05話
「それで契約の内容ですが、竜を倒してここに戻ってくるまで六〇日程度を予定しているです。その六〇日で五〇〇万ルク。仮にこの日数に満たない段階で妾が死ぬなりして討伐不可能になった場合でも、この金額は保障するです」
さらりと出てきたその金額に、ハズキは目を丸くする。
「六〇日で五〇〇万!? 随分大きく出たな」
五〇〇万。ハズキら庶民が汗水流して働いて、爪に火を灯す思いで五〇年貯蓄を続けてようやく手が届く、そんな金額である。
「その分危険な目には遭ってもらうです。何せ相手はあの竜ですし、それを考慮するなら決して高い金額ではないと思うのです」
「それはそうかもしれんが……」
しかし忘れてはいないか、ハズキはあくまでサポート。直接戦うライエの方が何百倍も危険なのだ。
ライエ自身にも報酬がつくのなら、それは一体どれほど莫大な額になるのか。
「……六〇日の予定と言ったが、仮にこれを超過した場合は?」
「その場合は一日当たり一万ルク払うのです」
「契約期間中の旅費はどうなっている?」
「旅費や食糧等の必要経費はこちらで出すです。それ以外の私的な買い物は自分で払えです」
金額がケタ違いであることを除けば、至って普通の契約内容である。
お金は欲しいが命も惜しい。五〇〇万ルクともなればそれこそ死にそうな目にも何度か遭う事になるのだろう。だが……。
ハズキは目の前にいる小柄な少女に視線を移す。
ドラゴンと戦うと言うからには、彼女は魔法師なのだろう。それも防護なんたらとかいうシールドのないドラゴンと渡り合える程度には優秀な。
察するにハズキよりは一〇歳ほど若いと思われるこの少女が、大の大人でも裸足で逃げ出すドラゴンと戦うというのだ。
金額の問題ではない。ここでもしドラゴンを恐れて契約を拒むようなことをしたらハズキは――――
――――男として、命よりも大切なものを失ってしまうような、そんな気がした。
「……分かった。引きうける」
「本当ですか!?」
「ああ、ライエのような女の子がドラゴンと戦うっていうんだ。大人で男の俺が逃げる訳にはいかないだろ」
とはいえ報酬がなければやってないのは言うまでもない。
「それじゃあこの後食料を買い込んで、明日の朝出発するです。荷物は当然ハズキが持つですよ」
「お、おう……」
立場や体格から考えて、ハズキが荷物を持つのは至極当然の判断ではあったが……。
(頭は良いみたいだが、どう見ても旅慣れしてる感じじゃないよな……? おまけに金持ちと来てる)
余計なものを買って荷物を増やしたりしないだろうか、と、それが心配だった。