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96. 甦りし存在

 剣歯白虎けんしびゃっこ

 リオにそう呼ばれた存在がゆっくりとオレ達に近付いてくる。


「……なんでコイツが、こんなところに」


 リオがファムの肩の上でそんなことをつぶやいた。


 この辺にはいないハズの獣ということなんだろうか?


 見た目は長い牙を持つ白いトラだ。

 確かにオレも、トラっていうのは密林地帯にいるようなイメージがある。

 少なくともこんな砂漠地帯にいるイメージはない。

 もちろんそれは、あちらの世界での話なんだが。


「ほう。こいつを知ってるのか。随分博識じゃねえか。鳥のくせに」

「……お前が、これを蘇らせた・・・・の?」


 なんか、リオの声のトーンが少し低くなった気がする。

 それに、蘇らせたってどういう意味だ?


「くくく。あっはははははははは」


 迷宮の主の、まるで勝ち誇ったかのような高笑いが周囲に響く。

 リオは目を閉じてその高笑いをやり過ごすと、再び口を開いた。

 さらにさらにトーンを下げたような低い声で。


「……もう一度聞くよ。剣歯白虎は、約十万年も前に絶滅した動物のハズ。つまり、こんなところにいるハズがないんだ。これを蘇らせたのは、お前なの?」


 ――なっ!? 絶滅動物……なのか?


「ふははは。ああ、そうだよ。偶然にもかなり保存状態が良さそうな化石を見付けちまってな。面白そうだから、遺伝子情報などから蘇らせてみたのさ。どうよ。なかなか可愛いもんだろう? あっははははは」


 化石? 遺伝子情報? そこから……蘇らせた?


 あちらの世界でも、昔の映画にそんなのがあったと思う。

 確か恐竜を蘇らせるパニック・サスペンス映画だったハズだ。


 だけど、そんなことがホントに可能なのか?

 しかも、バイオテクノロジーなんか全く無さそうなこっちの世界で?

 あまりにもこちらの世界のイメージにそぐわない。

 一体、何なんだ、迷宮の主コイツは。


「……そうか。分かった」


 リオはそう言うと、おもむろにファムの肩から飛び立った。

 だが、その瞬間。


「待ちなさい!」


 そう言ってファムは、すばやくリオの足を手で掴んでしまった。


「えっ!? ちょっ! ファム、何するのさ!」


 いきなりのことに、流石のリオもちょっと慌てたようだ。

 だがそれとは対照的に、ファムは抑揚のない声でリオに向かって口を開いた。


「何をじゃないわ。リオこそ何をするつもりなの」

「何って。剣歯白虎こいつは今のこの世界にいるべき存在じゃない。しかもこんなやつに、いいように玩具にされて……。だからボクが」

「邪魔だから引っ込んでて」

「え?」

「ワタシがやる」

「は?」


 そう言いながら、もちろんリオを放そうとはせず、ファムはラヴィの方に向かって歩き出した。


「ちょっ!? ちょっとファム!」

「リオはさっき、大砂蛇相手に十分暴れたでしょ? だから、次はワタシの番」

「え? ワタシの番って……。いや、でも……」

「でもじゃない。ワタシがやる。これは既に決定事項。文句は言わせない」


 そしてファムはラヴィに向かってリオを差し出した。


 おいおいおい! いつの間に決定したんだ、そんなこと!

 と、いつもならツッコミを入れたいところだが、オレはただ唖然としてその様子を、目を丸くして見ていただけだった。


 それはどうやらラヴィも同じだったみたいだ。

 リオを差し出され、目をしばたかせている。

 そんなラヴィがオレの方をちらっと見たが、オレもあっけに取られてしまって何も言えずにいると、再びファムとリオの方に視線を戻し、そしてよく分からないけどとりあえずといった風に、ゆっくりと両手を前に差し出した。


