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10章95話 寛解

 グローたちはピンサの街で食材などを補給して、次の街を目指す。次の街はこのピュガーマ朝の首都ピュガーマだ。

 ピュガーマまでは道が敷かれているため、道に迷うことは無いが、街までの道のりが長い。

 ―まあ、ゆっくり行くしかないな。

 ヴォルティモは馬の足を進めさせ、ピュガーマを目指す。

 そして、数時間後、段々太陽が下に傾いてきた頃、ピュガーマの街までの途中で、村を見つける。この村では、豆などの農作物の栽培や材木の伐採を生業としているようだ。所々に畑と伐採された木材が置いてある。

ピュガーマまではまだまだ道のりが長いので、彼らはこの村で休憩することにした。

 ヴォルティモはこの村の一つの家を訪ねる。

 「すみません。旅をしている者なのですが、ちょっと泊めていただきたくて。」

 だが、村人がヴォルティモをジロジロと見るなり、あまりいい顔をされなかった。

なぜだろうか。西方であれば、ヴォルティモは人種的に差別されているため、納得はできなくはないが、このマジャ帝国でなぜいい顔をされないのか分からなかった。

 すると、

 「いいけど。こっちは家族の分だけでギリギリだからな。」

と村人がつっけんどんな言い方で言ってきた。

 よく見ると、村人の家族は少々痩せていた。

 「あ、大丈夫です。こちらは食材を自分たちで調達したので。良ければ使ってください。」

 ヴォルティモは街で買った食材を少し分けると、村人は、まあ、それならいいかと顰めていた眉を少し緩める。

 ―なるほど、食糧の問題だからか。いや、でも、それだけではない気がする。

村人はどちらかというと、ヴォルティモの袈裟をジッと見ていた。

 「あの、何か?」

 ヴォルティモは村人の冷ややかな視線を感じ、そう尋ねると、

 「いや、なんでもねえ。」

と村人はプイッとそっぽを向く。

 その意味ありげな行動が、ヴォルティモたちの不安を余計に煽る。

 そして、少しの時間が経ち、その家の主人の奥さんが料理をしている間、主人がヴォルティモに質問をする。

 「で、あんたたちは何しにこの村に?」

 「ちょっと華夏帝国を目指して、南方から来ました。」

とヴォルティモは答える。

 そのことを聞くと、村人は「へ?」と呆けた顔をする。

 「あ、お前、南方出身者なのか。なんだ。ピュガーマ朝の仏僧かと思ったぜ。」

 村人はそう言うと、突然、先ほどまでこわばっていた表情がみるみるうちに和らいでいく。

 なるほど。彼らの嫌そうにしている態度は、この国の仏僧かと勘違いしていたものによるものだったようだ。

 誤解も解け、少し和んだ空気にヴォルティモたちもホッと安心する。

 「ええ、そうなんですよ。でも、自分たちの肌の色からして、この国出身ではないと気づきませんでしたか?」

 ヴォルティモがそう尋ねると、

 「いやー、それも思わなくなかったんだが、この国は仏教にお金をかけすぎているせいで、外国からの仏教徒の留学制度も設けているからな。必ずしも違うとは言い切れないんだよ。」

