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10章92話 帰着

 その後、グローたちは亡くなったカーズィムを弔った。

 カーズィムは亡くなった南方兵と共に火葬され、遺灰は聖なるガンガー川に流されることになった。

 火葬場で起こした焚火に薪をくべると、パチパチと音を立てながら燃え上がる。その火の中に一人ずつ遺体を入れ、骨と灰になるまでゆっくり待つ。

 グローたちもカーズィムの遺体を二人がかりで運び、火の中にそっと入れる。遺体は炎に包まれ、肉体が徐々に燃えていく。

 グローたちはそのままカーズィムの遺体が燃え尽きるのを見届ける。

遺体は燃え尽き、火を消すと、骨と遺灰だけが残されていた。

 火葬場で燃やすと、あんなに抱きかかえた時は重かったカーズィムの遺体も、手で持てるほど軽くなっていた。

 グローは燃えて残った遺灰を川に流そうとするも、名残惜しくて中々川に流せない。彼が遺灰を川に流そうか迷っていると、突如、風が吹き、遺灰が吹き飛んでしまう。

 「あ…。」

 遺灰は風で煽られ、とうとう川に流されてしまう。遺灰はどんどん流され、遠くへ遠くへと行ってしまう。

 グローたちはその場に立ち尽くし、夕陽が沈むまでしばらくジッと見守っていた。



 カーズィムの最後の言葉が脳に焼き付いて離れない。

 「…もっと…お前らと生きたかったな。」

 あれだけ生きることに絶望していたカーズィムが、生きたいと望んだ。なのに、死んでしまった。その無念さを思うと、グローは後悔と例の人狼への怒りが湧き出ては止まらない。

 ―今度、あの人狼を見つけたら、カーズィムを殺したことを後悔するまで痛めつけてやる。四肢を切り裂いて…。

 グローは人狼をどう殺すかと、エグイ妄想をしていると、

 「…ロー、グロー、グロー!」

と声が鼓膜に響いてくる。

 グローの意識は妄想から現実へと引き戻されると、目の前のマリアが心配そうにこちらを見ていた。

 「…あ、ああ、どうした?」

 グローはマリアに声を掛けてきた理由を尋ねると、

 「大丈夫?すごい顔をしていたから。」

とマリアが心配そうに尋ねてくる。

 グローはマリアに言われて初めて、自分がすごい形相をしていたことに気が付いた。

 「ああ、大丈夫だ。」

 グローは歪んでいた顔を正して、皆に心配をかけないように、平気そうなふりをする。



 グローたちはこの度の人狼との戦争の結果報告をするため、ゴーヴィンダ王子のいる宮殿にいた。

 彼らは宮殿に入ると、客室に案内される。

 「ゴーヴィンダ王子をお呼びいたしますので、少々お待ちください。」

 使用人がそう言うと、客室を出て、ゴーヴィンダ王子を呼びに向かった。

 そして、グローたちはゴーヴィンダ王子を待っている間、彼らがフェンリル戦で気絶している時、何があったかをヴォルティモが説明した。

 「そうだな…。どこから話したものか…。」

 ヴォルティモは伝える情報が多すぎて、どこから話せばいいか迷っていた。

 だが、数分経った後、ヴォルティモは口をようやく開き始める。衝撃的な事実が多くあるため、彼は最初から丁寧に説明し始める。

 魔物の過去を見ることができる「天眼」を習得したこと。天眼でフェンリルの記憶を辿ったところ、フェンリルは「フェンリル」ではなく、アンナという少女だったこと。アンナは成仏したこと。魔物は元々人間だったということ。

 衝撃の事実をヴォルティモからいくつも告げられ、マリアたちは頭が混乱してしまう。

 「待って、頭が追い付かない。少し情報を整理する時間を頂戴。」

マリアが頭を手で押さえ、情報を整理しようとする。

 「まあ、色んな事が一気に起きて、混乱するのも無理はないよ。」

 ヴォルティモは、自身も彼女らの立場だったら混乱していただろうと思い、軽いフォローを入れる。

 しかし、彼らにとって新事実ばかりではなかった。

 「でも、なんとなく魔物が元人間であったことは薄々気づいていたわ。」

 以前、プーランが魔物へと変貌したこともあり、彼らは薄々気づいていた。だが、そのおぞましい事実を受け入れたくなくて、彼らはその真実に目を背けていた。しかし、今回の件で嫌でも知らされることとなった。

