10章98話 新たな計画
グローたちは龍飼いの村を出て、次の街のチェンマイを目指していた。
道中、道が山なりになり、若干歩くのに疲れを感じてくる。そして、そのまま高地を歩いていると、少し先に緑に囲われた村が見えてくる。その村には、何か植物が階段状に植えられている。
「見たことない植物だな。とても食えそうに見えないが」
グローは気になって、近くにいた村人に尋ねてみる。
「すみません、これは何て言う植物なんですか?」
「これはお茶です。ここのお茶に興味あるのですか?良かったら、飲んでみます?」
「お茶?紅茶ってことか?」
西方ではお茶というと紅茶が一般的だった。だが、紅茶の生産は西方ではなく、東方の華夏帝国やマジャ帝国で行われていたため、実際の茶畑はグローたちからすれば物珍しかった。
「ちょっと待って」
男性はそう言うと、向こうの小屋から小さい鍋と五徳と茶葉を持ってくる。そして、その五徳を適当な地面に置き、五徳の下に枯れた木の枝と火付きの良い枯草を集め、そこに火打石で着火する。火が草に着火し、ある程度に燃え上がると、水を入れた鍋を五徳の上に置いて熱する。そして、水がブクブクと沸騰し、お湯になったところで茶葉を入れる。お湯が若干、緑色になると、男性はその緑色のお湯を小さなカップに注ぐ。
「飲んでみてくれ」
男性はお湯が注がれたカップをグローたちに手渡す。
見た感じだと、その液体はグローたちが知っている紅茶とは違った緑色で、あまり好んで飲みたいとはならなかった。だが、男性がどうぞというように、ジェスチャーで飲むのを勧めるので、彼らは無下に断れず、覚悟を決めて飲んでみる。
すると、見た目とは裏腹に、意外と美味しく、彼らは呆気にとられた表情になってしまう。
その表情を見て、男性はニヤリと微笑み、お茶の良さを語る。
「茶はとても便利だ。水が少し汚染しているとき、茶葉を入れて沸騰させれば腹下しの心配がいらなくなる。それに、毒に効く薬にもなる」
男性はお茶の良さを必死にアピールする。
「へえ、いいですね」
グローの肯定的な言葉を聞くや否や、その男性は両手で指6本を立てる。
「これ一盛20銅貨ね」
なるほど。どうやらこの男性は商売目的で、グローたちにお茶を飲ませたらしい。彼らが見るからに余所者であるため、買わせるように誘導したのだろう。
グローたちはわざわざ買いたいとは思わないが、飲んでしまったため、無視することはできず、渋々お金を払ってお茶を買い取る。
グローは勿体ないと思いながら、買った茶葉を受け取り、その村を出た。
そして、彼らはしばらく道を歩いていると、目的地のチェンマイにようやく着く。
「はあ、ようやく着いたな」
目的地にようやく着き、安心したせいか、両腕を上に伸ばしてぐっと背伸びをする。
彼らはチェンマイの街を軽く見て回る。チェンマイの街には相変わらず寺院など仏教施設が多い。だが、街には活気があり、住民の顔からはそこまで暗さを感じない。
チェンマイはマジャ帝国でも北の方に位置するせいか、蜥蜴人以外の獣人もチラホラ見かける。蛙や獺、蠑螈などの獣人もいる。だが、それがこの辺りでは普通なのか、誰も蜥蜴人以外の獣人を気にしない。
そして、市場を見てみると、ここは漆器や焼き物など工芸品が特産物のようだ。他にも、近くの村で茶葉の生産が行われているせいか、茶葉も多く売られている。茶葉の値段を見ていると、グローたちが買った値段より少し安い。グローは改めて、先の村でぼったくられたのだと痛感する。
街を軽く見終わった後、皆、ここまで辿り着くのに体力を使ったため、ヴォルティモがこう提案する。
「この街まで着くのに随分時間かかったな。疲れたから今日はこの街の食堂で食事を済まそう」
皆も彼の提案に納得し、街の食堂を訪れる。彼らは食堂内の適当な席に着くと、若い女性の店員が彼らに近寄り、注文を尋ねる。
「ここでの名物を教えてくれると助かる」
ヴォルティモがそう尋ねると、その店員は、
「それならパッタイがおすすめだね」
と聞いたことのない料理名を口にする。だが、彼らにとって何もかも分からない辺境の地で、下手に頼むと後悔しそうなので、郷に入っては郷に従えということで、店員の言ったものを頼んだ。
「じゃ、それを頼む」
「はいよ」
そして、20、30分後、
「はい、パッタイ」
と店員が頼んだものをテーブルに置く。
「これが、スコーダヤ朝の名物か。またパスタとは違う麺だな」
彼らは見たことのない料理をまじまじと見て、手を付けようとする。だが、肝心のフォークなどのカトラリーが見当たらない。あるのは、細長い二本の棒切れだけ。
「すみません、カトラリーがないんですけ…」
ヴォルティモがそう言いかけた時、
「そこにあるじゃねえか」
とイトゲルがその棒切れを指さす。
「これが?」
イトゲルに言われてもなお、これがカトラリーだと信じられないグローたちは逆にイトゲルが嘘をついているのだと疑う。