と村人が答え、ヴォルティモはなるほど、それで勘違いしたのかと納得する。

 さらに、村人はこそっと耳打ちをしてきた。

 「それに、あんまり悪いことは言えねえが、仏僧たちのせいで、税金も多く取られるわ、政治も乱れるわで国内が混乱しているんだ。」

 そのことを聞くと、ヴォルティモは先の街で市民に活気が無いのを思い出す。

 「そうだったんですね。同じ仏教徒だからと浮かれていました。」

 皮肉なものだ。人の心を支える宗教が、逆に人の心を抑圧するとは。宗教は人の心の支えにもなるが、力を持ちすぎるのも問題なのかもしれない。

 「まあ、あんたらは関係のない旅人だ。ゆっくりしていってくれ。」

 村人がそう言ってくれたので、ヴォルティモたちはお言葉に甘えて、夜をゆっくり過ごした。そして、翌朝になり、村人の家を出る。

 「ありがとうございました。」

 ヴォルティモたちはお礼を言い、お世話になった村を出る。

 そして、草木が生い茂る草原を突き進むと、向こうに金色の高い塔がある仏教寺院が見えてきた。

 この寺院は、ピュガーマの街にあるアーナンダ寺院というものだ。これがあるということは、どうやら彼らはピュガーマに着いたようだ。

 このピュガーマはアーナンダ寺院以外にも、至る所に仏塔などがある。

 「すごいな。このピュガーマという街は…。仏教においては、抜きん出ているな。」

 ヴォルティモは仏教関連施設の多さに感動する。ただし、純粋な感動ではない。このせいで民衆が苦しんでいることを考えると、とても複雑な気持ちになる。

 ―これが、村人から話を聞いていなかったらな…。

 一見すれば煌びやかなこの寺院は、内実を知っている者からすれば、ただの権力を知らしめる嫌悪の対象でしかない。

 ヴォルティモは自身が仏教徒なのもあって、この地域の寺院を見ていると、心が苦しくなる。彼はその寺院などから視線を逸らすように、市場など別のものに視線を移す。

 市場には、多くの品物が並べられている。漆塗りの食器や農作物など様々なものが売られている。さらには、それらを売るリザードマン、他の獣人、他種族もぞろぞろといる。

 ピュガーマは経済が落ち込んでいるとはいえ、さすが首都だ。多くのリザードマンが集まり、市場に活気がある。


挿絵(By みてみん)


