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幼女クエスト  作者: 進撃のマシュマロ
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06話

 二人が宿をとり部屋に入ったころ、既に陽は傾き景色はオレンジ色に染まっていた。

 手入れの生き届いた清潔感の溢れる部屋で、奥には化粧台も兼ねた机が一つと、一人で寝るには明らかに大きすぎるベッドが一つ置かれている。


「ベッドが一つしかないのです。大きなベッドに枕を二つおいて二人部屋だなんてふざけているのです。ちょっと抗議してくるです」


 それに気付いたライエが早速クレーマーと化す。


「待て待て、男女二人で一部屋を借りたらそりゃこうなるよ。だから止めただろうが」

「意味が分からないのです。これから先ほどの契約を書面にしないといけないし、今後の方針についても話さないといけないから同室にしてもらったのです。それの何がおかしいのですか」


 やはり基本的に頭はいいのだろう。そして何よりこれからやるべきことをきちんと理解しているあたりは好感が持てる。

 最も、そのようにきちんとしていなければとてもドラゴンなんて倒せはしないのかも知れないが。


「そんな事情は受付の人は知らない。若い男女が二人一部屋を借りに来たから、カップルだと思われてそういう部屋を割り当てたんだろう」

「そういう……部屋?」


 知識がないのか察しが悪いのか。おそらくは後者だと思われる。

 そしてようやく察したらしいライエの顔が、夕日よりも赤く染まっていく。


「こっ……抗議してくるです!」


 先ほどとはその内容が異なっているであろうことは言うまでもない。


「だから待てって、受付は何も間違ってはいないし、世間一般の認識なんてそんなもんだ。だいたい書類や話し合いが必要なのは事実だし、要は俺たちが何もしなければいいだけの話だろ? 気にする必要はないさ」

「むぅ……」


 当人たちにその気がないのなら、それは単に寝床が同じという事以上の意味はない。なければ、だが。


「な……何もしないですよね……?」


 恐る恐るそう尋ねてくるライエは、今までの凛々しくとも小憎たらしい印象とは違い、どこか可愛らしくあった。


「保障はできないな。俺、ガイア教徒だし」


 ハズキが意地悪く笑ってみせると、ライエは、


「ひっ……」


 という声とともに後ずさった。


「冗談だよ。もっとライエが胸とか腰とか身長がでかけりゃ何かしたかも分からんが、生憎俺にそういう趣味はない」


 ライエを安心させるための発言だったのだが。


「な、なんて事を言うですか! 妾は容姿に関しては褒められた事しかないのです。失礼なのです!」

「えぇ……」


 安心させる為に言ったことなのに、どうやらその内容が気に入らなかったらしい。


(こういう面倒臭い所は既に女なんだけどな……)


 しかし言葉には出さない。その程度の学習能力はあるのだ。


「悪い、言い方が拙かったな。ライエはきっといい女になると思うぞ。それこそ周りが放っておかないくらいにな」


 ハズキがそう言い直すと、


「そ、それなら許すです。以後気を付けるです」


 照れくさそうに視線をそらすライエは、やはり外とは違った年齢相応の可愛らしさがあった。




「それじゃあ今から契約書を書くですから、適当に時間を潰してこいです」


 そう言ったライエは背中の杖と思しき物体を壁に立て掛けると、当初から来ていたボロ布に手をかける。


「時間を潰すのはいいが、別にここにいても構わないんだろ? 今日は歩き通しで疲れたからな、少し休ませてもらう」


 ハズキは荷物を乱雑に放り出し、ベッドの上に仰向けになると、何気なくライエの方に視線を向けた。

 その時ちょうどライエはボロ布を脱いでいたのだが、ボロ布の下から現れたのは、魔法師のものと思われる艶やか法衣を身に纏い、ボブカットの輝くような頭髪をハーフアップにしてリボンでまとめた、幼い女神の姿であった。

 人というのは身につけているもの一つでこうも変わるものなのか――いや、ボロ布の隙間から垣間見た容貌も十二分に美しく、そして気品があった。だがそれはあくまで容貌の話。

 ボロ布を脱ぎ去ったライエは、ハズキが思わず息をするのも忘れて見惚れてしまう程に美しかった。

 先ほど冗談めかして、ライエの胸や腰や身長が大きければなんて言ったが、こうなるとそれが逆にありがたい。本当に大きければ、この状況でハズキが理性を保てた保障がない。

 そしてハズキが驚いた理由はもう一つある。ライエの年齢だ。

 しっかりした受け答えや凛とした雰囲気から、ハズキは無意識に、ライエの年齢を二~三歳ほど高めに見積もってしまっていたらしい。だが今、ハズキの目に映る彼女は、もはや幼女と言っても差支えない、そんな年齢に見える。


「……何を見てるですが」

「あ、いや悪い」


 視線に気付いたライエに注意されるが、そもそも美しいものを眺めていたいと思うのは人間の本能で、不可抗力である。

 その美しさは持って生まれた容姿と育ちのよさ、加えてそれらを彩る衣服や装飾品あってのものか。庶民であれば精々その内の一つを満たすの限界だろう。

 そんな格差をまざまざと見せつけられ、ハズキは天を仰いだ。

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