episode 34 求める物と未来を詠む者
どうすべきか、どう返すべきか悩んで言葉を探しているとレディが声を掛けてくれた。
「ちょっといいかい?
あたいが思うに、結婚やらお付き合いってのは互いの自分本位だと思っている。
この人が好きだから一緒に居たいってね。
それをお互いが思っていて成立するのが結婚なのかなとさ。
だから政略結婚とかは否定的ではあるんだがね。
今の話だとアテナの想いがまるでないし、これだとただの自己中心的発言さ。
それは確かに時が経てば分からないが、分からないからこそ約束も出来ないんじゃないかな?
ま、あたいは笑わせて貰ったから良いんだがね」
場の空気が険悪な方へと進むかと思ったが、そんなことはなかった。
「はっはっはっはっ!
レディ、君は本当に聡明だね。
それは間違いではないと思うよ。
だからこそ楽しくもあり苦しくもあるんだよ人生ってのは。
ではこの話は聞かなかったことにしようか。
予言者でもない私に君たちの未来を決めることは出来ないからな」
ファルは終始にこやかに話し、それにあたしは安堵のため息を吐いたのだが、レディはさっきよりも真剣な眼差しになっていた。
「今何と言った?
未来を読む予言者がいるというのか?」
「おや?
これは口が滑ったかな」
「本当にいるんだな?」
「ねぇレディ?
予言者って予言の書とかのあれ?」
立っていたあたしは座り直し、レディに書物の身振りを見せていた。
「ああ、そうだよ。
にわかに信じられなかったがね、各国に大概と存在している噂話の類いさ。
しかし、今の口振りからするとその者が存在する、していたと聞こえたからね」
「さて、どうだかね。
武器のことについてはライズと出会った縁でもあり教えることは出来るが、それについては答える義理も義務もないが。
それに、居たとしても君たちには何の影響もないと思うが?」
確かに居たとしても居るとしても、あたし達の未来には特に変化はないと思う。
「いやっ!
……違う、何でもない。
そうだな、個人の未来など時の流れから見たら些細なことだろうからな」
「レディ、君は剣よりも向いていることがありそうだね。
私はね、人間のすることは私の手を借りずに解決して欲しいと思い、関わることを避けているんだよ。
魔の者や亜人がこの世界に関わるならば動くことも辞さないと思い世界を見渡している。
だから魔人王を滅ぼすのならば手を差し伸べることはするが、予言者に関して言いたくはないのさ。
しかし、君は予言の流れに呑み込まれた一部かも知れないと思っているのだね。
だとしたら、半信半疑に終止符を打ってもさほど変わらないか。
……予言者は……この世界に今もいる」
あたしは言葉の重みを理解することは出来なかったが、レディにとっては違ったのだろう。
目を瞑り一度軽く頷いていた。
「この話もこれ以上はする気はない。
武器のことが聞きたいんだろう?」
「あたしはそうだけど……。
レディは大丈夫?」
「あぁ、あたいのことはもういいよ。
剣のことを聞こうか」
「では。
かの魔人の襲来時よりも前に創られた武器の一つで、それは神秘力を纏わせた魔を打ち消す剣、煌神刃。
その力を持ってして魔人王ドラキュリアを封じ、復活を案じた勇者が地中に隠しておいたのだが魔人襲来時にその剣を借り受けた者がいた。
その者もまた、その剣により魔人王を滅ぼしたのだがその地を浄化するには至らなかった。
そこでその者はその地に留まり、剣を頼りに民を守る為に力を尽くした。
アテナ。
君の求める物は『渇いた地が果てしなく続き、聖なる王が還る先』にある」
「は?」
何を言っているのかさっぱりだった。
あたしはてっきり、この場所のあそこの誰々が持ってるよと教えてくれるものだと思っていたのだ。
「私が言えるのはここまでだよ。
考え行動するのは君たちなのだから」
「いや、そんなこと言われても……。
ミーニャ意味分かった?」
「き、急に私ですか?
全く分かりませんよ」
「だそうよ?」
………………。
………………。
………………。
黙って待ってみたらちゃんと教えてくれるかと思ったが簡単にはいかなかった。
「私は人間を観察していて人の可能性に興味を抱いているのさ。
それには考え行動することが大事であると思っていてね、小さな助力はすれども大きな手は差し伸べてはいけないと感じている。
アテナ、答えは君が持っているのだよ。
さぁ行きたまえ」
「んんん……。
分かったわよ。
これ以上は何を言っても教えてくれそうもないものね。
ありがと。
手掛かりがあっただけでも助かるわ」
ファルが立ち上がったのを見て、話す気はないと察したあたしも立ち上がり両手を交わすと部屋を後にする。
少ないながらもあった手掛かりに満足しつつもそれは満たされるものではなかったが、ライズに休んでいた部屋まで送ってもらうことにした。




