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11章110話 再発


人狼たちは日喀則を占領し終えると、奴らは食糧の数量確認や進路方向の確認をしていた。

 人狼たちは華夏帝国の地図を机の上に広げ、進路方向などについて話し合っている。

 「とにかく、まずはこの吐蕃州の大部分を占領するのが先決だ。そのために、次に占領する街は……」

 体格の大きい人狼、クトゥルグが指で地図を指し示しながら、他の人狼たちに説明していると、

「兄貴、そもそもこの吐蕃州がこの戦争でそんなに大事なんすか?政治的にも敬座的にも、重要な地域って感じがしないんすけど」

と前提から覆るような突拍子もない意見が部下の口から出る。

 「お前、そんなことも気づいてなかったのか」

 「はい」

 クトゥルグは呆れたように、深い溜息をつく。

すると、クトゥルグは子どもに説明するように、相手の反応を窺いながらゆっくりと解説する。

「いいか、この吐蕃州には山が多いよな。そして、それと同時に湖や河川の上流域が多い。さらに、その河川はマジャ帝国や華夏帝国の他地域にまで及んでいる。つまり、その河川の上流域を保有している吐蕃州を支配することで、華夏帝国とマジャ帝国の水源を握ったようなもんだ」

 「へえ!すげえ!さすが、兄貴!」

 クトゥルグが説明し終えると、部下の人狼はキラキラとした目で彼を見てくる。彼は真っ直ぐに見てくる部下を横目に、

 「まだ計画の途中段階だ。浮かれるな」

と釘を刺す。

 すると、そこに朱温が会議に割り込んで入ってきた。

 「そうだ。それに、我々は機動力はあれど、圧倒的に兵数で劣っている。先の戦いで人狼は数が減ったわけだしな」

 先の南方諸国と人狼との戦いで、人狼は数を多く減らされた。それが今回の戦争でも大きく響いていた。

朱温はわざわざ人狼たちの痛いところを突いてくる。そんな朱温が気に食わないのか、部下の人狼は味方の朱温をまるで敵かのように睨み、グルルと牙を見せて(うな)っている。

 だが、クトゥルグは冷静で、朱温の目をしっかりと見据えて返事をする。

 「ああ、だから、この戦いで責任を取る」

 朱温は、不純物のない水のように、噓偽りのない彼の覚悟を聞いて、一瞬たじろぐ。

 「まあ、いい。ともかく、我々には兵数が足りていない、だから、次の戦いでは機動力が落ちるが、前線にアンデッド兵団を置く。初めらへんの侵略には機動力が必要だったが、華夏帝国も本腰を入れて兵士を派遣するだろうから、何体でも湧くアンデッドを前線に配置した方が得策だろう」

 朱温がそう言うと、みな異論は無さそうだった。そして、そのまま議論の司会はいつの間にか朱温に取って代わり、朱温が進路方向についても話し始めた。

 「それから、水資源ももちろんだが、華夏帝国の食糧の補給路も断っておきたい。だから、次に攻める街についてだが、ここだ」

 彼がそう言い、指を指し示した地図には、「江孜」と書いてあった。



 一方、日喀則から命からがら逃げだしたグローたちは、東の草原地帯へと逃れ、人狼たちが追いかけていないのを見て、ひとまずそこで休憩する。

彼らはあまりにも急いで逃げてきたので、息切れを起こしていた。まだ心臓がバクバクと激しく鼓動を打っている。

 「はぁはぁ、なんとか助かったな……」

 ヴォルティモが何か気の利いた言葉を言おうとするが、沈黙の時間が続く。しばらく気まずい空気が続く。それでもヴォルティモはこの空気を打開しようと、皆に語り掛け続ける。

「どうしようか」

 ヴォルティモが皆に尋ねると、ようやくマリアが口を開く。

 「そうね。もう人狼たちが西から攻めてきている時点で、ムンク帝国を経由するルートは使えないわ。一旦、南のマジャ帝国に逃げるしかないわね」

 だが、

 「そうじゃねえだろ」

とグローは独り言のようにポツリと呟く。

 「いや、でもそれしかルートは無いわよ」

マリアは困った表情を見せながら、そう言うと、

 「そうじゃねえって!」

とグローは語気を強め、その声に皆は驚いてグローの方に一斉に振り向く。

 「俺はこのまま見過ごせねえよ。あのカーズィムを殺した人狼が平然と生きて、また人を殺しているだなんて、考えただけではらわたが煮えくり返りそうだ」

 彼は左手を右手で覆うように拳を握っている。そして、その右手をギュッと強く握りしめることで、爪が立ち、左手の甲から血が垂れる。

 怒りの感情で(たかぶ)るグローとは対照的に、マリアは冷静に語る。

 「そりゃそうかもしれないけど。でも、今までと違ってどこかの軍に組み込まれていないわ。私たち単独で動けば、次こそ確実に殺される」

 今までの大きな戦いでは、彼らはあくまで軍に組み込まれていた。ラーヴァナ戦ではアシーナ帝国軍に、フェンリル戦では南方連合軍に。これらの協力があって、ようやく倒せたのだ。そんな兵士ですらない彼らが単独で動けば、死にに行くようなものだった。

