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11章102話 対立は消えない

グローたちは北を目指していると、マリアがボソッと心配そうに呟く。

 「アシーナ帝国は無事かしら……。」

 アシーナ帝国は現在、ルーシ辺境伯領の独立をめぐって戦争をしている。マリアは同盟相手として、アシーナ帝国が心配そうだった。そして、その彼女の悪い予感は的中する。



 当のアシーナ帝国は、アシーナ帝国領内の北の地域で戦争をしていた。

 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 戦地で血飛沫があちこちで飛び散り、アシーナ兵の痛ましい叫び声が響き渡る。その戦地はまさに阿鼻叫喚のようだった。

 「こ、この化け物ーー!!こんな化け物と戦うなんて聞いてないぞ!!」

 アシーナ兵は目の前の敵に背を向けて逃げるが、その「化け物」は彼を追いかけまわす。

 「戦争に聞いてないもクソもないんだよ。恨むなら、その自分たちの浅ましい考え方を恨むんだな」

 「化け物」は自身の手の親指を噛み、指の腹からポタポタと血を流す。

そして、

 「硬血:血の氷柱」

と呟くと、血が凝固してできた氷柱が目の前のアシーナ兵の胸部を貫通する。

 「ぅ……ぁぁぁ」

 アシーナ兵は胸部を貫通されたことにより、肺を損傷し、呼吸もままならなくなる。

彼は串刺しのようにされ、その背後から「化け物」がひっそりと近づいてくる。そして、そいつはアシーナ兵の首元に口を近づけると、ガブリと首元を鋭い牙で噛む。

 噛まれたアシーナ兵は、次第に水分が吸収されたように干からびていき、最後には皮と骨だけになる。

 そう、アシーナ兵を苦しめていたのは、ヴァンパイアだった。

ヴァンパイアはアシーナ兵を殺戮し、鋭い牙で吸血していく。他にヴァンパイア以外にも、ゴブリンやオークなど様々な魔物がアシーナ兵を追い詰めていった。

その様子を遠くでニヤニヤしながら眺めている者がいた。



 「その調子だ。もっとやれ」

 ルーシ辺境伯のヴラド、もといヴァンパイアロードは、自身の拠点から敵のアシーナ兵が殺されていく様をニタニタと笑いながら楽しむ。

 すると、彼の隣にいた仮面を着けた人物がじろっとヴラドを見る。その仮面を着けた人物はカラフルでおかしな恰好をしており、道化師のようだった。

その道化師らしき人物が、ヴラドに次のように進言する。

 「ヴラド様、勘違いしないように言っておきますが、この戦いは虐殺が目的ではありません。あくまでアシーナ帝国に勝利するだけの戦いです。それに、彼らも将来的に見れば、我らエンジェル帝国の国民となるのです。お戯れが過ぎませんようよろしくお願いいたします」

 「黙れ。ぽっと出のマリオネットマスター如きが、私に指図するつもりか」

 ヴラドは道化師に注意されたのが気に食わなかったのか、ギロッと道化師を睨む。

 だが、道化師はそれでも冷静に、

 「いいえ、とんでもございません。これはエンジェル皇帝陛下の言づてです」

と言うと、ヴラドは歯切りが悪そうに、チッと舌打ちをしてそっぽを向いてしまう。さすがのヴラドもエンジェル皇帝陛下の名前を出されると、ばつが悪そうだった。


 そんな魔物内の内部対立があったが、ヴァンパイア集団とその他の魔物の集団によって、アシーナ帝国は次々に、ルーシ辺境伯領との戦いで敗戦していく。



 一方のグローたちはそんなことも露知らず、目的地の街タンロンに着く。

 タンロンは紅河という長い川があり、海運業の中心地だ。そして、このタンロンこそが華夏帝国との数少ない交易ルートなので、彼らはこのタンロンを通って、華夏帝国へと向かおうとしていた。

 このタンロンは華夏帝国と近いこともあって、物や人の流れが激しい。だが、不思議と、街の住民は質素な暮らしをしている。服はツギハギが多く、使っている道具なんかも破損している物が多い。

そのうえ、さらに不思議なのが街に武装をした兵士も多い。なんだか、きな臭さを感じる。



 グローたちは食糧などの補充を済み、タンロンを出ようと華夏帝国の方面に向かおうとすると、複数のマジャ人の女性が声をかけてきた。

 「あんたら、華夏帝国へ向かうのかい?」

 「はい」

 マジャ人の質問に答えると、彼女らは嫌な顔をする。

 「気を付けて。華夏人は卑劣だから、何をされるかわかんないわ。みんな高圧的だし」

 「そ、そうなんですか。気を付けます」

 彼女らの警告を聞き、グローたちは身を引き締める。

 ―確かに、華夏帝国は今までの国に比べて、異世界に近いからな。気を付けないと。



 彼らは気を引き締めつつ、華夏帝国へと向かう。そして、華夏とマジャの国境付近の関所に着くと、衛兵がグローたちをじろっと見るなり、

 「把税給我(バシュイゲイウォ)

