episode 17 海賊故に
あたしは戸惑いつつも疑いの目で見つめ返した。
「本当に知っているの?」
「勿論だとも。
カルディアよりは知っているよ、行き先もな」
「なんで知ってんのよ」
「カルディアは海賊の頭、オレは領主としているからな、表向きは。
本来はカルディアが仕切っているんだが、海に出ることもあるからオレが常にここにいる立場ってことになってんのさ」
「それでアリシア達と関わったってこと?」
「そういうこった。
だから、アテナちゃんに対する有益な情報も握ってるってこと」
納得がいった。
実際はカルディアの統率で動いているが、海賊を匿う為に海賊の領主を仕立て上げ、王都からの目を逸らさせていると言いたいのだと。
「だったら仕方ないわね。
レディの頼みでもあるんだから手伝うことにするわ」
「ありがとう、アテナ。
それなら後はこれからどうするかだね。
何かそういった話は聞いたことないかい?」
正直、手伝う気はあったのだが、何せ相手は魔人。
知性を有し、そこらの魔者とは別の存在であり、レディの気でも変わってくれないかと抵抗してみただけだった。
レディは剣の行方について海賊達を見回したが、各々口を開いてもこれと言った話は上がらなかった。
「参ったね、何も無し……か」
「一ついいですかい?」
「なんだい?
何でも言ってくれ」
「オレ達は海賊といってもここからそう遠くにまで行くことはないんだ。
だから他の海賊に聞くってのはどうだい?
根城を持たない海賊ってのは心当たりもあるしよ」
そう大柄の男が話すと他の海賊達は怪訝そうな顔をし出したのを見て、レディは頭を掻き始めた。
「それは悪くない話だとは思うが……皆何か言いたそうだね」
「そりゃそうよ。
言ってる海賊に心当たりがあるからな。
宝という宝を自分達だけの物にする荒くれ者。
他の海賊をも根絶やしにしようとしてる奴らさ。
到底話を聞いてもらえるとも思えなきゃ、情報を教えてくれるとも思えないからな」
「だとしたら、他に何か案はあるのかい?
このままだと仇は取れないが」
レディの問いに海賊達は困惑の表情を浮かべたままだ。
「なら決まりだね。
あたいらの相手は魔人。
そこらの海賊とは訳が違う。
その海賊に臆するくらいなら仇なぞ取りに行けないってことを心しておくんだね。
では明朝、ここで会議を始めたいと思う」
締めくくりの言葉を聞くと険しい顔に戻った海賊達が部屋を後にした。
ただ一人、優男を残して。
「レディ、だっけ?
あんた、オレ達の長になる気はないかい?」
「ん?
あたいが長に?
察するにクリスティアン、あんたがなるんじゃないのかい?」
「んんー、本来ならそうなるとは思うがね。
でもオレは長って柄じゃあない。
交渉には長けていても力がモノをいう海賊の長には向いてないとも思うしな。
それに今の連中はカルディアに着いてきた連中だ。
女性に従うことを何とも思っちゃいない。
奴らは統率力、頭の回転、武力が揃っていたら不満はないのさ。
それに、カルディアの友だったとなりゃ信頼だってしてるしな」
クリスティアンの身振りを踏まえた話術にレディはすぐに反論は出来ずにいた。
「……考えておこう」
苦笑いを浮かべ、あからさまな苦し紛れの言葉にクリスティアンは満面の笑みで返すと、何も言わずに部屋を出て行った。