 「そうだな。でも、やっぱり改めてその事実を知ると、今まで殺してきた魔物への罪悪感がズシッと来るな。」

 今まで魔物を多く殺してきたが、それは人間とは違う魔物だからこそ、その罪の重さを感じずに済んでいた。だが、今、その根底の事実が覆されると、今までの魔物を殺してきた生々しい罪悪感が一気に押し寄せてくる。

 「でも、不可解なこともあるわ。もし、魔物が亡くなった人間の変貌した姿なら、死人全員が魔物になり、もっと魔物が溢れかえっているんじゃないかしら。」

 マリアはその疑問が分からず、うーんと考え込むように、首を(かし)げる。グローやイトゲルも、

「確かに。」

とマリアの疑問に納得する。

 そして、そのマリアの疑問に答えるように、ヴォルティモが自分の見解を言う。

 「そこで、俺なりに思ったんだけど、魔物はただの死人が変貌した姿ではないのかもしれない。」

 「どういうこと?」

 マリアがヴォルティモの言葉の真意を尋ねると、

 「アンナの記憶を覗いたとき、彼女が死ぬ間際に、途轍(とてつ)もない憎悪と後悔などを抱いていたんだ。思い出してみてくれ。今まで魔物は人間に対しての憎悪を抱いていることが多かっただろ。つまりだ、亡くなる以前にどうしようもない憎悪や悲しみなどを抱いていた人間が、未練から魔物へと変貌したのではないかと俺は思うんだ。」

とヴォルティモは魔物の真相への見解を答える。

 「なるほど。それだったら、まあ、筋は通るか…。」

 皆はそう言うが、完全には納得いってはいなかった。まあ、まだ確証の無いことだ。無理も無いだろう。

 「それで、ここからが本題なんだが、魔物を倒すには殺す以外の方法もあると思うんだ。」

 ヴォルティモは皆がまだ情報を整理している中、さらに困惑させるようなことを言い出す。

 「というと?」

 イトゲルがそう尋ねると、

「魔物は未練から誕生するならば、その未練を癒せば、魔物は成仏できると思ってな。実際に、フェンリルもといアンナがそうだったように。だから、これからは魔物は殺すんじゃなくて、癒して成仏させたい。」

