きっかけを願う者なり
薄暗い部屋、散乱された衣服、袋でまとめられたものの、捨てることは無いゴミ。
高校1年生の夏にして、才馬 遊の生活は堕落していた。
ポチポチとリズムよくマウスをクリックして、カーソルを動かしてはまたリズムよくクリックする。
「面白いことないかなあ・・・」
試しに独り言を呟くが、聴こえてくるのは多少の耳鳴りとエアコンの音。時刻は午前1時半、完全に昼夜逆転した生活を送っている。
その時、PCモニターの右下の方から
「ピコン」
とメッセージが送られてくる。
「なあ、お前これクリアできるか?w」
その言葉と共に、全く知らないURLも付属されていた。
「なんだよこれ・・・っと」
言葉に出しながらカチカチとタイピングをして、エンターを押す。
するとすぐさま「ピコン」と音がなり
「いいからやってみろって!」
と送られてきた。
「えーっと?なんだこりゃ」
突如フルスクリーンになって、どこかしらの戦争地のようなマップが出てきた。
『戦略ゲーだとさ、なんか一昨日くらいにでて未だに攻略されてないらしい』
『まあ、とりあえずやってみる』
正直戦争ゲーム、俗に言うFPSやTPSは結構やるがそんな得意ではない。
どちらかと言うとSTGやRPGの方が得意で、だからといってそんなにやり込んでる訳では無いのだが、ネットの友人は何故か俺ならいい線いくんじゃないかとURLを寄越してきた。
「まあ、正直ハッキングの方が得意なんだけど・・・ねっ!」
独り言と同時にEnterキーを押し、ゲームをスタートする。
まずは相手の攻め方を見て、とりあえず岩陰と草や木に兵を待機させる。
そこで近づいてきたら、岩陰に隠れていた兵に発砲させ、ヘイトをそいつに向けてから森の方へと走らす。
「んー、とりあえず5人に対して30人か・・・上出来だな。」
そのまま森の真ん中へと集合させると、待機させていた10人で一斉発射。敵は見事に全滅した。
「まあ、デコイは基本しょ。これくらいなら結構かんた・・・」
すると、上空から突如戦闘ヘリと戦闘機が現れ、先程潜伏させていた兵が刹那的速さで死んでいく。
「うっそだろおい、ここから本番って事か」
画面の一番右の方に、コマンドバーがあったので開く。上から順に、空中砲、ロケットランチャー、ジャミング、索敵、望遠鏡、戦闘機、戦闘ヘリ、とある。
どれも一定コストで、これを選択すると右上にあるコストバーを消費するしくみらしい。
ちなみなその下には体力バー、言わば兵数が表示されてある。
今は278/300だ。
「とりあえず、ロケットランチャーや空中砲ほうよりまずジャミングかなあ。」
ジャミングボタンを押してみるが、どうやら変化はない。
「あれ、もっとアタフタして的外れなところ撃ち込むと思ったのに。」
そう思い、何となく望遠鏡のコマンドを押す。結構コストの無駄遣いだと思っていたが、別に一回目でクリアする必要ないと思い画面とまた向き合う。
そして望遠鏡で戦闘ヘリを覗く。
「え・・・。人が・・・いない?」
気になって、戦闘機やほかの戦闘ヘリを除くがどれも人がいない。
「もしかして、AI戦略って事か?」
結構前に聞いたことがある、そのうち戦闘機などに乗るのは人間じゃなく、AIなのだと。そもそもの話、AIが作られたのはそう言った理由で戦闘に用いるためと言う恐ろしい話。
「じゃあ索敵はどうだ・・・お、ヒットした」
索敵レーダーを広げてると、マップ全域の戦闘機と戦闘ヘリがコマンド化できた。
マウスカーソルを一番自軍地に近い戦闘機へ動かしクリックすると、パスワード入力画面が出てきた。
「え、これって・・・ハッキングしろってこと?」
そう思って、自作ハッキング用パスワード生成プログラムを立ち上げる
このプログラムで出来るのは、パスワードで使われてそうな英数字をランダムで最大1万3846通り生成させる事だ。
そして自動瞬時入力プログラムと組み合わせると、一気にパスワードどぶち込むことが出来る。
とりあえず乱数、英数字のパターン、文字数を絞り出し、近いパスワードだけを残しそれを参考にまたパターン化し生成する。
自動瞬時入力プログラムはヒットした英数字のパターンと、そのパスワードの文字数が認識されるためそこから再構築を行う。
そして、ヒットしたパスワードが入力されると・・・
「ビンゴ」
ぺろりと唇を舐めり、指をパチンと鳴らす。
AIの優先度フラグをただちに自分へと書き換え、相手の戦闘機へぶつけ、また新しい敵の戦闘機の権限を奪う。
「こうして敵の本軍へ、ぶつけると・・・」
「これまたビンゴ!」
再び指をパチンと鳴らす。
案外簡単だったなあ〜と頬杖を付きながら、同じ作業を繰り返しとうとう・・・
「「ゲームクリア」」
画面いっぱいにロゴが出てくる。
「ふう」
溜めた息を吐くき
「クリアしたよ〜」
とメッセージを送る。
そして、返信を待たずに満足してそのまま気持ちよく寝るのであった。
────これが、歯車を回すきっかけになったとも分からずに。