と彼らに伝えてくる。

 「え、なんですか?」

 グローたちは華夏語が分からず、衛兵に何を言っているのか聞き直す。

 すると、衛兵はイライラしながら、手のひらを差し出す。グローたちはその仕草で通行税を渡せと言っているのだと気づく。

 「華夏語はまた他の地域と比べて違うから、勉強しないと全然わからないな」

 彼らは華夏語の勉強の必要性を痛感するが、それはまた後で考えることにした。

 ただ、今はそんなことよりも、彼らは目の前の景色を楽しんだ。



 彼らは華夏(ファーシャ)帝国(ディーグオ)の大理地方の拓東城という街に入る。

 すると、その街には、溢れんばかりに多くの種類の獣人が賑わっていた。山羊(ヤギ)の獣人、(ネズミ)の獣人、(カエル)の獣人など、様々な獣人がいた。そして、その誰もが獣種(人間でいうとこの人種)で区別することなく、一緒に働いて生活をしている。



 挿絵(By みてみん)



 「わあ!すごいな!」

 グローはマジャ帝国とはまた違い、多くの種類の獣人がいる華夏帝国を目の当たりにし、感動する。



 華夏帝国は多民族で構成されている国だ。だが、最初から多民族がお互いに支え合っていたわけではない。

 この華夏は他地域に比べて歴史が長いが、分裂を繰り返してきた地域だった。

 元々、この華夏の地域には、馬の獣人が建国した東周という国があった。だが、その王は部下の意見を一切聞かず、やがて王への不満が高まった。ここから、後に、他人の意見を意見や批評などを心に留めないで聞き流すことを、馬耳東風と言われるようになった。

 そして、様々な民族を抱えていたというのもあり、王への不満が高まった七人の有力者はそれぞれ分立し、各々の国を建国した。それが、七雄による群雄割拠された戦国時代の幕開けだった。東周を含めた八国が争いに争いを重ねる。さらに、悪いことは重なり、五胡と呼ばれる五つの異民族もこの争いに加わる。どの民族、派閥が華夏の覇権を手にするか、皆そのことに躍起になり、土地が荒れ果てるまで争われた。

 だが、やがてどの民族も戦争疲れしてしまい、長い間争われていた戦争は休戦し、和平へと至った。そして、多民族、多国が合併したのが、この華夏帝国だった。

 それゆえに、長い戦争の反省もあって、皇帝は世襲制ではなく、各獣人の代表による選挙で選ばれる。ちなみに、現在は虎の獣人の永楽帝がこの地を治めている。


 そして、華夏はそれぞれの地域をそれぞれの獣人が支配しており、彼らは獣種ごとに苗字がある。

 この大理地方は、山羊の獣人の金一族が管理している地域だ。だからか、この街では山羊の獣人を見かけることが多い。




 「色んな国見てきたけど、華夏帝国はすごい栄えっぷりだな。建物も人も何もかもがこの国に集まっているな」


 建物も西方や南方とは全然違う。基本的に木造建築で、屋根もなだらかになっており、屋根の上には何やら塊が無数にちりばめられている。何もかもが違いすぎて、まるで異世界に来た気分になる。


 グローは見たことのない景色に興奮するが、

 「そうね」

と対照的にマリアの返事が素っ気ない。その様子を見て、

 「やっぱり西方の人間として、華夏帝国は気に食わない?」

とグローは顔を窺いながら尋ねる。

 「いいえ、違うわ。単に、華夏帝国との国力の差を思い知らされただけよ。確かに、西方は華夏帝国を嫌っているわ。獣人ゆえに、人間と獣との交配によってできたんじゃないかとか、あることないこと噂しているわ。でも、それはあくまで偏見から生まれたものであって、本当のこととは限らない。この旅でそれはよく思い知らされたわ。だけど、私は西方の人間という立場ではなく、皇女として嫉妬や危機感を嫌でも思わされるのよ」

 マリアがそう言うと、なるほどとグローは納得する。マリアは個人的な立場ではなく、皇女という役職などの立場があるからこそ、素直に楽しめないのだろう。

 グローは立場上、マリアと全く同じ感情を抱くことができないが、なんとなく彼女の気持ちが理解できた。



 そして、グローたちは街を見回っていると、拓東城にもタンロンと同じ現象がみられる。住民の質素な暮らし、武装した兵士。そして、マジャ人を憎み、悪口を言っている。その両者を見て、グローたちは悟る。

 タンロンと拓東城がなぜ物や人の流れがあるのに、みんな質素な暮らしをしているのか。なぜ、武装した兵士が多いのか。それらの理由がようやくわかった。

ここら辺一帯は、華夏帝国とマジャ帝国の戦争に巻き込まれることが多いからだ。その街が他国に占領されれば、身代金を要求されることや物資が奪われることが多い。だから、この街には贅沢をできるほどの余裕はないのだ。だから、お互いに嫌悪しているのだろう。当然のことだ。


 グローは最近、対立も仕方ないのかなと思えてきていた。以前までは、国同士などイデオロギー的な対立だけだと思っており、それならばお互いに考え方を分かり合えれば仲良くなれると思っていたが、どうもそうではない。人狼の件もあって、カーズィムを殺した恨みのように、個人的な恨みもある。だから、こういった対立は無くならないと諦めかけていた。悔しくも、以前ミノタウロスが言っていた言葉が、グローの心に重くのしかかるのであった。


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