とヴォルティモが意気込んで宣言する。

 そこに、

 「でも、魔物だって攻撃してくるわけだし、それは難しいんじゃないか。」

とイトゲルが疑問を投げかけると、

 「そこで、申し訳ないが、皆に防衛を手伝ってほしい。俺が“天眼”で見るから、その時間稼ぎをしてほしい。どうかな?」

と、ヴォルティモは皆の顔色を窺うように、下から覗き込む。

 すると、

 「いいわよ。魔物が元人間なら、私たちも殺す以外の方法がいいから。」

とマリアがヴォルティモの提案に賛同する。そして、

 「そうだな。俺らは各々の目的があるとはいえ、元々行き当たりばったりだしな。別にいいぜ。」

とイトゲルも続くように提案に賛同する。

 グローからは返事が聞こえてこないため、

 「グローは大丈夫か?」

とヴォルティモが直接尋ねる。

 「ん、ああ。俺も大丈夫だ。」

 グローはボーっとしていたが、直接尋ねられ、あっさりと賛同してしまう。

 その彼の様子を見て、

 「やっぱりグロー、元気無いわね。」

とマリアが心配する。

 「まあ、カーズィムが亡くなったんだ。そりゃ元気も無いさ。俺だってなるべくカーズィムのことを考えないようにしているんだ。」

 ヴォルティモがそう言うと、

 「まあ、そうだよね。」

 「そうだよな。」

と、マリアとイトゲルが頷く。



 そして、グローたちが話し終わったところで、ゴーヴィンダ王子がちょうど部屋に入ってきた。

 「あ、君たちか!今回の人狼との戦争では本当に助かった!それと…、仲間のことは本当に申し訳なかった…。」

 ゴーヴィンダ王子は椅子に座ることもなく、感謝とお詫びを同時に伝える。

「本当はじっくりと話をしたいのだが、如何せんアラッバス人の居住区の建設などで忙しくてね。すまない。」

 ゴーヴィンダ王子は何やら国内の整備で忙しそうだった。

 それもそのはず、実は人狼と南方連合軍との戦いの後、国際情勢は目まぐるしく変化した。

 今回の戦争によって、南方連合は仲間意識が芽生え、南方連合国としてまとまることとなった。

そこで、南方連合国として、シンボルである国旗などを決めることとなったが、宗教も違う、民族も違う南方連合は何を自分たちのシンボルとするか迷ってしまった。話し合いは難航し、困り果てていたところ、マラバルマン王子が意見を発する。

 「パドマはどうだろうか。」

南方連合は文化や人種何もかも違うが、唯一の共通点があった。それは蓮の花(パドマ)だった。南方では、様々な宗教が入り乱れる中、それら宗教で信仰の対象になっているのが蓮の花だった。

マラバルマン王子の発言で皆、南方連合の共通点に気づき、

「おー、いいんじゃないか。」

という声がぽつぽつと出始める。

そして、マラバルマン王子の発言から、南方連合は蓮の花を共通のシンボルとして使い、名前もパドマ(पद्म)連合と呼ぶことにした。

 だが、結成しようとした当初、パドマ連合に唯一賛同しなかった国があった。それはガール朝だった。この国は、民族も文化も何もかも違う上に、イティバーク教を信仰しているため、後ろ盾であるアラッバス朝を裏切れないというのもあったからである。

 しかし、そんな状況を一変する大事件が起きた。

 南方連合が人狼と戦争していた中、謎の魔物の軍勢が弱体化していたアラッバス朝を滅ぼしてしまったのである。アラッバス朝は近年、経済的に傾いていた上に、人狼との戦いなどが続いてしまい、かなり弱体化していた。そこに強力な魔物の軍勢が現れ、アラッバス朝はついに滅ぼされてしまった。

 そして、アラッバス朝に代わるように、魔物たちが王国を建てる。その魔物たちは、ゾンビやスケルトンなどアンデッドの魔物で構成されていたので、死者がよみがえる(黄泉帰る)という意味で黄泉の国と呼ばれた。

 ガール朝は、後ろ盾のアラッバス朝が滅ぼされたことを知ると、手のひら返しのように南方連合に加わることにした。

 これが、パドマ連合結成の事の顛末(てんまつ)であるが、実はこれ以外にも南方にとって急激な変化があった。それはアラッバス人の難民であった。

アラッバス朝が滅びたことにより、多くのアラッバス人がガール朝やムンク二重帝国内のオズベク=カン州などに国外逃亡することになった。これにより、ガール朝を窓口に、南方全体にアラッバス人難民がどっと押し寄せてきた。

 そして、ゴーヴィンダ王子はアラッバス人難民の居住地の建設などでバタバタしていた。

 「私はまた業務に戻らないといけない。君たちはこの国で十分休んでいくといい。おい、彼らを丁重にもてなすように。」

 ゴーヴィンダ王子は使用人にそう言い付けると、

 「ハッ!」

と使用人が返事をする。

 「では、すまない。私はここで失礼する。」

 ゴーヴィンダ王子はグローたちにそう言うと、戦争の後処理やアラッバス人難民の対処に戻る。

 「忙しそうですね。」

 ヴォルティモが王子の様子を見て、使用人にそう言うと、

 「そうですね。難民が大勢来ると、犯罪も増加しますから。まったく、本当に魔物は害悪でしかない。」

と使用人は魔物に対して文句を言うが、魔物が元人間であることを知っているヴォルティモたちはアハハと乾いた笑いが出てきた。

 確かに、大勢の難民が来ると、スラム街の形成から犯罪の増加へと繋がる。だが、実はこのアラッバス人難民がもたらす文化や技術が、南方連合の発展に繋がるのは、まだ先の話。


タイトルに違和感があったので、変えました。

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