表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/147

85. 洞窟

 気が付けば、オレ達は薄暗い洞窟のような場所に立っていた。

 足元で白い光を放っている魔法陣が、徐々にその光を弱めていく。


 消えていく魔法陣よりも、オレは周りの様子に視線を向けた。


 水の中だとか、溶岩の中だとか、毒ガスの中だとかでは無さそうだ。

 それが一番心配していたことだったんだ。


 もしそうだったら?

 少なくともオレにはどうすることもできなかっただろう。

 リオのカバーが間に合うどうか。

 それだけがきっと、唯一オレ達が助かる手段だったはずだ。


 それがダメだったら……

 オレ達は全滅するしかなかったと思う。


 だが、胸をなで下ろすにはまだ早い。


 耳を澄ましながら辺りを見回す。

 周囲は大小様々な岩だらけで、少なくともオレが見える範囲に動くモノは無い。

 特にオレ達を襲って来るような敵もいないようだ。


 足元に目を向けてみる。

 平たい大きな岩の上に、今オレ達は立っている。

 どうやら、いきなり崩れるとか、足を踏み外して落下してしまうような場所でも無さそうだ。


 上を見てみる。

 やはりここは洞窟の中のようだ。

 岩盤に覆われているようだが、天井は高い。

 なんか、所々に淡く光っている岩石があるようだ。

 そのせいか、真っ暗というわけではなく、全体的に薄暗いといった感じだ。

 それはともかく、いきなり上から何かが落ちて来るとか、襲われるということも無さそうだ。


「……ふう」


 オレはようやく一安心し、大きく息を吐き出した。


 どんな過酷な場所に転送させられるのかと心配していたが、どうやら単なる洞窟の中だったようだ。


 良かった。

 これなら、ラヴィももちろん無事だろう。

 本当に良かった。


 そう言えば、リオが言っていた「対となる場所」というのは、この足元の岩のことだったのかも知れないな。


 そう考えていた時、ふいに声を掛けられた。


「……そろそろ、降ろしてもらっていい?」

「……え?」


 ファムのその言葉で、オレは今更ながら気が付いた。

 まだ、ファムをお姫様抱っこで抱きかかえていたことに。


 オレは、腕の中で大人しくしているファムに視線を向けた。


 ファムはオレの方ではなく、周囲を見ているようだ。


 油断せずに注意深く周囲を警戒している……ようにも見えるが、頬が、いや頬だけでなく、首まで赤くなっているように見えるのは、オレの気のせいだろうか?


 もしかして、これって、オレに抱きかかえられて、照れている?

 恥ずかしがっている?


 こんな時になんだけど……

 これって、なんか、すごく、かわ……


「……トーヤ?」

「あ、ああ。すまない」


 名を呼ばれて、オレは慌てて、でもそっとファムをその場に降ろした。

 ファムは岩の上に腰を下ろし、前方を見ていて、オレと視線を合わせない。


 まだ照れているのか?

 そんなに照れられると、なんかこっちまで照れくさくなってくるかも……


 そ、そうだよなぁ。

 咄嗟だったとはいえ、オレはうむを言わさず、ファムをお姫様抱っこしちゃったんだよな。


 なんて大胆なことをしてしまったんだろう。


 あ、やばい。

 なんか顔が火照ってきた気がする。


 えっと……えっと……

 な、何か話さないと……

 いや、でも、なんかうまく言葉が出て来ないよ。


 うう……

 がんばれ、オレのポーカーフェイススキル!

 今こそ、その真価を見せてくれっ!


 ファムがオレに背を向けたまま、すっと立ち上がった。


「……ラヴィには、黙ってて」

「……え?」


 何をだ? 何のことだ?


 ファムが少しだけオレの方に顔を向けた。

 だがその視線は下の方を向いている。

 それでも一瞬だけオレと視線を合わせ、そして再び視線を下に向けて呟いた。


「ワタシを、その……だ、抱きかかえていたことを、よ」

「あ、ああ」


 オレは、それだけ言うのが精いっぱいだったよ。

 ファムの赤くなった顔を見ていると、それ以上何をどう言えばいいのか……


 なんか、いつもと違うファムに、調子が狂っちゃうな。


 その時、オレでもファムでもない声が、オレの左肩から聞こえてきた。


「……じゃあ、そろそろいいかな?」


 ――えっ!?


 急に掛けられた声に、正直オレはビックリした。

 ファムもビクッと体が震えたのが視界の隅に映った。


 リ、リオ! お前、いつの間に!


 って、違う!

 いつの間にもなにも、リオは最初からいたんだった。

 ファムの様子に気を取られちゃって、完全にその存在を忘れていたよ。


 ってか、むしろワザと気配を殺していたんじゃないだろうな?

