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91. リオ、蹂躙

※ 今回は残酷な描写が存在しますので、苦手な方は御注意ください。

「……何か、いますね」


 次の場所に転送した直後、そう言いだしたのはラヴィだ。

 ヴァルグニールを握りしめながら、周りに視線を巡らせている。

 そしてファムも、頷いて右手を後ろに回した。

 恐らくナイフに手を伸ばしているんだと思う。


 オレは声をひそめながら二人に尋ねた。


「分かるのか?」

「……微かですけど、何かが動いている音と、それに匂いがします」


 ラヴィがそう答えてくれたが、オレには音も匂いもよく分からない。

 だが、オレ達が転送された場所は、今までとは明らかに雰囲気が異なっていた。


 今までに比べたら非常に狭い場所だ。

 せいぜい二メートル四方といったところか。


 天井も低い。こちらもだいたい二メートルくらいか。

 一応立つことには不自由しない程度だ。


 そして暗い。今までも明るいというほどではなかったが、所々にあった淡く光を放つ岩石が、ここはかなり少ないみたいだ。


 ここはそんな、洞窟の横穴の一番奥、といった感じの所のようだ。


 後ろは行き止まりだが、目の前は道のようになっている。

 つまりは、ここを進めという事だろう。

 そしてその先、真っ直ぐ数十メートル程で広い場所に出るような、少し明るくなっているのが分かる。


 何かいるとしたら、あそこということだろうな。

 さて、鬼が出るかじゃが出るか。


「リオ、どうだ? ここから何か分かるか?」

「……うん。どうやら、大砂蛇みたい」


 ……おいおい。ことわざのつもりだったんだが、ホントに蛇が出るのかよ!

 ってか、なんでこんなところに大砂蛇がいるんだ?


 オレはそう疑問を持ったのだが、ラヴィは違ったみたいだ。


「大砂蛇ですか。ちょうどいいじゃないですか。もう一匹討伐しなきゃいけなかったんですから」


 そう言って、ヴァルグニールを持つ手に力を入れている。

 確かにその通りなんだが、その後に続いたリオのセリフには少し驚かされた。


「うん。でも、全部で六匹いるね」


 ――六匹も!?


 なんでこんなところにそんなにいるんだ?

 それに……ノルマ的には、あと一匹でいいんだがな。

 なかなか、うまくはいかないもんだ。


 とりあえずオレ達は唯一の道をできるだけ静かに進み、大砂蛇がいるという場所に向かった。


 正直、ヒヤヒヤしていた。もしオレ達の存在が大砂蛇に見つかって、この道に首でも突っ込まれたら逃げる場所なんかないんだから。


 ファムのナイフはもちろんだが、オレの高周波振動の剣でも難しいと思う。

 ラヴィのヴァルグニールの《爆砕》だって加減を間違えたら、むしろ天井を破壊して生き埋めなんてことにもなりかねない。

 残るはリオの魔法くらいだ。それでなんとかしてもらうしかない。


 そう思っていたのだが、結局は杞憂に終わった。

 大砂蛇に見つからず、オレ達は広い場所のふちにまでたどり着いた。


 広い場所。そう、確かに広い!

 野球場がすっぽり収まるくらいの広さはあるんじゃないだろうか。

 そして、そこに確かに大砂蛇がいた。しかもリオの言う通り六匹も。


 さらに言えば、六匹とも大きい。

 どいつもこいつも、軽く十メートルは超えているんじゃないだろうか。

 事前に教えられていた、成長した個体の一般的な体長は約五メートル程度、という情報を疑いたくなる。


「やはり……」


 リオが大砂蛇たちを見ながらそうつぶやいた。


「どうした?」

「あそこ見てごらんよ。あの尻尾の先がちぎれているヤツ。あいつは地上で取り逃がしたヤツだよ」


 ――なっ!?


 それって確か、砂の中を移動中に突然消えてしまった奴だろう?

 なんでそんな奴がこんなところに!


