episode 54 海の義賊
港町グラードに着き一日の休養を経たおかげで船の揺らつきも体から取れ、海賊の隠れ家にも容易に向かうことが出来た。
「アテナ、来てくれたね。
これで皆揃ったわけだ」
会議に使う大部屋には海賊達の主要人物が集まっている。
ただ、船乗りを主としていた主要人物達はカルディアと共に魔人王の部屋に立っていたので、ここにいるのは偽装領主の側近達だった。
「よし、お嬢ちゃんも来たことで始めようとするかい?
レディ、探し物はどこにあるんだ?」
優男のクリスティアンはこれまた笑顔を崩さずあたしと反対側に座るレディを見比べた。
「そいつならアテナが持ってるよ。
とは言っても、どこにあるかは教えられないがね」
「そうだろうなぁ。
簡単には信用されないのは分かっていたさ。
だから、特に人質を取ろうなんてこともしないし、探しさえもしないさ」
「良いのかよ、クリスティアン。
本当に持って来たなんて疑わしいぜ?」
長身で頭に布を巻いた如何にもな男が大声で話しかける。
「ああ、構わないさ。
持って来なければ全員死ぬだけ。
持って来たなら一矢報いる可能性があるだけだからな。
どのみち魔人を放っておいたら全世界が危ういんだ、ここで嘘を言っても解決にはならないさ」
「流石だね。
あたいも同じことを考えてたから、手ぶらでは帰ってくるつもりはなかったよ。
それで、どうするんだい?」
「もちろん、カルディアの敵討ちに行くさ。
今度ばかりは町を棄てることになるかも知れないが、総出で行くつもりさ」
「総出ね。
それならあたいらも辿り着けそうさね」
「ねぇ?
総出って、町の海賊達もってことなの?」
ふとした疑問にあたしが割って入った。
「町の半分くらいだな。
普通に旅人の相手をしてる連中もいるからな、そいつらまでは連れてはいけないさ。
オレ達にもしもがあっても商人としてやって行けるだろうからな」
「なるほどね。
ただのお飾りじゃないのね、あなたも」
「領主気取りだからな、色々考えもするさ。
船は三隻出す。
その内の二隻に上陸組を乗せるつもりだがいいかな?」
「上等。
上陸後はあたいが指揮を取る。
船はあんたに任せるよ」
「結構。
魔者の繁殖力は侮れないらしいからな、あんたらの帰る場所は守っておくさ。
それと同時に同胞の命を預けているのも忘れないで欲しいね」
「一人たりとも無駄死にをさせるつもりはないさ。
この中で手練れの者はいるかい?」
レディが数十人を見回すと約半数が手を挙げた。
「他にも剣技に長けている者がいたら教えてくれ。
城内が今も変わらずとは限らないからね、ある程度の人数が必要なのさ」
「それはこちらで確認しておこうか。
レディと共に向かう上陸組と船を守る上陸組、そして船に残る者に大きく別けておくさ。
上陸後はレディに従い、お嬢ちゃんを守りつつってことで纏まったかい?」
「それで行こうか」
クリスティアンの案にレディが同調すると、一人の女性が手を挙げ、不服そうな表情で口を開いた。
「カルディアが居ない今、一番武器の扱いに長けてるのは私だと思うが、その剣とやらを私が使うってのはどうなんだい?」
こんな話が出るとは思っていたが、レディは一体どうするつもりなのか何も聞いていなかったので、口を挟むことなく黙ってみる。
「テティーアン、それは分かっているさ。
ただな、元からお嬢ちゃんの武器だったものらしいのさ」
「だからと言って、使えないのなら持っていたところでカルディアの敵討ちなんて出来ないだろうさ」
「そいつは心配要らないよ。
アテナが持つから意味があるのさ。
そいつが分からないんじゃまだまだってもんだよ」
「なんだと!?」
派手な髪飾りを付け長髪を麗しく纏めたテティ-アンは両手をテーブルに激しく打ち付け、立ち上がりレディに睨みを利かせた。
「落ち着きな。
オレにも真意は分からないが、所有者から奪うことも出来ないだろう。
そんなことしたらカルディアの教えを破っちまうことになる」
「……ちっ!
分かったよ」
憮然として座り直すテティ-アンを横目に、隣に座る海賊にカルディアの教えが何かを小さな声で尋ねた。
「んああ、悪からは根こそぎ頂き善良者には慈悲をってな。
海賊って名乗ってはいるが、義賊みたいなもんなのよ、オレらは。
欲しいものを奪い自由にやる連中とは違い、ここに居る連中は居場所がないだけで普通に暮らしたいのさ、本当はな。
海賊から金品を奪う海賊って感じなのさ」
「カルディアが慕われるわけね。
ただの荒くれ者と思っていたけど、そのことを知れて良かったわ」
本当は寂しい人達なのかも知れない。
身なりや生き方はそれぞれ理由があるからなのかと、少しこの場所の見方が変わったきがした。
「よし、あとは異論がないようなら三日後に船を出す。
町への通達と準備を怠るなよ」
クリスティアンの号令で一同席を立ち、それぞれに部屋を後にする。
あたしはレディの動向が気になったのでその場に佇んでいると、テティ-アンがあたしの肩に手を置いた。
「あんたの腕前、見せてもらうよ」
「あんたじゃなくて『アテナ』ね」
「ふふっ」
少し笑みを浮かべるとテティ-アンは部屋を出て行き、あたしはレディにこのあとどうするのか聞いてみた。
「あたいは今日はここにいるよ。
クリスティアンと色々と話すことがあるからね。
明日はアテナのとこに行くが、話次第ではその後もここに入り浸ることになるかもだね」
「そう、分かったわ。
それなら明日は泊まってる部屋にね。
あたし達も準備しとくから――と言っても大部分はミーニャがしてると思うけど」
「あっはっはっ!
そうだろうね。
本当に気が利く子だからね、ミーニャは。
それじゃあ明日行くから待っててくれ」
レディに頷き部屋を出る。
あと三日。
その間に出来ることをしなければならないと心に誓い、ミーニャの待つ宿へと足を向けた。




