episode 31 子供な大人
動けるまでに回復したあたしは皆と共に塔の主の元へ向かう為、螺旋階段を上り始めていた。
「これ、目が回るわね。
どこまで行くの?」
「もうすぐだ。
階段は続くが途中の部屋に寄って欲しい。
そこからはすぐ着くからな」
ライズは上りながら振り返り応えてくれた。
「ねぇ、ライズはここで育ったんでしょ?
ならここの主ってライズのお父様ってこと?」
「ああ、本当の父親ではないがな。
あの子らも血は繋がっていなくとも父親と慕うし、オレとは兄弟でもある。
別段変わったことはないさ、母親がいないってだけでな」
「ふぅん、あたしとさほど変わらないのね。
それで何故旅に?
どうしてあたし達を連れて来たの?」
「旅に出た理由をオレの口からは言えないな。
父に促されたとだけは言えるが」
「それで?」
「それで?」
「だーかーらー、どうしてあたし達を連れて来たのよ。
あまり人に知られちゃまずい場所なんでしょ、ここって。
旅に出たってのにおいそれと帰るのもおかしいでしょうに」
「あ、いや、まぁぁぁ……助けてもらった恩返しなのは確かなんだが……」
「それも言えない理由があるってのね。
分かったわ、深くは聞かないことにしてあげる」
そこまで話すと螺旋階段の途中でライズが扉を開け部屋の中へ入って行くのでそれに従いついていくと、特に何もない殺風景な部屋だった。
「誰も居ないし、何もないじゃない」
「ここに居るとは言ってないだろ。
全員、そこに描かれた円陣の中に入ってくれ」
「こう?
何も起きないわよ?」
「それはそうだ。
待ってろ、今唱える」
ライズが何か詠唱を始めると床に描かれた円が眩いばかりの光を放ち、目を開けていられず咄嗟に瞼を閉じた次の瞬間、体が宙に浮くような不思議な感覚が襲ってくる。
だが、それでいて足は床に着いていると自覚は出来ていた。
「目を開けて良いぞ」
ライズに言われてゆっくり目を開けると部屋の様相ががらりと変わっていた。
「違う部屋!?」
「あぁ、外を見て見るといい。
部屋から部屋へと移動してきたからな」
その場から窓の外を見てみても明らかに違い、近づいて見るとはっきりとした。
「ちょ、ちょっと!
めちゃくちゃ高い所よ!
さっきは塔の半分も上がってなかったわよね!?」
「だな。
一気に塔の頂上まで来たんだから、驚いても無理はないと思う」
「魔術か神秘術ってことね。
驚いたわ、一瞬で移動出来る術があるなんて」
「神秘術の瞬間移動だ。
どこにでも行ける訳じゃなく、繋がりを持つ法円でのみ行き来が出来る。
この塔にはそれが幾つもあるんだがな」
「それだと良いわね。
この塔を下から上までなんて上ってらんないわ」
「それもあるが、自衛の為でもあるからな。
侵入者がいたとしてもここまで上ってくることは一苦労だろう。
さあ、行くぞ」
扉を開け幾つかの部屋を通りすぎると豪華な扉の前で立ち止まった。
「ここだ。
では入るぞ。
……父上、客人を連れて来ました」
ライズは軽く装飾のない部分を叩き丁寧な言葉でそれ告げるとゆっくりと扉を開いた。
「はぁぁ!?
子供ぉ!?」
目に飛び込んで来たのは柔らかそうなソファに腰掛ける男の子一人だった。




