~ハクスラって素晴らしいよね~
昔何個かのMMO中毒だった作者が行き当たりばったりに話を展開していきます。
「いや……可愛いけど、オレ?いやもうワタシ……?」
湖面に美少女が映っている。銀色の長い髪に赤い眼、澄んだ高めの声、ギャルゲの改造制服のようなものを着た美少女顔がそうボヤく。本来の姿は、ザ・日本男子高校生って感じなのだが・・・徹夜通しのハイテンションな脳味噌のせいで、本当なら少しかっこいいくらいの自分の姿を作るべきだったのだがゲームでアバターを作る時のノリで美少女かつ中2病全開の見た目で転生してしまったのである。幸いにも、地味だが最大のチート恩恵として<鑑定>スキルを神様から授かった。自分や相手のステータスを確認できたり、スキルをシステム的に振り分ける事が出来る、つまり今となってはこの現実、異世界においてゲームのように……
「そう!リアルでハクスラできちゃう!」
1人にも関わらず思わず声に出てしまった。ハクスラできるって……と思うかもしれないが、無駄な成長や努力を省いて自身の才能や努力を現実でシステム的に振る事が出来るようになったらどうだろう?絵が上手くなりたいなら絵が上手くなるスキル・ステータスへ、運動が得意になりたいなら運動が得意になるステータスへ、恐ろしく合理的かつ効率的な人生だ。また、この<鑑定>スキルは持ち得ているポイント内であれば自由に再振りが可能だ。現実だと課金してビルドを幾重にも試したもんだな……と思い出す。
さて、最初は慣れない異世界で苦労するであろうとスキルポイントだけ少し多めに神様が工面してくれたようで、これからの序盤の生活を楽にするスキルを振っていこうと思う。
「えーと……お、あったあった!やっぱ最初はこれだよね~」
中空に浮いている自分しか見えないであろう画面を指で押してスキルを振っていく(いや、見て念じるだけで振れるのだけど感覚的に押すほうがしっくりくるので……)
何はともあれ、まずはお金!ということで、
・ピッキング(鍵開け)
・ディテクション(探知)
この2つのスキルに全振り!攻撃スキルを取る余裕は……無い!残念!まぁお金を稼いで装備でカバーするってのも醍醐味ということでね。ステータスは……と、まだレベル上がってないから振れないみたい。けど序盤はこの2つのスキルでゴキブリの様にダンジョンの宝箱漁りで暫く過ごすから問題ないかな?あーけどステータスを見るとアイコンが……♀!改めてうっかりでまさかの自分の姿になる性別を振り間違えたことを実感する。胸はそんなに、いや、ほぼ無いけど結構美少女じゃないか?と改めて湖面で姿を確認する。
「けど……この見た目は目立つよなぁ。好きだけど!」
と、ひとしきり自分の新しい姿を堪能した。いやー、これ誰か貢いでくれる形でお金稼げるんじゃ……と考えたが沢山の男に言い寄られる未来を想像して思考がフリーズした。
少し遠くに王都が見える。王都はゲームでも初心者から上級者の多くが活動する拠点だったので一先ずは王都に向かおう。歩きながら、それにしても転生先の場所が高レベルモンスターの活動帯とかだったら、と少しゾッとする……と思うと同時に気を利かせた場所に転生させてくれた神様に感謝である。ゲーム内では死んだところで直近に在留していた街に自動で蘇生・もしくはパーティーの聖職者の特別な呪文で蘇生することが出来たがこの世界ではどうだろう?試しに死んでみる……なんて選択肢は流石に無い。一度死んだ身ではあるが、気付かない内に死んでいたので意識が消えてく感覚だけで痛みは無かった。刺されたり、殴られたりして死ぬのは現実になった今ではキツい、というか無理だ。なんて、そんな少しネガティブな事を考えている内に王都に着いた。ゲームでは存在しなかった門番が居たが、ゲームのノリでそのまま通ろうとしたら当然の如く門番のおっちゃんに腕を掴まれ引き止められた。
「おいおいおい、何を素通りしている。通行証か、通行料金を払え」
あ、駄目だった。NPCじゃない人間だ。そしてそんなモノは持っていない。
「わ、わたしぃ~……田舎から来てそういうの分らないんですぅ」
自分でやってて少し引く仕草だが、場合によっては見た目を最大限活用してみる作戦だ。
「そ、そうは言ってもだな……田舎から来たにしては妙な服を着ているし怪しいやつだな。それに金は払えるだろ?」
少し効いてる!?と思ったが服の事を忘れていた。
「いえ、お金は無いです。これから稼ぐんです」
「マイペースなやつだな!?さっきまでと雰囲気も違うし……金まで無いとなるとなぁ。だからといって女1人を街の外に放り出すわけにも……少しここで待っていろ。絶対に動くなよ!いいな!」
「あ、はい。ちょっと待ちます」
「いや、ちょっとじゃなくて動くなって!?いいか、少し待ってろ」
と、門番のおっちゃんが良い人そうなので取り敢えず暫く待っているとエプロンをつけた温和そうな美人さんを連れて戻って来た。
「ほっ、ちゃんと待っていたようだな。うちの家内だ。酒場を兼ねた民宿を切り盛りしている。お前、ここは建て替えてやるからその分稼いでこい。特別措置だ」
あ、やっぱり良い人だ。
「あらあら、まぁまぁ。可愛らしい子ね。お人形さんみたい……これからよろしくね」
シナリオイベントフラグを踏んだような……なんて都合の良い展開!寝床ゲット!就職先ゲット!
「よろしくお願いしますっ!」
オレ……いや、これからはワタシ、は笑顔でそう答えた。
どうしたもんかな?と主人公同様、考えて進んでます……