「これは箸っていうんだ。これでこうやって挟んでつまむんだ」
イトゲルは信じてもらうために箸を使って見せる。彼は簡単そうに箸を使うが、グローたちにとって使ったことのない物だったので、使い方を教わってもなお理解できなかった。
「とりあえず使わないことには上手く使えないから」
とイトゲルが言うので、グローたちも一応は手にしてみる。やはり使い慣れていないため、箸を手にしても、中々パッタイをつまめない。
―くっ、難しいな。
イトゲルは箸を使い慣れているのか、慣れたように箸で料理を掴みとっている。
グローたちはたどたどしく箸を使いながら、少しずつパッタイを口に運ぶ。使い慣れていないせいで、箸を持つ手がプルプルと震えている。
だが、パッタイを口にすると、食べたことのない味だが、意外に悪くないと思い、グローたちは不器用ながらも少しずつパッタイを口に運ぶ。このマジャ帝国は海が近いため、パッタイからは海鮮系の食べ物も使われている。
そして、彼らは黙々と食べていると、食堂に客と思われる中年の男性と少し若い男性が入ってきた。そして、席にドカッと勢いよく座る。
「注文は?」
「パッタイと焼酎」
その二人は常連なのか、二人と店員の注文を受け答えするやり取りが円滑だった。そして、男性二人が注文してから20、30分後経つと、その注文した料理が届く。
「はい、パッタイと焼酎。」
「あいよ。」
その男性二人が料理とお酒を受け取ると、はぁーと深い溜息が出る。
「ここんとこ情勢が荒れているせいで、物価が上がるもんだから、ここの料理も値上がりしているよな。気軽に酒も頼めねえや。」
若い男性はそう言いながらも、注文したお酒をぐびっと飲む。
「ああ、そうだな。この国の上にある魔物の国だって恐ろしいもんだよ」
「確かにな。皇帝陛下も国境付近の守りを固めていると言うし」
その男性二人が昨今のきな臭い情勢について話し合う。そして、中年の男性の方が何かを思い出したように、ポンと手を打つ。
「そういえば、聞いたところによると、黄泉の国が改めて正式な国家として認められたらしいぞ。正式な国号もサラフィー国と決めたそうだ」
「サラ…なんちゃらって、なんだ?」
若い男性は聞いたことのない言葉が出てきて、聞き返してしまう。
「サラフィーとはエルバ語で復古主義者という意味で、イティバーク教が創始された当初の教えに回帰すべきという考えの者たちだ。元々、アラッバス朝はイティバーク教を代々受け継いでいるとはいえ、年月が経るにつれ、世俗化されていった。そのため、創始された当初の教えとは大分変わり、アラッバス朝の世俗化に反対する者たちが現れていったんだ」
中年の男性がそう丁寧に説明していると、若い男性がふーんといった様子で聞き流している。多分、内容をあまりわかっていない様子だ。そして、サラフィーの説明にさほど興味ないのか、話の腰を折るように違う質問を尋ねる。
「それで、そのサラフィーってやつがどう関係しているんだよ」
中年の男性は若干呆れながらも、その質問に答える。
「つまりだ、最近はアラッバス朝も戦争とかで疲弊しているところだろ。そこに目を付けた魔物たちは、サラフィーと手を組み、アラッバス朝を滅ぼしたという可能性があるかもしれねえってこった」
「そういうことだったのか。何も悪魔と手を組むことはないだろうに。それにしても、どこだよ、あんなふざけたのを認める国は」
若い男性は机をダンッと拳で叩き、怒りを露わにする。
「エンジェル帝国だそうだ」
中年の男性が彼の質問に答えると、何か納得いったように彼は少し頷く。
「またエンジェル帝国か。あの国は何かと裏で絡んでいるよな」
「そうだな。噂だと、魔物と取引しているとも言われているし。また、何か画策しているのかと思うと、恐ろしいよ」
グローたちは二人の話を聞き、またエンジェル帝国が関わっているのかと思い、エンジェル帝国の腹黒さに恐怖を覚える。
様々な地域全体でサラフィー国やエンジェル帝国の噂が飛び交う中、当のエンジェル帝国はというと、何やら会談をしていた。エンジェル帝国の王宮内の謁見の間の玉座に一人の男が佇んでいる。その男は透き通るような白い肌と髪をしている。
「久しぶりだな。ヴラド、夏姫」
その玉座の男性が挨拶をすると、
「ハッ!皇帝陛下も元気そうで何よりです」
と玉座の男性の前に跪いている二人は恐縮しながら返事をする。
「それで、どうだ、そちらは順調そうか?」
そのエンジェル帝国の皇帝と思しき人物がそう尋ねると、
「「ええ、計画通りに進んでいます」」
と二人は答える。
「そうか。なら、よい。その調子で頼むぞ」
「勿論でございます。全ては我らの夢のために」
彼らは何かの野望に向けて、動き出していた。
すみません、少し投稿遅れました。
これから毎日少しずつ書き進めるよう努力します。




