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002 来るぞ、ゴブリン殲滅パーティ




 出張から帰って来たベルリアさんが、珍しく朝礼に出た。


 ちなみにベルリアさんは寝室を使わず、いつも外で眠っている。

 ホテル〔エンディミオン〕の周辺は荒れ地であり、危険なモンスターも多いのだがなぁ。

 まぁ、全長5メートルの肉食モンスターを、寝ぼけながら生で食らった人だし。


 さて、そんなベルリアさんは、朝からハイテンションだった。


「やぁやぁ諸君! 出張から帰ったところ、監視院から連絡があったのだけどねぇ」


〔エンディミオン〕に狩られず、エルトア世界に蔓延る転移者はごまんといる。

 監視院とは、そんな転移者たちを追跡している機関だ。

 当然ながら、有給休暇のある職場だ。

 おれも、そっちで働きたかったなぁ。


 ベルリアさんは続ける。


「ゴブリン殲滅パーティが、すぐ近くを通るとかいうのだねぇ」


 ゴブリン殲滅パーティだと! 


 おれの眠気も吹っ飛んだ。

 

 ゴブリン殲滅パーティとは、その名の通り、ゴブリンという種の殲滅を目的とする転移者たちのことだ。

 パーティの構成メンバーは、5人。

 もちろん、全員がチート能力の持ち主だ。


 ちなみにゴブリンとは、温厚な種族である。

 唯一の罪は、姿が醜いことくらいか。


 とにかく、人の町村の近くに生息していても、実害はない。

 それどころか低賃金で働いてくれるので、戦争で男手が足りなくなった村なんかでは、重宝されたりもする。


 ここで疑問が出てくることだろう。

 なぜ転移者たちは、そんな温厚なゴブリンを皆殺しにしようとするのか、と。


 どうやら転移者たちのゴブリン観は、おれ達とは違うらしい。

 転移者たちの故郷である日本という『世界』では、ゴブリンは悪辣な種族として語られているようなのだ。

 あとややこしいのは、日本ではゴブリンは架空の種族ということ。


 とにかく転移者たちの偏見では、ゴブリンは略奪したり、人間の女を凌辱したりと、ロクでもない。

 その誤解が解ければ良いのだが、連中、おれ達エルトア人の言葉に耳を貸さない。

 これは転移者たちに共通して言えることで、おれ達は『モブ認識症候群』と呼んでいる。


『モブ認識症候群』とは、どういうことか? 

 なんと転移者たちにとって、エルトア人は、ただのモブキャラにしか見えていないのだ! しかも、『現地人』という蔑称まで使っている始末。 


 これは、もうブッ殺すしかねぇよな! 


 ゴブリン殲滅パーティに話を戻そう。

 このパーティは数ある転移者たちの中でも、ゴブリンを殺しすぎの連中。

 

 このままではゴブリンという種族が絶滅しかねない。

 そんな中、〔エンディミオン〕の近くを、当のゴブリン殲滅パーティが通るという。


 おれは愕然とした。


「〔エンディミオン〕に宿泊するかもしれないと?」


 同じく朝礼に出ていた、アンジェリカさんとミールも反応した。

 ベルリアさんは、にんまりと笑う。


「そうだよねぇ。〈転移者誘因剤〉もあるし、彼らが泊まってくれる可能性は高いよねぇぇ。この、わたくし達の狩場に。アレク坊や、楽しみ?」


 いや、いや。ゴブリン殲滅パーティといったら、厄介なチート能力を持った奴らの集まりという話。

 さすがに、ヤバいんじゃないか、これ。

 有休でも取ろうかな。あ、ここ有休ないんだったね。


 さて、その日の午後。


 5人の転移者がやって来た。


 おれは戦慄したものだ。

 その5人こそが、ゴブリン殲滅パーティの面々なのだから。


 これまで殺戮を重ねてきた転移者どもが、5人も同時宿泊とは。

 おれがフロントを担当してから、初めてのことだ。


 そういえば、おれの前任者は転移者に殺されたのだったな。

〔エンディミオン〕従業員の死亡率は、戦地の歩兵レベルと言われている。


 とにかく、今のおれはフロント係だ。

 宿泊手続きに徹しつつ、検知器で、殲滅パーティ・メンバーのチート能力を確認。


 チート能力といっても、厳密に『チート』といえるのは、【天災】ランク以上だが。

 ゴブリン殲滅パーティは、どうか?


 宮森天音(女、地味だが可愛らしい)、チート能力は《土壌操作》、【兵士】ランク。


 小濃準(男)、チート能力は《斬撃発射》、【兵士】ランク。

 田中隆(男)、チート能力は《透明化》、【武将】ランク。


 難敵ではあるが、【武将】ランクまでなら、おれでも対処できる。一対一ならね。


 ここからが、かなりヤバい2名だ。


 西堀沙也(女、けっこうな美人)、チート能力は《空間操作》、【天災】ランク。

 小石猛(男)、チート能力は《時間停止》、【天災】ランク。


 とくにパーティ・リーダーでもある小石猛は、厄介すぎる。時間を停止するとか、【勇者】ランクでもいいくらいだ。


 5人はそれぞれ個室を希望した。ただし隣り合った5部屋だ。

 宿泊階を変えて、戦力を分散する作戦は、さっそく失敗だな。


 おれは8階の部屋を用意した。


 殲滅パーティ・メンバーをベルパーソンに預けてから、溜息をつく。

 これは日勤組だけで片付けられるのか、微妙なところだな。


 ベルリアさんが仕事してくれれば、楽なのだが。

 あの人は、気が向かないと働かないからなぁ。

 仕事が趣味という輩は、気分屋だから困ったものだ。支配人兼オーナーだから許されるわけだが。


 休憩時間になったので、おれは昼飯を食べに行った。

 途中で、40歳くらいのオッサンが、親しげに声をかけてくる。


「おい、アレク。殲滅パーティが宿泊したって、本当かよ?」

「ああ、マキャンさん。巻き添えが嫌なら、しばらくは部屋に籠っていたほうがいいな」


 マキャンは、〔エンディミオン〕のエキストラ宿泊客の一人だ。


〔エンディミオン〕に宿泊する転移者は、そう多くない。

 一方、ここは部屋数250の大型ホテルだ。

 宿泊客が転移者だけだと、実に怪しい。


 そこで、エルトア人のエキストラを雇い、宿泊客をやらせている。

 常時、200人くらいか。


 エキストラ宿泊客たちは、従業員とは違って、転移者の抹殺には参加しない。

 とはいえ、ホテル内で激しい戦闘ともなれば、巻き込まれる危険はある。


 マキャンと別れて歩いていると、今度は我らがボス、ベルリアさんがやって来た。

 おれに気づくと、ニターと笑った。


 ベルリアさんは絶世の美女だが、それを台無しにしかねない笑い方である。


「ゴブリン殲滅パーティ、宿泊してくれたねぇ。嬉しい、アレク坊や?」


「……」





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