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11章107話 復讐

 「お兄さんたち、面白いお話ありがとう!」

 宿屋の少女が手を振りながら、お別れを言う。グローたちも「じゃあね」と手を振りながらお別れをする。

 そして、グローたちは徳欽の街を出て、西北に向かうと、拉薩(ラサ)という街に着く。拉薩は城壁で囲まれており、関所を介して中に入ると、街の中央には高い丘があり、その上に大きな領主の邸宅が建てられている。あの邸宅にはこの吐蕃州を治める白い獅子獣人の領主が住んでいた。

 あまりの高さにグローたちは邸宅を見上げる。その光景を見ていると、グローがポツリと呟く。

 「まるでアシーナ帝国みたいだな」

 アシーナ帝国も高い丘の上に宮殿が建てられていたため、その似た街の構造がアシーナ帝国を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 そのグローの言葉で再びマリアを心配にさせてしまう。

 「(Ich)シーナ(wundere )帝国(mich, wie)は無事(situation )(in)しら(Athena )(Reich ist)…」

 彼女がそう呟くと、

 「なんだ、あんたら、西方の方から来たのか?」

と、突如、近くにいた大きい荷物を背負っていた男性が声をかけてきた。ただし、獣人ではなく、白い肌の人間種族だった。

 「な、なぜ俺らが西方から来たのが分かったんですか?」

 確かに、グローとマリアは見た目だけでいえば、西方出身と言われても仕方ないが、別に華夏帝国あるいは近隣の国に住んでいたっておかしくない。彼らはその男性の不気味さに怪しんでいると、

 「え、いや、だって、今エストライヒ語を話していただろ?」

と男性はあっさりと答える。

 あ、そういえばエストライヒ語を話していたな、とマリアは今更ながら思い出す。

 「俺も西方のアシーナ帝国から来てるんだ。物を買いにな」

 その言葉でグローたちは安心する。やはり素性の知れない者だと不気味であるが、少しでも素性と理由を知った途端に、人は心を開く。

 「そうだったんですね」

 マリアはそう返事をすると、「ん?」と男性の言葉の中に引っかかる単語が含まれていることに気づく。

 「今、アシーナ帝国って言いました!?今、アシーナ帝国はどんな状況なんですか!?」

 マリアはグイグイと顔を近づけて、圧強めに聞くので、男性は少し怖気づく。

 「あ、ああ、気になるのは分かるよ。でも、落ち着いて聞いてくれ」

 マリアはそう言われ、自分の行動が恥ずかしくなり、赤面する。そして、男性から一歩距離を置く。

 「まあ、まず、あんたらがどこまで知っているか知らんが、ルーシ辺境伯領による反乱が起きたらしい。国境封鎖令を出したアシーナ帝国に不満を持っていたルーシ辺境伯領は、ついに行動に移したんだ。結果としては、アシーナ帝国は大敗し、ルーシ辺境伯領は新たな国家のルーシ大公国として独立を果たした。俺が知っているのはここまでだ」

 そのことを聞くと、マリアは顔を青ざめる。

 「そんな……」

 「俺も冗談だと思いてえさ。しかも、噂によると、ルーシ大公国はエンジェル帝国に接近しているようだ。まだ一波乱あるかもしれねえ」

 その言葉を聞くと、マリアは余計に不安に駆られる。

 「大丈夫だ。急げばなんとかなる」

 ヴォルティモはマリアの肩に手を置き、全く根拠のない言葉で励ます。だが、事実、彼らにできることなどそれしかないのだ。

 彼らは拉薩を観光することもなく、街を出て、急ぎ足で北西へと向かう。



 一方、華夏帝国の最西端の地域には、スケルトンやゾンビなどのアンデッドの集団と人狼の姿があった。奴らは茂みの深いところで身を潜めている間、戦いに向けて着々と準備をしていた。