 このチート鳥なら、それくらい苦も無くやりかねないし、むしろ苦労してでもやりそうだ。


「……どうしたのさ、二人とも」


 リオの顔が、なんか妙に、にやにやしているように見えるのは、オレの気のせいだろうか?


 ……きっと、気のせいじゃないだろうな。


「いや、何でもないよ。それよりリオ、ラヴィはどうだ? 何処にいるか、分かるか?」

「うん。前方百メートルほどの所にいるね」


 それを聞いた途端、ファムが駆け出した。

 オレもその後を追いながら、左肩に止まっているリオに問いかけた。


「無事なんだな?」

「うん。もちろん。バイタルサインは既に確認している。体温、脈拍、呼吸、血圧、意識、全て問題無し」


 そんなことまで分かるのか……


 いや、今更驚くようなことじゃないか。

 なんせこいつリオは、チート鳥なんだからな。


「ラヴィ!」


 ファムが走りながら叫ぶ。

 その視線の向こうにいるのはウサ耳娘。

 間違いなくラヴィだ。


 良かった。

 本当に無事なようだ。


 ファムの声に気付いたのか、ラヴィが振り返りながら、オレ達に笑顔で応えた。


「あ、ファム。思ってたより早かっ……うぷっ」


 そのセリフの途中で、ファムがラヴィに飛びついていた。


「ラヴィ、ラヴィ。このバカ! ワタシ達が、どれだけ心配したか!」

「あははは。ゴメンね、ファム。アタシもまさかこんなことになるとは……。トーヤさんもリオちゃんも、心配かけてゴメンなさい」


 追いついたオレに対しても、ラヴィは頭をかきながら素直に謝ってきた。


 そう言えば、一度説教してやる、と思っていたハズなんだが……

 ラヴィの無事な姿を見たら、オレとしてはもう、そんなのはどうでもよくなってしまったな。


 とにかく、本当に無事でよかった。


 でも……

 ファムはまだ、気が収まらない御様子だ。


「……今日という今日は、絶対許さないから。覚悟は、できているよね?」


 そう言うファムの声のトーンは、あきらかに落ちていると思う。

 少しだけ、背中になんか冷たいものを感じた気もしたかもしれない。


 そしてファムは、今の今までラヴィを抱きしめていた手を放し、仁王立ちし始めた。


 それを見て、ラヴィの目が泳ぎだしていた。


「え? えっと、いや、あの……ちょっ、ちょっと待ってよ、ファム。あ、あれは、アタシのせいじゃ……」

「……ラ、ヴ、ィ?」

「や、やだな。ファム。目がすごく怖いよ? ほ、ほらっ! トーヤさんも見ていることだしさ。ね?」

「何が『ね?』よ。安心しなさい。今日はトーヤと一緒に、あなたにじっくりと説教してあげるから」

「……う、そ」


 いや、ラヴィ。

 そんなすがるような目でオレを見られてもだな……


 オレにすがっても無駄だと悟ったのか、ラヴィはファムに視線を戻した。

 そして、その瞬間、一歩右足が後退あとずさっていた。


 オレからは、ファムの後ろ姿しか見えない。

 だから、ファムが今どんな顔をしているのか分からない。


 だが、想像はつくな。


 きっと今、ファムはすごく怖い顔をしているんだろうな。

 それは、見てみたいような、見ない方がいいような……


「ちょっ、ちょっと待って、ファム。分かった。分かったから。説教は後で甘んじて受ける。だから、ちょっと待って」

「往生際が悪いわよ、ラヴィ。あなたはそもそも……」

「そ、そうじゃなくって。ほ、ほら! ほら、あれ! あれを見てよ。なんか面白そうなのがあるんだよ、ここ!」


 そう言って、ラヴィは右手で自分の頭の上の方を指さした。


 オレはその動作に釣られて、上の方に視線を向けた。

 そこには大きなプレートのような岩に、何か規則性を思わせる記号のようなものが描かれていた。


 これって、この世界の文字か?


 オレはこの世界の文字はもちろん読めない。

 翻訳の指輪も、書かれている文字は翻訳してくれない。


「……何、これ」


 ファムも、オレと同様、ラヴィが指差すそのプレートを見ながらそう呟いた。


「リオ? これって、文字か? 何て書いてあるんだ?」


 リオも見上げながら、オレの問いに答えてくれた。


「……『ガンボーズ迷宮』って書いてあるね」


 ……え? 迷宮?


 まさかそれって、ゲームやラノベに登場する、あの迷宮?

 いわゆる、ダンジョン……なのか!


いつも読んでいただき、ありがとうございます!


次話「86. 初めての迷宮探索」

どうぞお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