「たぶん、この場所と地上は、どこかにある転送の魔法陣で繋がっているんだと思う。それを使ってあいつらは地上とここを行き来しているんだ」


 確かにそう考えれば、奴がここにいる理由は分かる。

 そして、奴が突然消えてしまったという理由も。

 だけど、転送を使って行き来しているってことは、もしかして……


「大砂蛇と迷宮の主は、何らかの関係がある?」

「うん。そう考えるのが自然だろうね。たぶんだけど、ここにいる大砂蛇たちは、あの迷宮の主ってやつに飼われているじゃないかな」


 飼っている、か。なるほど。

 そうすると、ここは……


 オレが言葉を発するより早く、ファムが口を開いた。

 その内容はオレの考えた答えと全く同じだった。


「つまりここって、迷宮の主が用意した、大砂蛇の巣ってわけね」

「そういうことだろうね。そしてそう考えると、六匹とも体が異常に大きいことも説明が付くかもしれない。自然の中で育つ個体よりも十分な栄養が与えられているか、もしかしたら何か成長促進の処理が施されているのかもしれない」


 オレはリオのその意見に頷いた。

 その可能性は十分にありえるように思えたから。


 何のためにそんなことをしているか、なんて考えても仕方ない。

 あの迷宮の主の考えなんて分かるハズも無い。

 むしろ、考えなきゃいけないのはこの状況をどうするかだろう。


「トーヤ。この六匹をこのまま放置することは非常に危険だと思う。ここで全て討伐したほうがいい」

「ああ、オレもそう思う」


 オレはリオの提案に素直に頷いた。


 あとは、この六匹をどうやって討伐するか、だな。

 六匹ともかなりの巨体だ。


 どうする?


 いや、基本方針は最初に言っていた通りだ。

 リオに固定バインドしてもらい、一体ずつ片付ける。

 それしかないだろう。


 そう思っていたところに、リオが思いもしなかったことを言い出した。


「大丈夫。ボクが行くから。三人はここで待っててね」


 ――え? リオが、行く?


 リオがそんなことを言うなんて。

 今までそんなことはなかったと思う。


「まあ、いいじゃない。たまにはボクにもやらせてよ」

「……もちろんいいんだけど、その、大丈夫なのか?」

「大丈夫、大丈夫」


 そして、その後にリオは少し声を小さくして言った。


「今、ちょっとだけ、暴れたい気分なんだよね」


 その声はオレにも聞こえた。

 だから、もちろんファムとラヴィにも聞こえていたと思う。

 その証拠に、オレ達は思わず視線を交差させていた。苦笑いとともに。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」


