008 営業成績とは、転移者を殺したポイントの累計
営業成績というものがある。
これは日勤組と夜勤組で、別々に表示される。
そして、この場合の営業成績とは、『転移者を殺したポイントの累計』のことだ。
ただし、単純に転移者を抹殺した人数ではない。
転移者にはランクによって、得られるポイントも変わってくるのだ。
【兵士】ランクだと、1ポイント。
【武将】ランクだと、5ポイント。
【天災】ランクだと、10ポイント。
【勇者】ランクだと、30ポイント。
ちなみに、ベルリアさんの【神】ランクなら、付与ポイントは∞だろうな。
ようは殺すことは不可能。
たとえ、この世界が滅びても、新たな世界を一から作り直してしまえるのが、ベルリアさん。
さて今月に入ってからだと、日勤組が仕留めたのは、合田五郎のみ。サキュバスであるアンジェリカさんによって、腹上死した幸せな奴だな。
ランクは【武将】だったので、5ポイントだ。
一方、夜勤組はゴブリン殲滅パーティを仕留めている。
【天災】が2人と、【武将】と【兵士】が1人ずつ。
天音だけは生き残ったが、【兵士】ランクだから、どうせ1ポイントだったしな。
よって夜勤組の営業成績は、トータル26ポイント。
我ら日勤組よりも、21ポイントも上だ。
ほかに今月は、ベルリアさんが仕留めた佐藤智輝もいる。
佐藤のチート能力 《ロード》は、【勇者】ランク。
さらに佐藤は、珍しいチート能力2つ持ちだった。
2つ目の《爆炎噴射》は【兵士】だが、それでも1ポイントに変わりはない。
よってベルリアさんの営業成績は31ポイントとなる。
まぁ、ベルリアさんは支配人兼オーナーなので、営業成績は参考程度だが。
重要なのは、日勤組と夜勤組だ。
営業成績が出される以上、そこには競争の原理が生まれる。
そして──屈辱なことに、日勤組は今年に入ってから、6連敗中。
現在は7月16日。
残り日数のうちに夜勤組の営業成績を上回らないと、7連敗となってしまう。
それだけは避けねばならない。
なぜか?
屈辱的なだけではないのだ。
〔エンディミオン〕の規約にこうある。
7ヵ月連続で営業成績の敗北を喫した場合、その組は25%の減俸と処す、と。
ただでさえ高給取りではないというのに、そこから25%も引かれるだと。
おまんまの食い上げじゃ!
というわけで、昼休憩のとき、おれ、アンジェリカさん、ミールで集まった。
日勤組の戦闘要員は、おれ達3人だけだからな。
よくよく考えると、給料は同じなのに、なぜおれ達だけが命がけで戦わねばならないのか。不公平だろ。
ただ日勤組の他の者たちから、憧れの眼差しを向けられるので、そう悪くもないのだがね。
やはり転移者を殺せるというのは、それだけで英雄的なのだ。
話を戻そう。
残り15日のうちに、21ポイントの差をひっくり返さないとならない。
否、21ポイントでは足りない。
夜勤組は、あと10ポイントは伸ばしてくるだろう。
となると、7月終了の時点で夜勤組の営業成績は36ポイント(仮定)。
おれたちは最低でも、あと31ポイントは必要となってくる。
ちなみに営業成績が同点でも、減俸は免れる。
「31ポイントということは、【天災】を3人殺しても、まだ【兵士】1人分が足りない」
おれがそう嘆くと、ミールがほざいた。
「【兵士】1人分ならば、いつでも調達できる」
「まて、それは天音のことか? うちの奴隷は殺させんぞ。すっかり、おれに懐いているんだからな」
アンジェリカさんが仲裁に入った。
「はい、はい。2人とも喧嘩はダメよ。このさい【兵士】ランクのことは考えなくていいと思うの。ここから夜勤組に勝つためには、一発逆転しか手はないと思うわ。つまり、『佐藤智輝』しかないわ」
「『佐藤智輝』は、ベルリアさんが殺しちゃっているよ」
アンジェリカさんが、ジト目で見てくる。
「知っているわよ」
「……あ、なるほど。つまり、【勇者】ランクを殺そうと──しかし、それって現実的かね? 《時間跳躍》とか《現実改変》とか、とんでもない化け物ばかりだよ、【勇者】は」
「もちろん、楽勝とは言ってないわよ。けど考えてみて。《時間停止》や《空間操作》の【天災】を3人仕留めるよりも、まだ可能性はあると思うの。チート能力がいくら強力でも、相手は人間よ。実際、夜勤組は【天災】2名を、『寝込みを襲う』というシンプルな方法で、殺してしまっているのだし」
アンジェリカさんの指摘も尤もだ。
人間が最も無防備になるのは就寝中だし。
そういえば、おれも佐藤智輝の寝込みを襲おうとしたんだった。
日勤組の勤務時間は、11:30~0:00。
勤務時間の終わり頃なら、早寝の転移者なら就寝している場合もある。
といっても、佐藤智輝のときは、大失敗。
ベルリアさんが来てくれなかったら、おれは死んでいた。
逆にいえば、おれがあのとき佐藤智輝を仕留めていたなら、いまごろ楽勝ムードだったんだなぁ。
「アンジェリカさん。殺せるか否かの前に【勇者】ランクは、そうそう宿泊しないよ。今月はもう佐藤智輝が宿泊したわけだし、2人目の【勇者】は絶望的じゃないか」
それから2時間後。
1人の転移者が、〔エンディミオン〕に投宿した。
その名は、田島太一。
フロント・デスクで検知器を確認したところ、おれは驚愕したね。
まさかの【勇者】ランクだ。