「そういうわけで、手出しは無用だから」


 そう言いながら、ファムは差し出されたラヴィの手ひらの上にリオを載せると、踵を返し、剣歯白虎のほうに向かってゆっくりと歩き出した。


 一連の行動と、さらに有無を言わさぬファムの宣言に、オレ達は何も言えずにいたが、迷宮の主はそんなことはなかったみたいだ。


「はぁあ? おいおい。そのお嬢ちゃんが相手するのか? この剣歯白虎の?」

「そうよ。それが何か?」


 ファムは後ろに両手を回し、トレンチナイフに指をはめる。

 足取りはゆっくりだが、視線は剣歯白虎から離さない。


 剣歯白虎もまた、口をわずかに開けたり閉じたりして牙を上下させながら、自分に近付いてくる相手を睨んでいるようだ。


「はっ! やめとけやめとけ。自殺行為だろうが。そいつのその牙が見えねえのか? そいつはな、大砂蛇だってその牙で噛み殺しちまうようなやつなんだぞ?」

「あら、ずいぶんと優しいことを言ってくれるじゃない。ノゾキ趣味の出歯亀むっつりスケベのくせに」


 再びファムの口撃・・が迷宮の主に向かって放たれたが、さすがにもう、それで逆上しては来ないみたいだ。


「……オレ様は元々優しいのさ。それにお前のことはちょっと気に入っているんだぜ。だからお前にはもう少し生きてて欲しいのさ。なにせ、お前はオレ様を楽しませてくれる、大事なお色気担当のストリッパー要員なんだからな。ぎゃははははは」


 今、オレからはファムの後ろ姿しか見えていない。

 だから、ファムが今どんな顔をしているのかは分からない。

 でも、ファムのネコ耳がピクピクしているのは分かる。


 ……きっと、オレは見ないほうが幸せなんだと思う。

 っていうか、怖くて見れない。想像することすら怖い気がする。


「……最っ低」


 ファムから、吐き捨てるかのように呟いた声が聞こえてきた。


「ま、早めに降参することだな。もっとも、オレ様が待てと言っても、そいつがとどめを刺すのをちゃんと待つかは保証できんがな」


 その迷宮の主の言葉に、ファムは返答しなかった。

 もはやファムには迷宮の主の声など届いていないのかもしれない。


 ファムと剣歯白虎はお互いを見ながら大きく円を描くように、その円周をなぞるかのようにゆっくりと移動している。

 ファムはもちろんだが、もう剣歯白虎のほうもファムを戦う相手と認識しているのだろう。


 オレはちらっとリオを見た。


 なんか、なし崩し的にファムが一人でこの剣歯白虎に対応するかのような流れになってしまったが、大丈夫なんだろうか?

 もちろんそこらの普通の獣程度なら、ファムが後れを取るとは思えない。

 だが、オレはこの剣歯白虎がどういう獣なのかを知らないんだ。


 以前の紅鎧べによろいのような例もある。

 主にナイフを使う近接戦闘型のファムにとって、何か不利な特殊条件があったりしないかが、少し心配になったんだ。


 だが、リオは特に何も言わない。

 いつのまにかラヴィの手のひらから肩へと移動していて、ラヴィと一緒に静かにファムの方を見ている。


 大丈夫、ということなんだろうか?


 いや、リオだってこの剣歯白虎の詳細は知らないってこともありえる。

 なにしろ約十万年も前に全滅した動物なんだから。

 いくらリオでも、そんな大昔から生きていたわけではないだろう。


 そう言えば、ちゃんと聞いたことは無いな。

 リオは一体何年生きているんだろうか?


 まさか、剣歯白虎の実物を見たこともある……とか言わないよね?

 それこそまさかだよね?


 いや、今はリオの年齢より、ファムのほうだ。

 リオが何も言わないのであれば、特段の心配はいらないのかもしれないが、いざとなったらすぐに飛び込める心構えは必要だ。


 オレは、ファムの方に視線を戻した。

 まだファムと剣歯白虎の睨み合いは続いている。


 空気が張り詰めているのが分かる。

 その緊張感で喉はカラカラに、肌がヒリヒリしそうだ。


 だが、そんな緊迫感も、どこか別のところから見ているだけの迷宮の主には通じない様だった。洞窟内にヤツの怒声が響く。


「……いつまでも睨み合ってんじゃねぇ! やれ! スミロド!」


 スミロドというのは、この剣歯白虎に付けられた名前だろうか。

 そう呼ばれた剣歯白虎が、白い巨体を素早くひるがえし、ファムに向かって飛び掛かった。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


本日12月2日、連載開始してちょうど一年となりました!

ここまで応援してくださった皆様に心より感謝を!

そしてこれからもどうぞよろしくお願いいたします。m(__)m


活動報告のほうにも、少しコメントさせていただきますので、

お時間が許せばどうぞお立ち寄りくださいませ~


では、いつものように次回予告を。

次話「97. 最高傑作」

どうぞお楽しみに!

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