 リオは、まるで散歩にでも行って来るかのような軽い口調でそう言うと、単独で飛んでいき、ちょっととがった岩の上に降り立った。


 そしてその直後、背後に白い車輪のようなものが浮かび上がる。


 ――あれは! さっきの、十二本ずつ連射するやつか。


 車輪がゆっくりと回りだし、徐々にその回転速度が上がる。

 その様子に気付いた一匹がリオのほうに近付いてきた。

 首を持ち上げ、シャアと威嚇してくる。


「じゃあ、いってみようか」


 リオの声がオレの耳に届いたと同時に、十二本の光の矢が放たれる。

 その途端、威嚇していた大砂蛇のあごの下に光の矢が集中して突き刺さり……いや、突き破っていた。


 まさに瞬殺だ。

 頭部と胴体部を引きちぎられて、それでもまだ生き続けられる生物なんて、いるはずもない。


 オレが唖然としていると、その頭部と胴体部がフッと消えてしまった。

 その様子に一瞬だけいぶかしんだが、すぐにリオの宝物庫に収納されたんだと気付いた。


 これによって、さすがに他の大砂蛇たちもリオの存在に気付き、それぞれに威嚇し始めた。


「まずは一匹。さあ、次はどの子かな?」


 リオの尊大とも思えるような声が聞こえてくる。

 その声に反応したかのように、一匹がドンっという鈍い音と共にリオに飛び掛かった。


 体長が十メートルを超えるような巨体が飛び掛かってくるんだ。

 その場にいたらとんでもないプレッシャーだったと思う。

 だがリオは全く慌てる素振りを見せず、光の矢を放った。


 頭から尻尾にかけて、ほぼ等間隔に十二本の光の矢が突き刺さる。

 それどころか、なんとその巨躯を天井に縫いとめてしまった。


「これで、二匹」


 リオのセリフと同時に縫いとめられた大砂蛇が消えてしまう。


 倒した敵が消えてしまうなんて、まるでゲームみたいだと思ったよ。

 報酬とかアイテムとかは、もちろん残されないが。


「ちょっと面倒かな。まとめてかかってきてよ」


 リオの冷ややかな声がその場に低く響き渡る。


 ひときわ大きい個体が、腹部を中心として身体を回転させた。

 薙ぎ払おうとする尻尾がリオを襲う。


「リオ!」


 当たると思い、思わずファムが乗り出して声を上げた。

 だがそれは、リオに当たる直前で不自然なほどピタッと動きを止めてしまった。


 ――固定バインドか!


 体の約三分の一を固定され、もがく個体の横から別の個体が口を大きく開いてリオに飛び掛かる。

 だが、リオの十二本の光の矢がそれを迎撃する。

 大きく開かれた口にすべての矢が突き刺さる。

 さらに十二本。そしてさらに。


 頭部を吹き飛ばされた個体の姿がフッと消えた。


「……三匹」


 固定バインドを受けている個体が体を捻じ曲げ、リオに襲い掛かる。

 だがそれは叶わなかった。

 三匹目と同様、光の矢で頭部を吹き飛ばされ、その場から消されてしまった。


「これで四匹。残りは二匹だね」


 残りの二匹は動いていない。

 先程から威嚇はしているが、リオのほうに近付こうとしていない。


 二匹の内の片方は、尻尾の先がちぎれている。

 大きさからしても、間違いなく地上で相対した奴だろう。

 もしかしたら、その時の経験もあって、不用意にリオに近付くことは危険だと理解しているのかもしれない。


「どうしたのさ。来ないの? こんな小さな鳥相手に、なに躊躇ちゅうちょしているのさ」


 ……よく言うよ。


 それがオレの率直な感想だな。

 普通なら蛇が捕食者で、小鳥は被食者なんだろうけど、もう完全に捕食者と被食者が逆転している。


「来ないなら、こっちから行くよ?」


 その言葉が、まるで合図だったかのように二匹の大砂蛇が動いた。

 ただし、リオに向かって行くのではなく、反転して逃げ出したんだ。


「逃がさないよ?」


 リオがそう言った途端、二匹の大砂蛇の進みが止まった。

 どうやらリオによって尻尾の先が固定バインドされたらしい。

 体はくねくねと動いているが、全然前に進まない。


 そして、リオの声が洞窟の中を響く。


「戦意喪失して逃げ出す相手に攻撃することは本意じゃないけど、君たちは危険すぎる。ここで逃がしたら、今後どれくらいの被害が生じるか分からない。恨むなら、あの迷宮の主とかいうやつを恨んでね」


 その言葉の終わりと同時に、回転している車輪から十二本の光の矢が放たれる。


 その様子は圧巻の一言だった。


 光の矢は一度だけでなく、二度、三度と放たれた。

 もう、大砂蛇が大きいとか小さいとか、そんなこと全然関係ない。

 リオの光の矢は、大きく弧を描き、二匹の頭部を集中的に次々と降り注がれた。


 そして、気付いたときには既に二匹の大砂蛇の姿は消えていた。


「リオちゃん、やっぱ凄い……」


 ラヴィがポツリとつぶやいたセリフだ。

 オレも、全くの同感だ。


 やはり、魔法疑似生命体(チート鳥)は伊達じゃないな。


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


次話「92. 灰小玉鼠の襲来」

どうぞお楽しみに!

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