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奴隷物語 ~奴隷グローの冒険物語~  作者: アラン
神聖エストライヒ帝国編
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3章13話 感謝

 グローたちは戦いの疲れから、フラフラと宿に向かい、自分たちの部屋に着くなり泥のように眠った。もうお互いの大きないびきにも気づかないほどに、熟睡した。


 その翌日、目が覚めると、いい香りが鼻腔に広がる。階段を下り、下の階を覗くと、大きなテーブルに野菜スープとパン、ソーセージなどの料理が数人分用意されている。


 「お、起きてきたね」


 宿の主人の奥さんが、起きてきたグローたちに気づき、こっちへ来いというように、手招きしている。


 「いやー、あんたらには助けられたからね。これはほんのお礼さ」


 奥さんはそう言い、よそられた料理を指さした。


 「え、いいんですか。ありがとうございます!」


 泊まる前はあれだけヴォルティモのことを嫌そうにしていたが、今はとても笑顔で接してくれている。グローはその光景を見て、安心する。


 彼らはすぐに席に着き、料理に手を付けようとしたが、主人と奥さんを見ていると、目を瞑り、両手の指を交互に組んでいる。どうやら祈りを捧げるようだ。ここで、自分たちだけ勝手に食べるのは不躾だと思い、グローたちも両手の指を交互に組み、目を瞑った。そして、奥さんが口を開き、


 「父なる神よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事をいただきます。ここに用意されたものを祝福し、わたしたちの心と体を支える糧としてください」


 祈りを捧げ終わると、皆目を開け、フォークやスプーンを手に取り、料理を食べようとする。


 グローは、ここがルークス教を信仰している地域の中でも、特に信仰が篤いことを再確認させられる。元々このエストライヒが、ルークス教皇の支持があってできたことも関係があるだろう。

 グローたちも主人や奥さんに続いて、料理を食べる。久しぶりに美味しい食事を食べた気がした。


 「どうだい?美味しいだろ」


 奥さんが笑顔で、グローたちの顔を覗きながら聞いてくる。

 彼らはコクリと無言で頷き、また料理を口へと次々に運んでいく。


 「野菜はこの村で採れた新鮮なものだし、ソーセージは神聖エストライヒ帝国の名物だからね」


 グローたちは、そんな豪勢な食事を自分たちのために、振る舞ってくれたことに対して感謝してもしきれなかった。


 彼らは今まで旅の途中だと、保存が利く硬い黒パンやそれを水か牛乳に溶かしたパン粥、肉もパサパサの乾燥肉を何日かに分け、たまの贅沢がりんごなどの果物だった。だから、今のこの料理がとても美味しく感じる。


 だが、グローにとって、奴隷時代はそんな普段の食事も贅沢だった。味の薄いボソボソとした煮豆など彼にとって今じゃもう考えられない。あのアトマン帝国の家での暮らしがあったから、今の彼はこうして食事に幸せを感じられている。


 彼は改めて、食べることは、生産した農家、料理を作った人、そして食材そのものに感謝を捧げることが重要なのだと気づかされる。そして、この地域では、さらにこれに加わり、神が与え下さったという意味で神様にも感謝を捧げるのだろう。彼は宗教とかそういったものは正直馬鹿にしていたが、必ず何かしらの意味や所以があってするのだと思った。その地域の伝統や宗教を重んじることの大切さを知った。


 皆料理を食べ終わり、食後の祈りを捧げて、片付けをした。グローたちはグラーツの街へ出発する準備を整え、宿を出る。宿を出て、村を出発しようとしたとき、村長が彼らを呼び止める。


 「ちょっと待ってくれ。ほんの少しだが、昨日のお礼だ」


 村長はオークを倒したお礼として、農作物を少し分け与えてくれた。


 「え、そんないいんですか?魔物による被害もあるでしょうに」


 グローがそう言うと、村長は歯切れが悪そうに「あー」と言いながら、頬をポリポリと掻く。


 「それなんだが、実は昨日の闘いでは、農地には被害が出ていなかったんだ。村人も、怪我人や死者はそんなに出ていなかったから、働き手は十分いるんだ」


 グローたちはそれを聞くと、驚きすぎて言葉が出てこなかった。

 普通、戦地となった村は、農作物は奪われ、農地は焼かれ、村人も殺されて、崩壊してしまうことが多い。なのに、この村はそうならなかった。


 やはり昨日の魔物は、ただの野蛮な魔物ではなかったようだ。だが、それなら、なぜ昨日あんなことをしたのか余計にグローたちの中で疑問は残る。しかし、今考えても答えは出ないので、彼らは今はそのことについて考えることを保留にした。