 体格の大きい人狼が切り株に腰を下ろしながら、腕に包帯を巻いている。

 「兄貴、ようやくっすね」

 大きい人狼は腕に巻いていた包帯を口で嚙み切る。

 「ああ。南方の時は失敗したが、今回ばかりは失敗できねえ。奴らに復讐するぞ」

 アシーナ帝国にも敵の牙が()かれていたが、その敵の見えない牙は華夏帝国にももうすぐ噛みつこうとしていた。



 グローたちは北西へ向かっていると、日喀則という街に辿り着く。その街を出てしばらく進めば、ムンク帝国に着くので、とりあえず一安心だ。ムンク帝国に着いてしまえば、平原も多く、馬が休めるように駅が各地にあるので、速く移動できる。

 とりあえずはこの街でしっかり休もう。グローたちはそう思い、泊まれそうな宿を物色していると、街の中央に人だかりができている。

 グローたちはなんだと思い、人だかりに近づくと、その人だかりには武装した兵士らしき獣人たちがいた。そして、そこに黒豹の獣人が顔を出すと、住民たちが彼を見て、黄色い声援を上げる。

 「キャー!朱温様!!」

街がすごい熱気に包まれる中、黒豹人は住民の歓声を一切気にせず、何やら街をキョロキョロと見回している。

 グローは近くにいた青年男性に尋ねてみる。

 「あの方たちは誰ですか?」

 「あれは朱温兵団だな」

 兵団。やはり国の兵士たちだったのか。特にあの黒豹人はリーダーっぽかったので、

 「朱温っていうのはあの人のことですか?」

とグローが向こうにいる黒豹人のことを指し示すと、青年は首を縦に頷く。

 「朱温は華夏帝国第二部隊の将軍だ。彼は平民から将軍に成りあがったのもあって、国民に人気がある。さらには、戦争孤児など不遇な環境の人たちを寄せ集めているのもあって、さらに人気が出ている。朱という陛下と同じ姓を持っているだけで、彼にとっては誇りだろうよ」

 青年がそう言うと、グローの中でふと疑問が沸き起こる。以前、聞いた話では、華夏帝国では多くの姓があるが、獣人の人種によってまとまっている。例えば、虎人は朱氏、猿人が孫氏、牛人が劉氏など。そして、現皇帝は虎人で、同じ朱という姓を持っていたという。

 グローは気になり、軽い気持ちで尋ねてみる。

 「そういえば、現皇帝は虎人なんですよね。なぜ、豹人なのに、同じ姓を持っているんですか?」

 すると、青年はシッと人差し指を口に当て、静かにするようにと合図をする。

 「安易に聞くんじゃない。まあ、見たところ、君たちはここの出身じゃないから勉強ついでに教えておく。彼は元々孤児だったんだ。だが、彼が兵士として活躍し、それを見込んだ皇帝が自身と同じ姓を彼に与えたんだ」

 「そ、そうなんですね」

 グローは生まれでほとんど決まってしまうこの世で、自身の実力でのし上がれたことに心から感動する。

「それにしても、なんでその朱温兵団がこんなところに?」

 グローがそう尋ねると、青年は首をかしげる。

 「さあ?最近の情勢を考えてのとこじゃないか?」

 「情勢?また何か起きたんですか?」

 「ああ、西方の方でいざこざがあったらしいよ」

 西方、そう聞くと、彼らは例の戦争の件だとすぐに判別がつく。だが、それだけではなく、彼らが知らなかった新事実が判明する。


 ルーシ大公国もエンジェル=サラフィー同盟に加わることになったという。さらに、その同盟三国は敗北したアシーナ帝国北部を三国で分割することになり、アシーナ帝国はどんどん南へと追いやられることとなった。


挿絵(By みてみん)



