10章100話 信じるのみ
ワニはマリアの突き刺した槍がとどめとなり、ぐったりして、水面に浮かび上がる。
「おー!やったぜ!!」
マーナは見事ワニを倒し、はしゃいでいる。
そして、彼はワニの頭に近づき、瞼を開けて瞳を確認する。ワニはたまに死んだように見せかけて、最後の最後に食い殺すこともあるらしい。だから、ワニが死んだかどうか確かめるためには、瞳を見る。瞳が動いていれば、まだ生きているという証拠だ。だが、ジョーラケー・ピーサートの瞳は動いていないので、もう死んでいるのだろう。
そして、マーナはワニが死んでいることを確認すると、鉈を取り出し、ワニの頭を切り落とす。村人に自分がワニを倒したのだと信じてもらうためだ。
そして、彼らはワニの頭を手にして村に帰ると、村人の視線が彼らに一斉に集まる。
「皆、ジョーラケー・ピーサートを倒してきたぞ!!」
マーナはそう言いながら、手に持ったジョーラケー・ピーサートの頭をグッと上に掲げる。
それを見た村人は、彼が本当に倒してきたのだと信じ、彼の周りに人だかりができる。村人は実際にワニの頭を見ると、「すげえ、本当だ」と改めて信じ、彼を称賛する。
「どうだ!すごいだろ!」
マーナは皆に認められ、誇らしそうに笑っている。
「全く調子がいいぜ。ほとんど俺のおかげなのによ」
イトゲルは何か文句ありげのように、ブツブツと小言を言う。
「まあ、いいじゃないか。彼も一応は倒したわけだし」
グローは文句ありげなイトゲルを宥める。
「でも、困るのはあいつだぜ。こういう風に活躍したら、今後頼られたときにボロが出るだろ」
「それでもいいんだ。大事なのは周りが彼に目を向けたことだ。彼は元々、皆に認めてもらえるように頑張っていたわけだし。彼だったら今後、失敗する時があったとしても、また皆に認めてもらえるように頑張るはずさ」
「そんなもんかね」
グローの話を聞いても、イトゲルは納得がいっていないらしく、はぁと溜息をつく。そこに、グローはふふんとちょっと得意げらしく、たとえ話をしだす。
「ここで、一つ教訓を教えてやろう。嘘はときに本当になる。例えば、“俺は大きい岩を持ち上げられる”と嘘を言うやつがいたとする。それを周りが嘘だと知ったらどう思うだろう?」
「まあ、勿論、ダサいと思うだろうな。卑怯者とも思うだろうよ」
「そうだな。だが、その嘘をついた本人が周りに嘘だと思われないように、毎日努力して、終いには本当に岩を持ち上げられるようになったら、周りはどう思うだろう?」
イトゲルはそのグローのたとえ話で何かに気づく。グローはその彼の様子を見て、コクリと頷き、そのまま話を続ける。
「そうだ。嘘は確かにあまり良くはないかもしれない。でも、嘘が嘘にならないように努力すれば、嘘も悪いものじゃないんじゃないか?」
「うーむ……」
イトゲルはグローの話に納得するものの、簡単には認めたくないのか、腕組をして考えるような素振りをする。
「まあ、とにかく、俺は彼がお調子者だとは思うけど、嘘を嘘のままにしておくような卑怯者ではないと思うんだ。だから、俺は彼がこれから努力することを信じている」
「信じているって、確信じゃないのかよ。あいつに委ねているじゃねえか」
イトゲルはグローのお人好しさに呆れる。
「でも、お前なら分かるだろ。皆に認めてもらいたかった、そして今それを証明するために努力しているお前なら。だから、マーナに手を貸したんだろ?」
図星を突かれたのか、
「……なんのことかさっぱりだな」
と、イトゲルは目を逸らし、そっぽを向いてしまう。
その様子を見て、グローは優しそうに微笑む。
これで、マーナが皆に認められ、一件落着かと思われる。だが、グローにはまだ不可解に思っていることが残っていた。なぜマーナはこんなにも良く思われていないのに、この村で匿っていたのか。不思議に思ったグローは村長に直接尋ねてみる。
「無礼を承知ですみませんが、なぜマーナは歓迎されていないのに、この村で匿われているのですか?」
村長は触れてほしくないことだからか、苦虫を噛み潰したような顔をしていた。だが、観念したのか、重々しい口を開き始める。
「マーナの父親はこの村の護衛兵士でした。彼はこの村を魔物や華夏帝国の軍から度々守ってもらっていただいていたのです」
そのことを聞くと、グローの中で余計に謎が深まる。それと同時に、その背景があるにも関わらず、マーナにあのような態度を取る村人たちに怒りが湧いてくる。
「ならば、その父親に恩義を感じているのなら、マーナを快く匿ってあげたらどうです?」
怒りで、彼は少し強い口調になってしまう。
「この村は華夏帝国との戦争に巻き込まれやすいのです。いくら父親に恩があるとはいえ、その子どもを匿えるほどこの村には余裕がないのです」
それを聞くと、グローは何も返事せず、黙ってしまう。村長の言い分を聞くと、確かにそうかもしれないと思ってしまった。だが、簡単に見捨てるという選択をしたくないため、彼は返事をしなかった。
子どもは時に見捨てられやすい。凶作や戦争などで貧しくなった村や家族は、口減らしで子どもを捨てることも少なくない。地域によっては、子どもは「七つまでは神のうち」という名目の許、捨てられている噂もある。ましてや、親を失った孤児など誰も養うはずがない。それくらい、親を失った子どもには、この世の中を生きていくのは厳しいだろう。
