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0章    奴隷物語

 歴史を語る上で、人の生活を抜きには語れない。食事、仕事、商い、娯楽、会話、宗教など数え切れないほどの要素が絡み合って、人の生活が生まれ、その軌跡が歴史となる。

 そして、戦争も例に漏れず含まれる。戦争も人の生活の一部であり、歴史に刻まれる。そして、戦争には、ほとんどの場合、奴隷が生まれる。


 slave、σκλάβος、köle、奴隸。

 農奴、性的奴隷、剣奴。

 色んな読み方があり、色んな役割や意味がある。それほど世界には奴隷が生まれ、溢れている。ある地域では、奴隷に働かせた結果、時間のゆとりができ、哲学が誕生していった。彼らは農業や鉱山など様々な場所で人の生活を支えていた。


 このように、奴隷は人々の生活や「歴史」に影響を与えているが、人としての扱いを受けず、歴史に書かれることはまずない。彼らは歴史に忘れ去られてしまうのだ。


 ましてや、血統も力も学もない奴隷など、人の記憶や歴史に残るはずは無かった…。


 これはそんな奴隷の物語だ。





 ここ、アトマン帝国のハットゥシャという街の無数の穴を潜ると、そこには地下に住むドワーフたちの住居がある。普段は剣を叩く音と話し声で賑わっているが、今はもう夜でその活気はなく、辺りは静まり、多くの住居の灯りが消えている。


 だが、ある家の一つの窓に未だ灯りが灯っていた。その部屋には子ども用の二つのベッドと二人の兄弟らしき子どもたちがいた。


 その部屋の壁に掛けられている時計が、ゴーンと午後11時を知らせる鐘を鳴らす。まるで子どもたちに早く寝ろと急かしているようだ。


 兄と思われるドワーフの子どもは、もう眠気が限界のようで、あくびがひたすら出ている。兄は眠ろうと布団にもぐろうとした。

 だが、弟と思われるドワーフの子どもが兄の肩を揺らし、話しかけてくる。


 「ねぇねぇ、兄さん、この本を読んでよ」


 よく弟はそう言い、御伽話が書かれている本を持って来るのだった。

 兄はもう眠る体勢に入っていたので、嫌そうに眉を顰めている。そして、兄は断ろうと口を開くが、弟がきらきらとあまりにも純粋な目で見ているので、「嫌だ」と出そうになった言葉を飲み込んだ。

 兄は深い溜息をつきながらも、弟が渡してくる本を手に取る。


 「…仕方ないな」


 その言葉を聞くと、弟はニヤリとほくそ笑む。こうすれば、頼みを聞いてくれるーーそう思っているに違いない。

 それでも、溜息をつきつつも、兄は本を手に取ってしまう。


 弟が持ってきた本は何度も読んでいるからか、よれよれで表紙が少し剝がれていた。


 兄は本を読みやすくするために、寝台の灯りを点け、本を開いた。


 兄は眠そうな目を擦り、ゆっくりと本を音読する。



『奴隷物語』(子ども用)

 むかしむかし、この世界はいじわるな王様に支配されていました。貴族もいっしょになって支配をしていました。その下では、たくさんのどれいが苦しんでいました。どれいは自分で生きていくのも許されないのです。もうどれいたちの顔にはくもりしかなく、みんな下を向いていました。


 しかし、あるどれいの少年だけは諦めていなかった。その少年はこのどれい生活から抜け出して、もっと広い世界を見るんだと夢見ていました。


 そんな少年にキセキが訪れた。この国で農民の反乱が起きたのです。その反乱に乗じて、少年含めたどれいも反乱を起こし、多くのどれいがくさりを切り、逃げ出していった。少年は今まで閉じられていた建物から抜け出し、大きな空を見上げると、まぶしい、まぶしい太陽の光が広い大地を見せてくれていたのです。

 少年はもっと自分の知らない世界を見てみたいと思い、世界を旅することを決意した。


 ここから少年の各地を旅する冒険が始ま…


 兄がふと隣を見ると、読んでとせがんでいた肝心の弟は、すっかり目を閉じ、ぐっすりと眠っている。いつの間にか弟は眠りについていた。兄はそれを見て、穏やかな笑みを浮かべる。冷えないよう毛布を弟に深く被せ、頭を撫でる。

 そして、兄も手に持っていた本を開いたまま机に置き、眠りについた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  ここ、南西にあるアトマン帝国のハットゥシャという街の無数の穴を潜る... ↑ どこから南西なのかって起点書いた方がイメージしやすいんじゃないですかね [一言] 続き読みます
2023/05/06 15:39 退会済み
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