 「エンジェル帝国ならいざ知らず、サラフィー国は華夏にとって近隣の話だからな。皇帝陛下も危機感を覚えているのだろう」

 そうは言っているものの、青年の口ぶりからはあまり危機感を感じない。それは西方でのいざこざだからなのか、はたまた巨大な軍事力を持つゆえの慢心からなのか。

 だが、その住民の安心を破壊してくるものが訪れる。


 街に常駐していた衛兵が警鐘を鳴らす。

 「人狼やスケルトンなどの集団が街に接近しているぞ!!」

 衛兵が大声で警告すると、さっきまで安心しきっていた住民はどよめきだす。

 グローは人狼という言葉を聞くと、

 「……あいつだ」

とすぐさま対象を思い浮かべる。すると、彼の顔からは穏やかな笑みが消え、眉間に皺を寄せ、すごい形相になる。彼は例の人狼を殺すべく、人狼たちが接近してきている方角へと向かおうとする。

 「ちょっと待って、グロー!」

 すかさずマリアはグローの腕を掴み、彼が向かうのを阻む。

 「あいつが来ているんだ!離せ!」

 グローは仲間であるマリアにもお構いなしの強い口調をぶつける。だが、負けじとマリアも強く大きな声で彼に言い返す。

 「あなた一人の問題ではないのよ!」

 その言葉でグローはハッとさせられる。

 「今、その城壁門を開ければ、多くの人が被害に遭うわ。少し冷静になって!」

 マリアが冷静に訴えかけると、グローはようやく冷静になる。

 「そうだな。ごめん」

 だが、彼らが冷静になろうが、無情にも敵はどんどん接近してくる。

突如、西の門からドン、ドンと大きな音が街中に響く。

 「な、なんだ」

 人狼たちは破城槌を用いて、門をこじ開けようとしていた。

破城槌とは街の城門を開けるために、城門を叩く用の丸太のことである。

奴らはその破城槌で城門をこじ開けようとし、街内にドンドンと門を叩く音が響き渡る。その音で住民は不安を掻き立てられる。

 「ママ、怖いよ!」

 「助けてくれ!」

 住民が泣き喚く中、

 「大丈夫だ。この街には頑丈な門がある。それに、朱温兵団がいるんだ。そうそうこの街を落とせやしないさ。そうだろ、皆!」

と先ほどの青年は皆を落ち着かせるために語り掛ける。もっとも、本当に落ち着かせたいのは、自分自身の心だろうが。

 「そ、そうだよな」

 住民は青年の言葉を聞き、その言葉に(すが)るように自身を安心させる。


 だが、安心したのも(つか)の間、突如、彼らの目の前に、片腕をもがれた兵士が現れる。

 彼らは異様な光景に息を呑む。空気が固まる中、手負いの兵士が声を大にして叫ぶ。

 「た、大変だ!!朱温が裏切った!!」

 兵士がそう叫ぶと、彼の後ろから朱温が現れる。朱温は現れるや否や、兵士の首根っこを掴み、

 「余計なことを言わんでいい」

と言いながら、目の前に現れた朱温はその手負いの兵士にとどめを刺すように、彼の頭をもう片方の手で掴み、ぐるっとねじる。

 頭があらぬ方向にねじられた兵士は息を引き取り、ドサッと地面に杜撰(ずさん)に落とされる。


 その恐ろしい光景を見て、街の女性たちは「キャー!!」と甲高い悲鳴を上げる。その悲鳴がまるで警鐘を鳴らす鐘のように、住民は一斉に朱温がいる方向とは別の城門へと逃げ惑う。

 「た、助けてくれ!!」

 「東の門を開けろ!!」

 東の門には住民が開けろと殺到している。

 朱温は騒ぎ立てる住民を気にも留めず、淡々と冷静に西の城門を開けようとする。

 「開けろ」

 彼がそう言うと、朱温の部下は門を開けられないように施錠していた丸太を外す。

 すると、門は開けられ、西の門からは人狼がぞろぞろと侵入してくる。その侵入してきた人狼たちの前には、体格の大きい人狼が先頭に立っていた。

 そして、その大きい人狼は片手を前に出し、

 「今こそ、我が狼、ラン一族の恨みを晴らす時だ。この街を略奪せよ」

と他の人狼たちに指図をする。

 その合図を皮切りに、人狼やアンデッドたちは雪崩のように街にどんどん流れ、侵食していく。


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