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11章104話 約束

 グローたちはサテュロスに地図で教えてもらった進行方向に進んでいると、山なりな地形が増えてくる。

しばらく進み、高原に着くと、ガサガサと木々の方から音がする。グローたちは咄嗟に木々の方に振り向く。

すると、一匹のゴブリンが木々の間から出てくる。

 「あなたたちは誰?」

 グローたちは顔を見合わせ、ゴブリンに敵意がないことを確認し、優しく語り掛ける。

 「僕たちは旅人だ」

 彼らは子どもに話しかけるように、中腰の姿勢でゆっくり話しかける。

 「旅人……?」

 「そうだよ」

 ゴブリンが聞き返すと、グローが頷きながら答える。すると、彼の腰に掛けている剣がゆらりと動き、ゴブリンの視界に入る。ゴブリンは何かに憑かれたように、剣をジッと見つめている。

 「うっ……」

 突如、ゴブリンに頭痛が起き、彼は両手で頭を押さえ始める。

 「違う違う違う違う違う……」

 ゴブリンはブツブツと呟き、グローたちは心配になる。

 「だ、大丈夫?」

 グローがゴブリンの肩に手を置こうとすると、ゴブリンは彼の手を振り払う。

 「嘘だ!お前ら、また僕を誘拐しに来たんだろ!」

 ゴブリンがいきなりグローたちを怒鳴り、彼らはたじろいでしまう。

「お前らなんか、どっか行け!!」

 ゴブリンは発狂し、腰に掛けていたナイフでグローたちに攻撃を仕掛ける。

 グローは剣でナイフを弾き、攻撃を受け止める。

 ゴブリンは距離を少し取り、攻撃のチャンスを窺う。そして、グローに向かって走り、ジャンプして彼の頭目掛けて攻撃を仕掛ける。だが、それも虚しく、グローは慣れた手つきで剣で受け止める。

 そして、その隙にマリアとイトゲルがゴブリンの背後に回り、ゴブリンが暴れないように、彼の両手足を押さえ、羽交い絞めにする。

 「ヴォルティモ、今だ!」

 ヴォルティモはこの隙に法術を使い、ゴブリンの記憶を覗く。

「マ……」



 記憶を覗くと、そこには一人の若い女性と男の子がいた。


 「俊宇、ちょっとお母さん、出かけるから家で待ってなさい」

 お母さんはそう言うと、上着を羽織り、家を出た。



 お母さんが出かけている間、言う通りに僕は家で大人しく待っていた。

 だが、数十分後に、玄関の扉がドンドンと強く叩かれる。


 僕は明らかにお母さんじゃないことが分かり、部屋の隅でビクビクと怯える。だが、扉は脆く、すぐにこじ開けられる。男二人組が中に入ってくる。

 「目ぼしいものがあるか?」

 「そうだなー。お、あそこにガキが一人いるぞ。あの悪徳領主が労働力を欲しがっていたし、いいんじゃねえか?」

 「そうだな」

 男二人は僕に近づき、迫ってくる。僕はただ怯えるしかなく、部屋の隅で小さく固まる。


 その日、僕は誘拐された。そして、誘拐され、農場に連れていかれ強制労働させられた。



 昨今、誘拐は珍しいことではなかった。子どもなどを誘拐し、需要のある働き口に労働力として連れていかれる。そして、その労働力の対価として、誘拐犯は悪銭を稼ぐのだ。



 だが、僕にとって、強制労働よりも辛いことがあった。確かに、強制労働は辛い。でも、それよりも僕が辛かったのは、お母さんに会えないことだった。お母さんに会えないことだけが気がかりだった。

どこにいるの。何をしているの。僕がいなくなって、悲しんでいるの。僕のことを忘れていない?

 「ねえ、ママ(媽媽)



 「そうか。君はお母さんが気がかりで彷徨(さまよ)っていたんだね。こんなに幼いのに……」

俊宇とは、大きく優れているという意味だ。つまり、名前のように大きく優れた人になってほしいという意味合いが込められている。それが皮肉にも、こんなに幼くして亡くなってしまうなんて。きっと幼い子どもだったから、魔物になった際も背の低いゴブリンだったのだろう。ヴォルティモは、この子の幼さに改めて悲しくなる。

 「大丈夫だ。もし君のお母さんを見つけたら、君のことを伝えておくよ」

 ヴォルティモはゴブリンの背中をポンポンと優しく叩く。

 「本当?」

 俊宇はそう言うと、それで安心したのか、彼の体が徐々に白い塵へと変化していく。

 「ああ、必ず見つけるさ。何年かかっても」

 ヴォルティモはもう白い塵となっていなくなったゴブリンに向けて、約束をする。




 そして、彼らはゆるやかな山を越えていくと、大理という街に着く。

 街に着くと、何やらカンカンとグローにとって懐かしい音がする。彼は親しみのある音に惹かれて、音のする方へと向かう。すると、その街の一角には、鍛冶屋などが集まっていた。