 彼らは村人に感謝を伝え、村を出ようとするが、一つやり忘れていたことを思い出す。オークたちの骨に向かい。オークたちの骨を埋葬し、弔った。

 弔いを終えると、グローは感謝をしながら、オークやゴブリンの所持していた剣や鎧などを貰い、馬車に載せる。


 「それ、どうするんだ」


 ヴォルティモが不思議そうに聞いてくるので、グローは質問に答えた。


 「ああ、売ろうかなと思って。せっかくだし、もったいないなって」


 「ああ、まあ、いいんじゃないか」


 正直弔いの後で罰当たりかもしれないが、誰も使わないで放置するのは勿体無い気がしたので、グローは次の街で売ることにした。


 彼らは先ほどの村からしばらく進み、畑が広がる田舎道が続いた。ここら辺の地域は三圃式(さんぽしき)農業が行われている。三圃式農業とは、農地を冬穀(秋蒔きの小麦やライ麦など)と夏穀(春蒔きの大麦や豆など)と休耕地(放牧地)の3つに区分し、ローテーションを組んで耕作する農法のことだ。一応グローの故郷の家族は農家だったし、彼はよく農業の手伝いはしてたから、農業については少し知識があった。


 そもそもこの三圃式農業は、輪作の一種だ。基本的に、農業において同じ耕地で同じ作物を作り続けると、土壌の栄養が偏り、その栄養を好む病害虫によって、土壌病害が起きる。この結果、作物が育たなくなり、凶作となってしまう。これを連作障害という。それを防ぐために、三圃式農業などの輪作が行われる。農業をしていれば、連作障害に苦しまされるため、彼にもそれ関係の知識が嫌というほど身についていた。


 グローは村人が育てている畑を見ていると、大麦や豆を収穫しているのが見えた。もう夏だと実感させられる。同時に、アトマンの家を出てから、もう3か月は過ぎているのだと気づかされる。普段意識しないけど、植物を見ていると、季節を感じさせられる。


 彼は、田舎の風景をボーっと眺め、そのほのぼのとした景色を楽しんだ。ただ、なぜかその風景に似つかわしくない武装した兵士の姿がちらほら見られる。


 その違和感を感じながらもしばらく進むと、城壁に囲まれた街グラーツが見えてきた。関所に近づき、通行税を支払い、城壁の中に入る。グローは、武器屋などの武具が売れそうな場所を探していると、よさそうな武器屋を見つけた。