 ヴォルティモたちは市場で物資を調達すると、ピュガーマを出る。そして、次の街まで進んでいると、空が徐々に暗くなりはじめる。

 「今日はもう暗いし、ここら辺で野宿するか。」

 ヴォルティモがそう言うと、馬車を止め、その辺りで夜を過ごすことにした。

 馬車の中で夜を過ごしていると、グローが「…ぅ、…う。」とうなされており、はぁはぁと苦しそうに息をしている。

 「グロー、大丈夫?」

 マリアは心配になって、グローの様子を見ると、彼の顔が赤く火照っていた。マリアがグローの額を触ると、熱湯のように熱かった。

 「これはまずいわね。」

 病気になるということは死に至ることも不思議ではない。医学も発展しておらず、薬の値段も高いため、病気の治療なんてとてもじゃないが容易ではない。

 「ヴォルティモの法術でなんとかならないの?」

 マリアがそう尋ねると、

 「いや、法術はあくまで治癒力を高めるだけなんだ。完全に治せるわけではない。勿論、法術も行うが、それだけではカバーできない。」

とヴォルティモが答える。

 すると、マリアが心配そうな顔をするので、

 「まあ、そんなに心配するな。法術もかけつつ安静にしていれば、じきに治るだろう。」

とヴォルティモはマリアを安心させるよう言葉をかける。そして、

 「この近くにチェウセという街がある。そこで、風邪に効きそうなものを買おう。」

と提案する。マリアとイトゲルは断る理由もなく、ヴォルティモの提案に賛同する。

 そうして、ヴォルティモたちはチェウセの街を目指すことにした。速足でチェウセを目指し、草原の中を突き進む。

 「チェウセという街は、まだなの?」

 マリアはグローのことが心配ゆえに、チェウセまでの道のりをじれったく感じる。

 「急いでいるから、そんなに焦るな。」

 ヴォルティモは焦るマリアを宥める。

 そこに、イトゲルが、

 「じゃ、俺が少し先に街があるか、ぱぱっと見てくるよ。」

と言い残し、自身の馬を走らせる。

 そして、イトゲルが向こうに行って数十分後、彼が戻ってきた。

 「向こうに街があった!この方向で進めば、大丈夫だ。」

 その彼の言葉にヴォルティモとマリアは胸を撫でおろす。

 そして、そのまま進むと、イトゲルの言葉通り、街が見えてきた。

 ヴォルティモたちはチェウセの街に着くと、すぐに市場に出向く。

 「うーんと、あった!」

 ヴォルティモは市場の品を物色していると、何かお探しの物を見つけたようだった。

 「これ、ください。」

 ヴォルティモが手にしたものは、生姜だった。生姜には新陳代謝を活発化させる効能があり、風邪の効きはじめに効果がある。

ヴォルティモは買った生姜をすりおろし、お湯に溶かして、グローに飲ませる。そして、体を温めるのに毛布を被せ、安静にさせておく。

 そうして、付きっ切りでグローを看病していると、少しずつ呼吸がゆっくりになる。

 その様子を見て、マリアたちはホッと一息つく。

 「よかった。一時はどうなることかと。」

 マリアがそう安心すると、

 「まあ、色んなことがあったからな。無理もないさ。」

とヴォルティモは過去を思い返しながら、虚空を見つめる。

 「そうね…。最近、グローもショックであまり眠れてなかったものね。それも、体調が悪くなったのに影響しているでしょうね。」

 マリアがそう言うと、

 「そうだな。これでゆっくり休めればいいけどな。」

とイトゲルも同意する。

 「そうね……。」

 マリアたちは徐々に自分の瞼が重くなっていき、意識が朦朧とする。そして、彼女らはそのまま馬車の中で横になる。

 疲れていたのはグローだけじゃない。看病もしていた彼女らは気絶するように眠る。




 当のグローはというと、彼の意識は真っ暗な何もない空間にいた。物も人もいない。音も匂いも無い。「何も無い」がそこにはあった。

 だが、恐怖や不安を覚えることもなく、どうやら通常の感覚も無くなってしまったようだった。

 時に、夢を見ている時は不思議な感覚に陥る。通常だと変だと思うことが、夢だと何故か何も不思議に思わないのだ。多分、これもそういうことなのだろう。

 グローはその何も無い空間をトボトボと歩いていると、ドンと何かにぶつかる。

 「いって。なんだ?」

 グローは前方を見ると、ほとんど全身が闇に隠れている人を見つける。

 その者は口を布で覆っており、素顔はあまり見えない。だが、不思議と親近感を感じた。

 「誰だ?」

 グローがそう尋ねても、その人物は何も答えない。

 しばらくの間、沈黙が続くと、その前方にいる人物が何かを呟く。

 「…振り返るな。」

 その声は小さく、弱々しいが、温かい優しい声だった。

 「振り返るな?」

 グローはその言葉の真意がわからず、聞き返す。

 だが、その人物は相変わらず、こちらの質問に答えない。

 そして、その人物は突然、右の方角を指さす。すると、右の方からまるで朝日が昇るように、光が何も無い空間に差してくる。

そして、グローの視界全体が真っ白になると、現実でのグローがハッと目を覚ます。

 ―なんだ、さっきのは。思い出そうにも思い出せない。

 「あ、グローが目を覚ました!」

 イトゲルがそう言うと、皆グローの方に振り返る。

 「良かった!顔色もよさそうね。」

 マリアたちが回復したグローを見て喜ぶ中、グローが何かを考えているような素振りをする。

 「どうしたの?」

 マリアがそう尋ねると、

 「なんか夢を見たんだが、どんな夢だったか思い出せないんだ。」

とグローが答える。

 「誰か、どんな夢を見ていたのか知らないよな?」

 グローがそう冗談を言うと、

 「知るわけないじゃん。」

と皆、笑いながら答える。

 「まあ、そうだよな。」

 グローは考えても仕方がないと思い、思い出すのを諦めた。

 その夢で現れた人物が誰だったのか、そのことにグローが気づくのはもうしばらく先のことだった。


すみません。ちょっと扁桃腺を取るのに、少しばかり入院して、投稿遅くなりました。

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