 職人のような人たちが、大理石や金属を加工したりしている。この大理には職人が多いようだ。

 大理は名前の通り、大理石の生産地であり、工業や経済の中心地である。職人たちが剣や甲冑など作ったり、大理石などの石を加工している。

 この職人の街を見ていると、グローはアトマン帝国にある実家を思い出す。

 「そういえば、母さんたち、元気かな。母さんは相変わらず口うるさいかな。父さんは相変わらず無口で淡々と鍛冶をしているのかな」

 グローはアトマン帝国の実家に思いを馳せる。



 だが、アトマン帝国の実家に思いを馳せるのは、彼だけではなかった。

 「こら、ドール(doğru)、その煮込みも食べなさい」

 「だって、母さんがナスを入れるから」

 ドールという少年は、煮込みを指さし、口うるさい母親に反抗する。

 「好き嫌い言うんじゃないの。ナスには栄養があるんだから、食べなさい」

 「そうだぞ、母さんの言う通りだ」

 母親を味方するように、ドールの兄がナスを食べるよう勧める。

 「……わかったよ」

 ドールは兄を慕っていたため、兄の言う通り渋々ナスの煮込みを食べる。


 ここだけを切り取れば、ただの家族の微笑ましい食卓の場面だ。だが、突如、場面が急に切り替わる。次の場面は、街の城壁門前だった。

 先ほどよりほんのわずか歳を経たドールが街の城壁門を通って、街を出ていくとこだった。

 「ドール、行くんじゃない!戻ってきなさい!」

 母親や父親が出て行こうとする彼を引き留めようとする。

 「いや、俺は兄さんのように、外の世界へ行く。このハーフってだけで差別するような狭い世界に俺はいたくない」

 「待ちなさい!」

 去ろうとするドールを追いかけようと、母親は彼を追いかけようとする。しかし、彼女は裾を踏み、その場に転んでしまう。顔面から地面にぶつけ、鼻血を出してしまう。

 「待って、あなたはまだ子どもなの。待ち……」

 そうして、ドールは母親や父親を尻目に街を出ていく。母親の声は次第に遠のいていった。


 そこで、この場面は途切れ、またもや違う場面に切り替わる。

 次は、大人になったドールが、死にかけて横たわっている誰かの手を取っている場面だ。そこには、およそ人間とは思えない、つまりは魔物のような風貌をしている者が横たわっている。

 「お前がこのクソッタレな世界を変えろ。俺はお前の行く末を見守っている」

 その魔物は息も絶え絶えな様子で、(かす)れた声でドールに訴えかける。そいつはドールに伝え終わると、満足したのか、意識が途絶える。そして、体が黒い塵となり、風に攫われていく。

 「……どうしてだよ」

 ドールは魔物の死を悲しみ、大粒の涙が彼の頬を伝う。

 そこで、また場面が切り替わる。

 次は、ドールが縄で拘束され、目の前に白い肌の人間たちが嘲笑っていた場面だった。

 「こいつが魔物と結託した狂人だと。どんな魔女かと思えば、ただのドワーフじゃないか、しかもハーフの。こいつは傑作だ」

 ドールは目の前の人間を憎むように、キッと睨みつける。

 「バアルを殺しやがって!」

 彼はバアルという仲間を殺され、悔しさから下唇を血が出るほど噛む。


 そこでまた場面が切り替わる。今度は真っ暗な光も色も何も無い場面だった。今度のドールの姿は現在の姿で、透き通るような白い肌と髪をしている。

 「ここはどこだ」

 彼は何も無い空間から出るため、真っ暗な空間を探索してみる。しばらく暗闇の中を歩いていると、急に下から無数の手が伸び、彼の足首を掴む。彼は無数の手に引っ張られ、下へと下へと引きずり込まれる。

 そして、無数の手の源を辿ると、そこには自分の思い入れのある人物や自分が直接手に掛けて殺した人物がいた。

 「「「「ドール!!」」」」

過去の記憶がごちゃ混ぜとなって、それらが一遍に押し寄せる。


 そこで、彼はハッと目が覚める。目が覚めると、彼は優雅な自室の大きなベッドに横たわっていた。

 そこで、先ほどのが夢であったと気づかされる。

 「ドール様、大丈夫ですか?随分うなされていましたが」

 ベッドの横に立っている臣下がドールを心配する。

 「ああ、大丈夫だ」

 ドールは安心させるようそう言うが、「だが」と前置きして臣下に一つ忠告する。

 「だが、その名を二度と呼ぶな。もう捨てた名だ」

 ドールは臣下に注意をすると、臣下は顔を青ざめて怯える。

 「失礼いたしました!エンジェル皇帝陛下!もうその名を口に致しません!」

 自分が思うより、臣下が深刻に受け止めてしまったため、ドールは言い方を反省する。

 彼は、今はこの国の君主で、簡単に人を処刑にできることを改めて思い出させられたのだった。



すみません、ちょっとスランプ気味で、更新遅れました。

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