episode 46 王家の紋章
これが呪いだと言われてもあたしにはさっぱりだった。
「この模様がそうなの?」
あたしが口にすると岩影から黒装束を纏い背筋の曲がった老人が姿を見せた。
「わしも斬るかね?
斬るならばそれでも構わないがね」
「武器も戦意も持たず者を相手にしたところでだ」
「だったらば、その呪いの意味を見てやろうかえ?」
「お爺さん、あなたも末裔の一人で?」
「そうじゃそうじゃ。
だが、我ら信者は最早滅びの道を探っておった。
だから、あんたらは救世主といっても過言ではないかな。
ふぉっふぉっふぉっ。
どれどれ見せてみなされ」
カマルの左半身をなぞるように見ると、カマルの顔を見上げた。
「我が同胞たる者の命奪いし邪なる存在に同等なる呪いを授ける。
意味が分かるかえ?」
「言われずともな」
「どういうことなの?」
カマルは初めから知っていたかのような素振りだった。
それは死と直結しているのだと。
「己の命と引き換えにこの男にも無慈悲な死を迎えることを願ったものじゃな。
こんなことをしても無駄じゃろうて」
「でもそれって、カマルはいつ死んでもおかしくないってことじゃないの?」
「そうじゃ。
この男は近い内に死ぬ。
それは避けられぬな。
無駄と言ったのは生き残りはわし一人になったことじゃて。
これで血縁は途絶える、呪われた我が一族の血も絶えるというもの」
「カマル……」
あたしは死を宣告された仲間にかける言葉を持っていなかった。
「ならばこの旅が最後かも知れないんだな?」
「そうかも知れないが、そうでないかも知れない。
それは我が神のみ知ることぞ」
「ねぇお爺さん。
この先には聖なる王の墓があるんでしょ?
何故その血縁が邪教徒になるわけ?
それに呪われた一族って?」
「質問が多いの、娘よ。
確かに我が先祖たる聖王ジェセルの墓はこの先じゃ。
ジェセルは民を想い、この大地に水の恵みを求め魔の者を一掃し、聖なる王として崇められていた。
しかし、この地に巣食う魔の者がジェセルに呪いをかけたのじゃ。
『末代まで我が信者となり神に仕えよ』とな」
「ジェセル王の子達がその呪いを受け継ぐことになったと言うわけか」
「レディ!
それにミーニャも無事で」
振り返るとレディが手綱を持ちミーニャを連れて来てくれていた。
「そうじゃて。
王の墓の護り手としてな。
ある夜に王が邪神の名を口にし、民を酷使するようになり墓を建てたのじゃ。
いずれ復活を遂げるようにと。
じゃがな、王の死後しばらくすると、仕えていた騎士達によりひっそりと神秘術を施され頂上に聖王の剣で金字塔は封じられていたのじゃ」
「え?
それってまさか、砂漠の地に聖なる王と墓……天に還る場所、それは墓……。
ここに魔力を断ち切る剣がある!?」
「ほうほう、聖王の剣である煌神刃を知っておるのか。
神秘術を施し邪神すら斬り裂くと言われた剣よ。
しかしな、後に何者かに奪われてしまったのじゃ」
「ええ!?
今は無いの!?」
「今だにな。
故に神秘術の効力も弱まりつつあるのじゃ」
ここにあった。
しかし、今はどこにあるのかも分からないのではファルの助言とは異なってしまう。
「どうするの?
レディ」
「今は無いと言ってもな。
ファルの言葉は別のことを指しているのか?」
「お主らは剣を求めて来たのか?
ならば良い物を見せようかね。
救世主たるお主らならばその剣を託しても問題あるまいて。
着いてきなされ」
老人が谷の合間をゆっくりと歩き出す。
剣が無い以上あたし達は老人に従い、少しでも在りかを探る必要があった。
「ここじゃここじゃ。
さ、入っておくれ」
岩場に掘られた穴が老人達が住まう場所だったらしく、階段を降りどんどんと奥へと向かうと大きな祭壇のある場所へと案内された。
「あの壁に描かれた紋章こそが我が一族の証。
聖王ジェセルの剣にも描かれていたとされるものじゃ」
「あれが剣に……ね。
それ以上に何かないの?
誰がどこに持ち去ったとかさ」
「さあな、大分昔の話じゃて。
そういったことは伝えられておらんな」
手詰まりとはこのことだろう。
紋様だけで探すなんて出来っこないのは明らかで、この後どうすべきなのか悩むところなのだが、何かあの紋章が引っかかってしかたなかった。