 「今回の騒ぎで華夏帝国も軍を派遣すると思うわ。それに、華夏帝国軍は他の国々に負けないぐらい強さを誇っているわ。そこに任せればいいじゃない」

 彼女は皆の安全を考えた提案をするが、グローは納得がいっていないようだった。

 「でも、俺はこの手であいつを殺したい。それにあいつは魔物ですらなかった。だったら、天眼は通用しない。なら、殺すしか方法は無いだろ」

 グローは魔物でなければ救いようがない、そう言っていた。もう彼は人狼を殺すことしか頭になかった。

 彼の心底にあった人狼への憎悪が、仲間によって誤魔化されていたが、奴と会うことで再燃していた。


 「もう勝手にしなさいよ」

 マリアはもう話しても無駄と言わんばかりに、グローを軽蔑するように睨み、すぐにそっぽを向く。

 せっかく気まずい空気を打開したかと思ったら、余計に気まずくなってしまった。

 「ま、まあ、人狼がどの方向へ向かうかも分からない。とりあえず、マジャ帝国へ向かう途中で人狼たちに遭遇するかもしれない。勝機があれば戦って、危険だと判断したら逃げることでひとまずどうだろう」

 ヴォルティモは二人の仲を取り持とうと折衷(せっちゅう)案のようなものを提案するが、二人とも口を利かなかった。ヴォルティモの心は人知れず傷つき、項垂(うなだ)れる。


 ヴォルティモは南東へと向かうのに、馬車を走らせる準備をする。マリアとグローも馬車に乗り、一応はヴォルティモの提案に従ってくれるようだった。だが、二人の間の空気は変わらず険悪で、お互い馬車内の両端に座り、距離を取っている。目も合わせようとしない。終始無言の気まずい空気が馬車内に充満する。その空気に居たたまれないヴォルティモだけ、胃がキリキリと痛んでいた。



 彼らはそんな空気の中、南東へと向かっていると、城壁に囲まれた街が見えてきた。ヴォルティモは街に入るのに関所を(くぐ)ろうとすると、警備兵に止められる。

 「おい!入るな!」

 警備兵に怒鳴られ、ヴォルティモたちはビクッと体が跳ねるように驚く。

 「な、なんですか?」

 「今は人狼たちが侵略している時だ。怪しい奴は街に入れられん」

 警備兵は通さないように、手に持っている槍で街への入口を塞ぐ。

 ヴォルティモは仕方なく、引き返そうとする。だが、このまま収穫なしで引き返すのも癪だったので、せめて人狼に関する情報を尋ねる。


ヴォルティモは警備兵から情報収集していると、人狼は南東へ進行しているという。ちょうど彼らと向かっている方角が同じで、ヴォルティモはそれを聞いた瞬間、鳥肌が立つ。しかし、(わず)かに進路方向がずれており、今のところ出くわさなかった。だが、次は分からない。また出くわす可能性もある。

 「ちなみに、なぜ南東へ?」

 ヴォルティモは警備兵に尋ねると、彼は説明してくれた。

「日喀則の南東には江孜という街がある。この江孜は吐蕃州の交易路として主要な都市であり、さらに江孜の近くには大きな湖があるため水資源が豊富で、そのうえ数多くの農作物の生産地でもある。ここを押さえておくことは人狼側にとって、吐蕃州全体の補給路を断つことと同義なんだ」

 しかし、それを聞くや否や、ヴォルティモに疑問が生じる。

 「しかし、そんな重要な都市であれば、警備も厳重なのでは?」

 彼はそう尋ねると、警備兵は首を縦に頷く。

 「ああ、警備は厳重だ。あの街には吐蕃州領主の直属の兵士が常駐している」

 「なら、……」

 ヴォルティモが大丈夫ではないかと口にしようとすると、警備兵は割り込んで続けざまに話す。

 「いや、そうでもない。あっちにはアンデッドの大群がいる。アンデッドの大群がいるとなれば、それを操るネクロマンサーがいるはずだ。そうなると厄介だ」

 確かに、人狼が街を攻めてきた時、スケルトンやゾンビなどのアンデッドの大群がいた。基本、スケルトンやゾンビには他の魔物と違って、それそのものに意思はない。ネクロマンサーという死体を操る魔物が、奴らを操って動かしているのだ。そして、そいつが人狼側にいるということは、敵にしろ味方にしろ死人が出れば、新たなるアンデッドが増え、向こうの兵数が増大するのだ。

 そのうえ、アンデッドは痛みも感じないため、傷を受けても怯まない。さらには食事も睡眠も必要としない。そのため、昼夜に限らずひたすら攻撃を繰り返してくる。唯一の弱点が、動きがノロいのと体が(もろ)いことだった。


 ヴォルティモたちはアンデッドと聞くと、以前の飛び地軍の不死隊を彷彿とさせるものだった。あの時も、アンデッドに夜襲をかけられ、ろくに眠ることもできなかった。

 彼らは思ったよりも敵の強大さを知ると、顔を青ざめる。その様子を見た警備兵は、

 「そうだ。正直、人狼は数的に問題ではない。どちらかというと、その背後にいるアンデッドを率いるネクロマンサーが問題なんだ」

 彼らは目の前の人狼にしか目が行っていなかったが、その背後の存在にようやく気づくこととなる。



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