プロローグ 8 不老者
ルキの失礼な発言によってあたしとアスナの口論は別の方向へと歩み出した。
「で?
何であんたの若さには魔力が必要なのよ」
「知らないわよ、体質よ体質。
ルキのお姉さんに会うまではこんなこと知らなかったのよ」
「ルキのお姉さんが不老にしたっての?」
「それは間違いだな。
アスナが出会った頃は既に魔力結晶体の中だったからな」
「魔力結晶体?」
初めて聞くルキの言葉に全く想像出来ていなかった。
「強い魔力で創られた結晶体、半透明な石を思い浮かべてくれたら伝わると思うが。
姉さんは魔術を使えた訳ではないが魔力の容量が人間では有り得ないほどだった。
その魔力を使い魔力結晶体は構築され、姉さんはその中で眠りについている」
「すると、お姉さんの魔力が尽きるか死ぬかしないとダメってこと?
それとルキとアスナの不老がどう関係するのさ」
「さあな。
体質なのか魔力結晶体のせいなのか、いつの頃からかあの場にいた分だけ老化が抑えられていたんだ、オレはな」
「私は元から魔力を吸収する体質だったみたいなのよね。
気づいたのは結晶体に触れてから」
「だったらあんたが結晶体の魔力を吸収しちゃえば早いじゃない」
この話を聞いた者全員が思うだろう。
だが、未だ眠りについているならば、それが出来なかったのだとは薄々感ずいてはいる。
「やったわよ!
そのおかげで何度死にかけたと思ってるのよ」
「だろうね、そんな事だと思ったわ。
それで結晶体を壊せそうな物を求めて世界に出た、と」
「そういうことだ。
とある猫耳娘から聞いたんだがな、魔術解除をするか魔力を断ち切る物が必要だと。
解除となると金髪の女を探す必要があるのだが、生きているかも分からないからな。
だからここに来たという訳だ」
「巨大な魔力を持つ金髪の魔女……ね」
「何か知っていそうだな」
「金髪の魔女ってだけじゃ確かなことは言えないけど、さっき言った不老者の一人も金髪の魔女よ」
「なっ!?」
「ただ、魔術を使う者が少なくなったとはいえ、世界には金髪の魔女なんて何人いてもおかしくないから」
あたしが出会った不老の魔女は未だ生きているとアリシアから聞いた。
そして、その魔女はアリシアと共に行動していた。
「そうだな。
もしその人物ならば今も生きているし、違うのならばこの世にはいないかも知れない。
生存不確定の人物捜す方が手間ということか」
「それに捜しても簡単には見つからないから。
彼女は一定の場所にいるような人じゃないからね」
彼女の野望を阻止すべくアリシアは今も追っているのだろう、未だ決着がついたとの話が聞こえてこない以上。
あたしが両手を広げて見せるとアスナが前のめりで口を開いた。
「だったら、なおのこと武具の在処を探した方が早いわね。
どこにあるのよ、他には」
「あんた、あたしの話を聞いてなかったの?
折れたと言ってもまだ続きがあるんだって」
「折れて使えなくなった剣には興味ないわけ!
続きを話されても意味ないじゃない」
「待て、アスナ。
そういえば、折れるべくして折れたと言ったな?
それはまだ魔力を断ち切る物として使い道があるということか?」
察しのいいルキでも正解には至らないものかと、あの剣の構造には恐れいった。
あたしはにんまりとしながらそこで一つ提案を出す。
「そうじゃないのよね。
使い道じゃなく、魔力を断ち切る剣なのよね。
意味が分からないでしょ?
最後、どこに有るかまで話すけど、どう?
聞く気になったかしら?」
「どうやら聞く意外になさそうだからな。
アスナもいいだろ?」
「無駄話じゃないってんなら仕方ないわね」
あたしは片目を瞑り笑顔で応えた。
「なら話すわね。
突き刺さったままの剣身と転がった柄を見比べ、仕方無しに柄を拾いあげたの……」
そう、これがファルの謎かけの最後の一欠片の始まりだった。




