episode 37 船長として
無言で足早に進んで行くと海面が近くになっていき、やがては浜辺にたどり着いた。
「大丈夫かしら、ライズ」
「彼の実力なら心配要らないだろうさ。
それに、もしかするとファルが助けをしているかも知れないからな。
あたいらはあたいらの出来ることをするまでさ」
「そうね、生きていればまた会うこともあるでしょうし。
行きましょ……って、道分かるの?」
「おおよそは分かるさ。
来た時よりは歩くと思うがね」
そして、歩き出したあたし達は森を通り林を抜け、大毒蛇や戦蟻を一蹴しながら船へとたどり着いた。
「船長、おかえりなさい」
船に上がると海賊の一人がすぐに声をかけてくる。
「遅くなって悪かったね」
「待ってもあと一日でしたぜ。
何か分かりやしたか?」
「ああ、次の行き先が決まったよ。
船長室に人を集めてくれ」
「了解っ」
レディと海賊のやり取りを隣で見ていたら思わず笑いが出た。
「うふふ」
「何がおかしいんだい?」
「船長も板についてきたなぁって思ってさ」
「はんっ!
バカ言うんじゃないよ。
彼らは兵士でもなければ国に仕える者でもないんだ、統率を維持しておかなきゃすぐにでもバラバラになっちまう。
こうして船長の真似事でもしてなきゃカルディアの敵討ちなんて思いも薄れていっちまうのさ」
「そういうもんなのね」
「そういうもんさ。
ましてや彼女みたいなカリスマ性がないんだから、勢いで引っ張っていかなきゃ動いちゃくれないさ」
「ふぅん。
レディは苦労っての見せないのね」
「ははっ。
見せたところで何かしてくれるのかい?
それよりも士気を落とさないようにアテナもいつもの様に振る舞っていてくれよ」
「あたしはいつも通り。
何も変わらないし、変わるつもりもないわ。
さ、あたし達にも行き先を教えてよね」
船長室にある航海図を広げ船の停める場所を探す。
海賊達の話によると砂漠の広がる大地にはあまり行ったことが無いらしく、それならと海賊旗を出さず港街に停泊させ砂漠の民に成りすます計画を立てた。
その為、武器の携帯はおろか、船底に隠して貨物船を装う偽装も行うこととなった。
「大掛かりになったわね」
「仕方ないさ、無益に争うほど暇じゃないんだからね。
知らない土地ならその土地に合わせておくってのが手っ取り早いのさ」
「あたしらはこのままで良いの?」
「あたいらはこのままでも海賊の様には見えないからな。
ただし、状況によってはってやつさ」
「なるほどね。
どれくらいかかりそう?」
「そうさね、四日五日は見といたほうがいいだろうね。
偽装よりも早く着きそうならもう少しはかかると思うが」
「船でもそれくらいかかるのね。
なら、ゆっくりさせてもらおうかしら。
船旅にも少しずつ慣れてきた感じがあるから」
「私は何をしたら良いでしょう、お嬢様」
「ミーニャも好きなことしてて良いわよ?
ここじゃあたしもどこかに行けるわけじゃないんだし」
「は、はぁ」
あたしに付いてきてあたしの世話をすることに喜びを感じているミーニャにとって、何もしないあたしに戸惑いを感じているようだった。
「ミーニャは暇になるって感じなんだね。
だったら、あたいの手伝いとか船の手伝いなんかもしてみるかい?」
「私の出来る範囲であれば」
「慣れないことはさせないさ。
さて、夜も深いところまで付き合わせちゃったね。
アテナ達はもう休んだらどうだい?
あたいは船を動かしてから休むことにするよ」
「そうね、そろそろ休むわ」
椅子から立ち上がり部屋を出ようとしたが、レディが最後に一言投げ掛けた。
「そうそう。
ミーニャは起きたらあたいのとこに来てくれたら良いからね、ゆっくり休んでから来てくれ」
「分かりました。
おやすみなさい」
あたしとミーニャは与えられている自室に戻ると早々に布団を体に巻き付けた。
それからすぐに静かな揺れを感じるとミーニャの寝息が聞こえ、波の音と共にあたしの意識もさらわれていった。