 「ちょっと馬車が停められそうなところに停めて、待ってて」


 グローはヴォルティモにそう伝え、馬車を降りる。


 「分かった」


 グローが馬車を離れると、ヴォルティモは少し肩身が狭そうにしている。グローはヴォルティモのために、早く用事を済ませ、戻ることにした。

 彼は武器屋に入り、武器屋の主人にハットゥシャで買い取った剣を見せた。


 「これ売りたいんですけど」


 武器屋の主人がどれどれと見せた剣を査定している。どうせガラクタだろうと思っているのか面倒そうにしていたが、この剣の質の良さに気づいたのか、途端に表情を変えた。


 「この剣、とても良質な剣だな。どこで買い取った」


 「アトマン帝国のハットゥシャで買い取りました」


 その言葉を聞き、さすが武具に精通しているからか、驚きの表情を隠せない。


 「おおー、アトマン帝国のハットゥシャか。さすが良い剣だな。これはぜひうちで買い取らせていただきたい」


 掴みは上々だと、グローは心の中でガッツポーズをする。そして、彼はもう一つのオークたちが持っていた所持品も見せた。


 「あと、これらも買い取ってほしくて。オークを倒したときに、取ったオークたちの所持品なんですけど」


 「ほう、オークの」


 主人は何か意味ありげな表情をしたが、とりあえずオークの武器も良質であることを伝えた。


 「なるほど。まあ、確かに剣の質はまあまあだな。革の防具はいまいちだが。じゃ、合計で金貨4枚と銅貨100枚でどうだ」


 彼としては、もう少し欲しいところだったので、ちょっと脅すように交渉してみた。


 「金貨4枚と銀貨1枚でどうでしょうか。これより少なければ、アトマン製の剣を別のとこで買い取ってもらいます」


 「わかった、わかった」


 すると、主人は慌てて、グローが提示した値段で買い取ってくれた。


 グローは、武器屋を出て、その換金で手に入った金で食糧や水などを補充した。この街はワインや蜂蜜が結構市場に並んでいる。ここまで来るのに、ブドウ畑が多かったので、ワインなどはここの特産品なのだろう。グローはワインなどを買っておき、他の国や街で売ることにした。

 彼は買い物が済むと、ヴォルティモの馬車に戻った。


 「買い物は十分か」


 グローが戻ると、ヴォルティモは安心したような顔をしている。


 「ああ、十分だ」


 グローは、ヴォルティモとの旅がここで終わりなのを思い出す。

 ―そうか、ここまでの案内だったな。


 彼は、財布から運賃代としてのお金を手に取り、ヴォルティモに渡そうとした。

 すると、ヴォルティモは馬の手綱を持つ。


 「じゃ、次の街に行くか」


 グローは、目を丸くし、呆気にとられる。

 彼が何も返事をしないことに対して、ヴォルティモは彼の方を振り返り、様子を見る。


 「どうした、そんな変な顔をして」


 ヴォルティモはあまりにも自然に振る舞うものだから、彼は案内の終わりについて伝えてみた。


 「え、だって、ここまでじゃないのか」


 彼の言葉に対し、ヴォルティモは頬を搔きながら、照れくさそうに伝えてきた。


 「あー、まあ、そんなこと言ったかもしれないな。でも、俺も少し夢を見たくなったんだ。この間のオーク戦で、何も為せずに死ぬんだったら、何かを目指して死にたいなと思ったんだ」


 グローはヴォルティモからその言葉を聞けたのが嬉しくて、腕をヴォルティモの肩に回した。


 「いいね!じゃ、これからもよろしくな」


 「おう!」


 その照れくさいやり取りをした後、彼らはグラーツの街を出発した。

 彼らはそのままグラーツを出て、ここから少し北の次の街ウィンドボナ(Windobona)に向かった。今回の街はグラーツから近かったので、2、3日で着いた。

 いつもと同じように税を支払い、城壁に入る。


 ウィンドボナは、カッパトッカに負けないほど栄えていた。さすが神聖エストライヒ帝国の首都だといえよう。遠くからでもわかるほどの豪華絢爛な大聖堂や宮殿がそびえ立っている。大聖堂はこの国でもトップレベルに大きい大聖堂らしい。この国はルークス教の信仰が強く根付いているから、とても大きい大聖堂があるのだろう。

 それと、あちらに見える宮殿は夏季用の離宮で、今の時期はあの宮殿に皇族が住んでいるのだという。


 「神聖エストライヒ帝国の現皇帝の御名は何て言うんだ」


 ヴォルティモはこそっと小声で教えてくれた。


 「現皇帝はカール6世だな。陛下の子女は男子が生まれなかったから、今のところマリア=テレジア姫が後継者だな。マリア=テレジア姫は国民から人気でな。農民などの生活向上を進言しているらしい」


 「へえ!そうなんだ。それにしても、女系の皇帝って珍しいな」


 グローが普通に驚いていると、ヴォルティモは声のトーンを下げて伝えてきた。


 「まあ、そうだな。でも、基本的には慣習では、男系が当たり前だったから、あまり軽々しく言うなよ。不敬罪に当たるかもしれん」


 「わ、わかった」

 ヴォルティモの警告に少しビビり、グローも今後はこの内容について触れることを控えることを決めた。


 グローは別のことに注意を向けるように、他の建物を眺めていた。

 市場は勿論、綺麗なレンガで作られた住宅街、ギルド、美術館、オペラハウス、図書館などが見られる。どれも大きく、洒落ている。しかし、その世界の中でも美しいといえる街の住宅には、景観や雰囲気を損ねるようなきな臭い噂と行方不明のチラシを多く見かける。偶然耳に入った噂は、最近各地の村で魔物が出現したという噂だった。

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