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005 奴隷を飼うなら、最期まで責任を持ちましょう




〈奴隷化シール〉の説明をしよう。


 これは特殊アイテムの一つだ。

 特殊アイテムとは、オーダーメイドの魔道具とは違い、主にダンジョンなどで入手できる。


〈奴隷化シール〉の効果は、『貼り付けた相手から攻撃を受けない』というもの。

 

 無条件で服従させられるわけではないので、貼り付けた後も調教は必須だ。


「奴隷は所有者の許可なくしては、処分される恐れはない。が、それは建前で、ルールを守らない奴らもいる。夜勤組とか、そうだろうな。というわけで、宮森天音。ひとまず、おれの自宅に避難していろ。これが住所」


 住所を記した紙を、天音に握らす。

 しかし、天音は動かない。悲痛な面持ちで、座り込んでいるままだ。どうやら状況が呑み込めていないらしい。


 おれは厳しい口調で言った。


「よく聞け、日本から転移してきた者よ。お前が取るべき道は、2つに1つだ。おれに従うか、夜勤組に殺されるか。おれに従うというのなら、夜勤組どもから守ることを約束しよう」


 天音が、おれに縋りつく。


「わたしの友達たちの仇を、取っていただけますか?」

「……」


 夜勤組に復讐してくれ、ということらしい。


「あのな。おれも夜勤組は嫌いだが、同じ世界の者を殺したりはしないぞ──基本的には」

「わたしも、そこまでは求めていません。ですが、わたしがご主人さまに隷属し、お力になることができましたら、ご褒美を頂きたいのです。夜勤組に何かしらの罰を」


 おれは一考した。


 この奴隷、なかなか図々しい。奴隷のくせに褒美を求めているのだから。

 厳しい主だったら、さっそくお仕置きをしているところだ。


 おれの署名入りの〈奴隷化シール〉を貼られた以上、天音がおれに危害を加えることはできない。

 よって、天音に寝首をかかられる心配もないわけだし。


 とはいえ──

 ふーむ。天音の言い分にも一理ある。手柄を立てたら、報酬は受け取るべきだ。

 おれもブラック体質の職場にいるからか、さっそく奴隷の天音に共感しているようだぞ。


 それに、夜勤組が腹立たしいのも、事実か。


「分かった、約束しよう。方法はまだ分からないが、夜勤組に痛い目をみせてやる。いまは、それだけで満足しろ」


 天音は潤んだ瞳で言った。


「ありがとうございます、ご主人さま!」


 奴隷っていいかも。



   ※※※



 天音をおれの自宅に向かわせたのち、おれ自身は〔エンディミオン〕に戻った。


 タイミング悪く、従業員用入口で、出て来た夜勤組と遭遇した。

 ボルディ、ジョアンナ、カルパトの3人に。


 ボルディは、おれと同年代の男。

 嫌な奴だ。


 ジョアンナは、アンジェリカさんと同年代の女。

 性格はボルディと同じく最悪だが、艶めかしくはある。アンジェリカさんには負けるが。


 カルパトは、ミールと同年代の少女。

 カルパトに比べれば、ミールが素直ないい子に思えてくる。


 にしても夜勤組の勤務時間は、とっくに過ぎているはずだが。


 ボルディが、見下す口調で言ってきた。


「これは、これは、日勤組のアレクじゃねぇか。そこを退きやがれよ」


 おれは脇に退いた。悔しいところだが、こっちは一人だからな。多勢に無勢だ。

 それより、気になることがある。


「ボルディ。ゴブリン殲滅パーティを仕留めたそうだな」


 ボルディは勝ち誇った笑みを浮かべる。


「まあな。オレたちにかかれば楽勝だ。な、カルパト?」


 カルパトがうなずく。

 

 なるほど。

 カルパトの魔道具〈眠れ良い子よ〉を使ったか。


〈眠れ良い子よ〉の能力は、『強制睡魔』。

 起きている者さえも、強制的に眠くさせる力だ。


 就寝したゴブリン殲滅パーティどもを、さらに深い眠りに落とすことなど、造作もなかっただろう。

 あとは煮るなり焼くなり、やりたい放題だったな。


「で、こんな時間まで、何をやっていたんだ? 祝賀会か?」

「途中までは、な。しかし──いや、てめぇには関係のねぇことだ」


 ボルディは苦い顔をしてから、ジョアンナとカルパトを連れて、歩いて行った。


 おれは怪訝に思いながらも、〔エンディミオン〕内に入る。

 まっすぐ、フロント・デスクへ行こう。ロリータに見つかって、小言を言われるのは御免だ。


 するとアンジェリカさんが、小走りでやって来た。


「ボルディ君たちと会った?」

「ああ。そこで、バッタリと。ボルディの奴、大手柄を自慢しまくるかと思ったが、そこまででもなかった。苦い顔をしていたし」

「ボルディ君たちにも、手落ちがあったからよ」

「手落ち?」


 アンジェリカさんは説明した。


「ゴブリン殲滅パーティを皆殺しにしたはずが、宿泊客名簿と死体の数があわなかったの。一人、仕留め損ねていたのよ。さっきまでホテル内を捜索して、発見できなかった。〔エンディミオン〕の外に逃げ出したようね。これって由々しき事態よね。情報漏洩の危機だわ」


〔エンディミオン〕は、転移者たちを標的とした狩場である。

 この事実は、当然ながら、転移者たちに知られては困る。


 エルトア世界に散らばる転移者たちだが、情報ネットワークもあるだろう。

 そこに、〔エンディミオン〕が狩場という情報が漏れると、何かと面倒なわけだ。


 ただ絶望するほどもない。 

〔エンディミオン〕の主要な標的は、転移したての者たち。

 つまり、情報ネットワークに組み込まれる前の、転移者たちなので。

 

 アンジェリカさんは続けた。


「もちろん、責任は夜勤組にあるわ。だからボルディ君たちは、慌てて追跡に出たのよ。殲滅パーティの生き残り──宮森天音のね」

「……なるほど。あの、アンジェリカさん」

「なに?」

「体調が優れないんで早退したと、ロリータに伝えておいてくれ」

「え、アレク君? ちょっと!」


 驚くアンジェリカさんを置いて、おれは駆け出していた。


 せっかく得た奴隷を、夜勤組なんぞに狩らせてたまるか。





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