マーナはこの調子で村に役に立てば、快く匿ってもらえるかもしれない。だが、ボロが出れば、再び冷遇されるに違いない。かといって、グローたちにできることは限られている。グローはイトゲルにああは言ったものの、本当にマーナを信じることしかできなかった。
そして、グローたちはその日の晩はその村でお世話になり、翌日、村を出ることにした。
村を出る際、グローは、
「じゃあな、これからも頑張れよ」
とマーナに言う。本当は色々と伝えたいことがあるが、自分にできることはほとんど無いため、ぐるぐると頭で考えた結果、シンプルな別れの挨拶になってしまった。
「そっちこそ」
マーナが拳を前に出し、グローも拳を前に出す。そして、互いの拳を挨拶代わりに軽くぶつける。
挨拶をし終えると、グローたちは村を出て、次の街ムアンスアを目指した。
彼らはしばらく森林や草原が生い茂る道を進んでいると、急に大粒の雨が降る。
「ここら辺はよく雨が降るな」
グローたちは雨宿りをしながら、次の街を目指す。降雨が多いからか、地面もぬかるんでおり、ゆっくり進む。
そうして、2週間ぐらい経ち、ようやくムアンスアの街に到着する。
ムアンスアは今までの仏塔が多かったり、市場が栄えている街とは違って、シンプルな街となっている。街の割に、木々が生い茂っており、川が近くに流れている。
だが、普通の街にしては、不思議な点が二つある。まず一つは、市場を見ていると異様に物価が安い。だが、物価が安いのにも関わらず、売れ残っている。
「なぜ、こんなに安いのに、売れ残っているんだ」
不思議に思いつつも、グローたちにとってはありがたいため、市場で食料品などを補給する。
もう一つ不思議なことは、住民たちがなにやらザワザワと騒がしい。皆、何かについて話し合っている。
グローたちは近年の情勢を鑑みて、例のサラフィー国に関する情報なのかと勘繰る。そして、彼らは街の騒がしさが気になり、近くの酒場に入る。
酒場に入ると、数人の組が話し合っているため、そのうちの一組に近づき、スッと銅貨を渡す。
「俺らは旅をしている者だ。この騒ぎは、多分、サラフィー国に関するものだろう。聞かせてくれ」
銅貨を渡された人たちはお互いに見合わせて、コクリと頷く。そして、彼らに話し始める。
ここのところ、騒がせているサラフィー国がエンジェル帝国と同盟を締結されたとのことだ。グローたちにとっては、予期しなかったような、あるいはエンジェル帝国ならあり得るような、どちらとも言えない知らせだった。
だが、重要な問題点は、この二国が同盟を結ぶと、アシーナ帝国は同盟二国に挟まれてしまい、挟み撃ちに遭う危険性がある。それゆえに、アシーナ帝国はムンク二重帝国に同盟目的で接近しているらしい。
さらに、エンジェル帝国の侵攻を恐れたアシーナ帝国は経済的損害を与えるため、エンジェル帝国との国境封鎖、および交易の断絶である「封鎖令」を出す。
確かに、エンジェル帝国は毛織物や鉄製武器などアシーナ帝国への輸出で儲けていたところもあったので、エンジェル帝国からすれば痛手かもしれない。
だが、この封鎖令はアシーナ帝国にとって悪手だった。この交易の断絶が痛手なのはエンジェル帝国だけではなく、アシーナ帝国内のルーシ辺境伯領もだった。ルーシ辺境伯領は農業大国であり、エンジェル帝国にも多く農作物を輸出していた。だが、この国境封鎖令により、ルーシ辺境伯領はエンジェル帝国への輸出を断たれてしまった。
さらには、今までアシーナ帝国内に流通していた質の高いエンジェル帝国産の武器や毛織物などが急激に途絶えたため、国民は質が悪いアシーナ帝国産の物を使うことになり、国民の不満が高まっているようだ。
そして、ここに追い打ちをかけるように、アシーナ帝国は軍事費の増強などにより、税収が必要になったため、各領邦への課税を高くした。
これらによって、アシーナ帝国への不満を高めたルーシ辺境伯領は、思わぬ行動に出る。ルーシ辺境伯領はエンジェル帝国の支援を受け、アシーナ帝国へ独立戦争を仕掛けることになった。
しかし、妙なのが、準備が良すぎたことだ。エンジェル帝国はルーシ辺境伯領がアシーナ帝国に戦争を仕掛ける前から、国境付近に軍を配備していたというらしいし。まるで、前々からこうなることを計画していたような。
ここまでが、グローたちが聞いた情報だった。マリアはその噂を聞くと、復興の約束をした同盟相手のアシーナ帝国のことが心配なのか、机の下で貧乏ゆすりをしている。
「もう早く行きましょう」
マリアは先を急ぎたいのか、サラフィー国の情報を聞くなり、急いで酒場を出る。グローたちは情報を教えてもらったため、酒場の人にお礼を言ってから酒場を出る。
そうして、彼らは急ぐように街を出た。
一応投稿しますが、文章表現など細かいところは、もしかしたら今後編集していくかもしれません。ここはこうした方がいいなど意見があれば、ぜひ教えてください。
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