らせていただきたい。銀貨7枚と銅貨100枚でどうだ」


 「安いな。それじゃ、売れないな」


 グローが帰ろうとすると、店主が引き留める。


 「わかった。じゃ、銀貨8枚でどうだ。これ以上はまけられないな」


 グローがもう一つ条件を付けて、交渉をしてみる。


 「じゃ、そこの生ハムを買うんで、もう少し高くしてください」


 店主は少し考え、ため息をつく。


 「うーん、まあ、それならいいだろう。銀貨8枚と銅貨150枚だ」


 「よし、売った」


 グローはワインと蜂蜜を店主に渡し、料金を貰った。そして、その店の生ハムも買い取った。

 彼はその後、オリーブ油やパスタ、安いワインを買い、ヴォルティモの許へ戻った。そして、このミラントを出て、ここから南にある次の街ボノニア(Bononia)を目指した。ミラントからは道路がしっかりと整備されてて、とても行きやすかった。

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