03話
「オヤジ、六十九口径の銃を売るのです。それもできるだけ射程の長いやつを」
入店するなりライエは店主にそう詰め寄った。どうやら六十九口径は確定らしい。全くもって意味が分からない。
「あのな嬢ちゃん、銃はオモチャじゃねぇんだ。その気になりゃ……いや、その気がなくても人なんて簡単に殺れる。第一嬢ちゃんのような細腕じゃまともに扱うことすらできねぇ。諦めな」
筋骨隆々の厳ついおっさんだった。
厳つい外見と言葉遣いに反して、売らないと主張するその様は至ってまともである。
「心配するななのです。使うのは妾じゃなくて、そこにいる優男なのです」
(優男って……)
仕事柄、同業者からそう言われることはよくあった。しかし自分よりもずっと年下の、しかも女性に言われて少しショックを受けるハズキであった。
「兄ちゃん、この子の保護者か何かかい? 親にしちゃ随分若ぇ気がするが」
店主が訝しげにハズキの外見を観察する。
親にしては若いが兄弟にしては離れ過ぎ、何より顔が似ていない。そんな所だろうか。
「ただの護衛だよ。心配ならブツは俺が直接受け取る。それでいいか?」
「ふむ……」
店主は逡巡するように顎をかいたかと思うと、次の瞬間ようやく合点がいったとばかりにポンと手を打った。
「なるほどな、厳つい外見だと嬢ちゃんを恐がらせちまうから、兄ちゃんみたいな人が護衛を任されたって訳だ」
(……いやあんたが言うな)
ともかく納得してくれたようでなによりである。
「そういう事ならこの二丁がお勧めだ」
そう言ってオヤジは背後に飾ってあったライフル銃を二丁、壁から外してカウンターに並べた。
一つは木製のシンプルな銃。デザインや装飾が少ない無骨な銃だが、それが却って機能美を思わせる、そんな銃。
もう一つは白い銃。材質は不明だが全体的に白くペイントされていて、銃床には蔦状の模様が絡みついている。
茶色い銃が全体的に角ばった印象を受ける反面、白い銃からは丸っこい印象を受け、女子供に好まれそうな印象を受けた。
「この茶色い方が三八〇〇ルク、白い方が一四〇〇〇ルク。性能は白が上だが、実際のところ大した違いはない。安く済ませたいなら茶色、デザインにも拘りたいなら白ってところか」
「ふむ、では……」
そう言ってライエが選んだのは、案の定というか予想通りというか、白くて高価な方の銃であった。
(本当に金持ちなんだなこの子……)
一四〇〇〇ルクといえば、一般人の月給に相当する。それをポンと出せるライエの実家はやはりかなりの金持ちなのだろう。
「はいよ、ところで嬢ちゃん、弾は何発必要で?」
「そうですね……」
買うのはあくまでライエなので、そこら辺の判断も当然ライエが行う。考えた末にライエは、
「……いらないといえばいらないのですが、失敗されても困るのです。練習用に三〇発ほど買っておくのです」
「あいよ、まいどあり」
店主が奥で弾の準備を始める中、ハズキは一人、今の発言について考えていた。
(本来であれば弾を買う必要はない? しかし失敗したら困るという発言から察するに、何か特別な弾を持っているという事なのか……? もしかして違法兵器の類だろうか?)
ハズキの脳裏にそんな言葉がよぎるが、爪先立ちでカウンターに立つライエがなんだか妙に可愛らしくて、すぐにその考えを捨てた。